法律解釈の手筋

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平成27年度 予備試験 刑法 解答例【賄賂:共同正犯、横領(窃盗):間接正犯構成】

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以下の解答例は、もう1つの解答例と比較参照しながら検討されることをおすすめします。

解答例

第1 丙及び丁の罪責

 1 丙丁が共謀の上、丙が、甲との間で公共工事をA社と契約し、そのお礼として50万円を受け取る旨の約束をした後、丁が現金50万円を受け取った行為に、受託収賄罪の共同正犯(60条、197条1項後段)が成立する。

 (1) 丙丁は共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 一部実行全部責任の処罰根拠は、各行為者が作業分担を通じて、犯罪実現のために本質的な役割ないし重要な寄与を果たした点にある。そこで、①共犯者間の共謀②共謀に基づく実行行為が認められる場合には、共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

   イ 本件では、丙は丁に対し「私の代わりにもらっておいてくれ。」と言い、丁は甲丙間の今までの経緯を認識した上で、後述のとおり賄賂を収受しているため、丙の上記依頼を承諾したといえる。したがって、丙丁間に意思連絡が認められる。

丙は甲と収賄罪の受託という実行行為の一部を担当しているし、丁は収受という実行行為の一部を担当しているところ、丙丁にはそれぞれ重要な役割が認められる。

丙は50万円の利益帰属者である点で自己の犯罪として遂行する正犯意思を有している。丁は丙の妻であるところ、丙と経済的一体性を有している。そうだとすれば、50万円の丙への利益帰属に重大な利害関係を有しているところ、本件犯罪にについて正犯意思を有する。

以上にかんがみれば、丁丙間に50万円についての受託収賄罪の共謀が認められる(①充足)。

50万円は、公共工事の契約を取ることができたらそのお礼として渡す旨約束しており、丙の職務行為に対する不正な報酬たる「賄賂」にあたる。丙は、かかる50万円を受領し「収受」しているところ、共謀に基づく実行行為が認められる(②充足)。

   ウ したがって、丙丁は受託収賄罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) 丙丁は上記事実を認識認容しているところ、故意(38条1項)が認められる。

 (3) 丙はB市職員であるところ「公務員」(7条1項)にあたる。丁は、公務員ではないものの、65条1項により受託収賄罪が成立する。

   ア 65条の意義は、その文言から、65条1項は真正身分犯の成立科刑を定め、65条2項は不真正身分犯の成立科刑を定めたものと考える。

   イ 収賄罪の保護法益は職務の公正及びそれに対する社会の信頼であるところ、公務員しか法益侵害をなし得ないため、真正身分犯である。

   ウ したがって、65条1項により、丁にも受託収賄罪の共同正犯が成立する。

 2 以上より、丙丁には、受託収賄罪の共同正犯が成立し、それぞれかかる罪責を負う。

第2 乙の罪責

 1 乙が、甲に対し、手提げ金庫の中から50万円を取り出して賄賂として使用するように依頼した行為に、窃盗罪(235条)が成立する。

 (1) 乙は、自ら手提げ金庫の中から50万円を取り出したわけではないものの、なお実行行為性が認められる。

   ア 実行行為とは、法益侵害惹起の現実的危険を有する行為であり、かつ、正犯性を障害する特段の事情のないことをいう。正犯性とは、犯罪の結果発生の因果経過を目的的に支配することをいう。

     そこで、実行行為性が認められるためには、①被利用者を道具として利用し、②正犯意思が認められ、③利用行為に法益侵害惹起の現実的危険性を有することが必要と考える。

   イ 本件では、被利用者甲は、総務部長として用度品購入用現金を管理する立場にあり、かかる立場に基づいて50万円を金庫から取り出しているところ、自らの意思に基づき行為を行っているといえ、乙の甲に対する行為支配性がないとも思える。しかし、甲は乙に対して恩義を感じていたことから、専ら乙を助けることを目的として上記行為に出ているところ、正犯意思に欠ける。そうだとすれば、甲はいわゆる故意ある幇助的道具にすぎず、乙はそのような甲を道具として利用していたといえる(①充足)。A社営業部長の乙は、社長から「6月の営業成績が向上しなかった場合、君を降任する。」と言い渡され、なんとかB市と公共工事の契約を締結したいと考え、本件窃盗罪の犯行を計画しているため、自己の犯罪として遂行する正犯意思が認められる(②)。また、乙の上記行為は、A社の意思に反して甲という第三者の占有に移転する現実的危険性を有する行為である(③充足)。

     したがって、乙の上記行為は、窃盗罪の実行行為性が認められる。

 (2) 乙は、後述のとおり、50万円を金庫から取り出して、第三者乙の占有に移転して「窃取」した。乙の上記行為とかかる結果との間には因果関係も認められる。

 (3) よって、乙の上記行為に窃盗罪が成立する。

 2 乙が、甲をして、丁に50万円を渡した行為に、贈賄罪(198条)が成立する。

 3 以上より、乙の一連の行為に①窃盗罪②贈賄罪が成立し、①②は併合罪(45条前段)となる。乙はかかる罪責を負う。

第3 甲の罪責

 1 甲は、前述のとおり正犯意思に欠けるところ、甲が50万円を手提げ金庫から取り出した行為について、実行行為たる「横領」行為にあたらないため、業務上横領罪(253条)は成立しない。

 2 甲の1の行為について、窃盗罪の幇助犯(62条1項、235条)が成立する。

(1) 甲の上記行為は「窃取」の「幇助」にあたる。

ア 「幇助」とは、実行行為以外の方法で、正犯者の結果発生を容易にすることをいう。

イ 本件では、甲は前述のとおり正犯意思が認められないため、正犯性を障害する特段の事情が認められ、「窃取」行為にはあたらない。しかし、上記行為は「窃取」行為の直接的な行為であり、乙の窃盗罪の結果発生を容易にする行為といえる。

ウ したがって、甲の上記行為は「幇助」行為にあたる。

(2) よって、甲の上記行為に窃盗罪の幇助犯が成立する。

3 甲が、丁に50万円を渡した行為に贈賄罪の幇助犯(62条1項、198条)が成立する。

4 以上より、甲の一連の行為に①窃盗罪の幇助犯②贈賄罪の幇助犯が成立し、甲はかかる罪責を負う。

以上