法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成29年度(2017年度) 民法 解答例

解答例

 

第1 設問1 小問1

 1 Aは、Bの本件解約は自己都合による解約であるため、本件契約で定めた600万円の違約金条項に基づいて、600万円の支払い請求をすることが考えられる。これに対してBは、本件解除は自己都合による解約ではなく、債務不履行解除(541条)であるため、本件契約の違約金条項は適用されないと反論することが考えられる、

   Bの反論が認められるためには、本件解除が履行遅滞の解除の要件を満たす必要があるところ、以下要件充足性について検討する。

 2 AB賃貸借は「美容室を営む」目的でビルの一室甲を目的物として契約されている当事者の契約上の合意にかんがみれば、美容室営業に適した使用収益をさせる義務をAは負うと考える。本件では、Aが暴力団Cに同ビルの一室を賃貸したことによって、Bの営業が妨害されているところ、Aはかかる義務を怠っている。BはAに対して苦情を申し入れており、債務の履行を「催告」しているが、Aは何らの対応策もとらず「債務を履行しない」。なお、催告に相当の期間を定めて催告する必要はない。C入居が2016年6月でBの解除の通知が同年11月であることにかんがみれば、催告から「相当の期間」が経過しているものと考えられる。

 3 したがって、法定解除の要件を満たす。

  よって、Bの反論が認められ、Aの請求は認められない。

第2 設問1 小問2

 1 BはAに対して300万円の敷金返還請求をすることが考えられる。敷金返還請求権の発生時期が問題となる。

 (1) 敷金の法的性質は、賃貸借契約存続中に生じた債務のみならず、契約終了後に賃借人が賃貸人に対して負担する一切の債務を担保するものである。

   そこで、敷金返還請求権は、当該賃貸目的物の明渡しを待って発生する[1]ものと考える。

 (2) 本件では、BはAに対して未だ甲を返還しておらず、明渡しがされていない。

 (3) したがって、本件では敷金返還請求権が発生しておらず、Bのかかる請求は認められない。

 2 AはBに対して、賃貸借契約終了に基づく甲明渡し請求をすることが考える。これに対して、Bは、敷金が返還されるまでは甲を明け渡さない、との同時履行の抗弁権(533条)もって反論することが考えられる。賃貸目的物返還請求と敷金返還請求が同時履行の関係にたつかが問題となる。

 (1) 前述のとおり、敷金は賃貸目的物の明渡しを待って発生するところ、両債務の同時履行関係を認めることは敷金の法的性質に合致しない。また、両債務は一個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるとはいえないし、両債務の間に著しい価値の差が生じることもあり、同時履行の関係を認めることが必ずしも公平の原則に合致するものとはいえない。

    そこで、賃貸目的物の明渡し義務が先履行義務になる[2]と考える。

(2) したがって、Bの反論は認められず、Aの請求が認められる。

第3 設問2

1 (1)について

(1) 本件では、債権譲渡の通知がなされたにとどまるため、債務者は債権譲受人に対して、譲渡人に対して生じた事由をもって譲渡人に対抗できる(468条2項)。したがって、Bは原則として錯誤無効(95条本文)の抗弁をCに対し対抗できる。

(2) もっとも、そもそもCが錯誤について重大な過失があった場合には無効を主張することができない(95条但し書)ため、かかる場合には、Cから履行を拒絶できない[3]

(3) さらに、取引の安全を図るため錯誤無効にも96条3項が類推適用される[4]ところ、無効主張前に法律関係にはいった「第三者」たるCが錯誤の事実について善意無過失である場合も、Cからの履行を拒絶できない。

2 (2)について

(1) 前述のとおり、BはCに対して「譲渡人に対して生じた事由」をもってCに対抗できるところ、BはCからの履行を拒絶できるのではないか。

ア そして、「譲渡人に対して生じた事由」とは抗弁発生の基礎となる事由をいい、抗弁が発生する一般的抽象的可能性があれば足りる[5]

 イ 本件では、解除の抗弁が問題となっているところ、抗弁の基礎となる契約成立は通知までに存在していた。

 ウ したがって、Bは解除の抗弁をCに対抗できる。

(2) もっとも、Cは自己が「第三者」(545条1項但し書)にあたるため、Bはかかる抗弁をCに対抗できないと再反論することが考えられる。

 ア 解除の制度趣旨は、債権者を反対債務から解放する点にあるところ、解除の効果は法律効果の遡及的消滅と考える。そうだとすれば、545条1項但し書の趣旨は、解除の遡及効によって取引の安全を害される第三者を保護する点にある。

   そこで、「第三者」とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者をいうと考える。

 イ 本件では、Cは解除された契約から生じた債権そのものを譲り受けており、解除された契約から生じた法律効果を基礎としてはいない[6]

 ウ したがって、Cは「第三者」にあたらない。

    よって、Cの再反論は認められない。

 (3) 以上より、BはCからの履行を拒絶できる。

3 (3)について

(1) Bは債権譲渡通知よりも前に取得していた債権を自働債権とする相殺の抗弁をもって、Cに対し対抗することができるか。

(2) 「譲渡人に対して生じた事由」の意義は前述のとおりであるところ、反対債権の取得はかかる事由にあたるといえる。また、相殺の担保的機能は最大限保護されるべきである。

   そこで、債務者は、債権譲渡通知前に自働債権を取得している限り、債権の弁済期の先後を問わず、相殺適状に達すれば、相殺をもって譲受人に対抗できると考える[7]

(3) 本件では、債権譲渡通知の時点で自働債権たる債権βをBは有している。

(4) よって、Bは債権βの弁済期が到来すれば、Cからの履行を拒絶することができる。

以上

 

[1] 最判昭和48年2月2日参照。

[2] 最判昭和49年9月2日参照。

[3] 改正法95条3項参照

[4] 改正法95条4項参照。

[5] 最高裁昭和42年10月27日参照。

[6] 大判大7年9月25日。反対説も有力であるが、判例を否定するほどの説得性はないと思われる。

[7] 最高裁昭和50年12月8日参照。なお、改正法469条1項参照。