法律解釈の手筋

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令和4年度(2022年度) 慶應ロー入試 民法 解答例

解答例

第1 設問1

1 Eは、Cに対し、本件賃貸借契約に基づく賃料支払請求をすることが考えられる。かかる請求が認められるか。

(1) AはCに対して、2017年10月20日、月額50万円、賃貸期間を2017年11月1日から2022年3月31日までと約定して、本件建物を貸し付けた。

(2) Eは、Aに対し、2021年3月21日を弁済期とする500万円の売掛代金債権を有していた。

(3) Eは、Aとの間で、2021年4月10日、上記500万円の売買代金債務の弁済に代えて、AのCに対する賃料債権のうち、2021年5月分から2022年3月分を譲渡した(以下、かかる債権譲渡を「本件債権譲渡」という。)。

ア これに対して、Bは、本件債権譲渡は無効であると主張することが考えられるが、以下のとおり、かかる主張は認められない。

イ 債権譲渡は、意思表示の時に債権が現に発生していることを要しないところ(466条の6第1項)。もっとも、いかなる債権でもまとめて譲渡が可能と解すると、一般債権者が債務者の責任財産を把握することができず、不測の損害を被る。そこで、目的債権が他の債権との識別可能性を有している場合には、公序良俗(90条)に反せず、有効であると考える。具体的には、目的債権の始期終期を明確にするなど、適宜の方法により特定すべきであると考える。

ウ 本件では、譲渡対象債権が、2021年5月分から2022年3月分までの賃料債権という形で、目的債権の始期終期が明確になっている。

エ したがって、本件債権譲渡は有効であり、Bの主張は認められない。

(4) 本件債権譲渡の通知が、2021年4月11日にCに到達しており、債務者対抗要件を具備している(467条1項)。

2 これに対して、Cは、2021年6月10日に本件建物をAから買い受けており、これによって、AのCに対する賃料債権は混同により消滅した(520条)、と反論することが考えられる。

(1) 本件建物は、賃借人Cに引き渡されており、Cが賃貸借の対抗要件を備えているところ(借地借家法31条)、AからCの本件建物の譲渡によって、賃貸人たる地位はAからCに移転した(605条の2第1項)。したがって、本件賃貸借契約の債権者もCとなり、本件賃貸借契約の「債権及び債務」がCたる「同一人に帰属した」。

(2) これに対して、Eは、自己が「第三者」(520条但し書)にあたることを理由として、Cの上記主張は認められない、と再反論することが考えられる。

ア Eは本件賃貸借契約の当事者及びその包括承継人ではないため「第三者」にあたる。

イ また、本件賃貸借契約に基づく賃料債権は、上記の債権譲渡たる「権利の目的」となっている。

ウ したがって、Eの再反論は認められ、Cの反論は認められない。

3 よって、Eのかかる請求は認められる。

第2 設問2

1 EはCに対して、EのCに対する500万円の売掛債権を被保全債権として、AC間の本件建物の売買契約(以下、「本件売買契約」)について、詐害行為取消請求(424条1項)をすることが考えられる。かかる請求は認められるか。

2 本件売買契約は、詐害行為(「債権者が…知ってした行為」)にあたる。

(1) 詐害行為といえるためには、①行為の客観的性質②行為の主観的要素③債務者がとった手段の相当性を総合的に判断して決する。

(2) 本件では、Aは、2021年4月5日、銀行取引停止処分を受けており、事実上倒産状態に陥っているため、本件売買契約時点において債務超過にあったといえる。また、同年4月時点での本件建物の時価は4000万円であったにもかかわらず、本件売買契約における本件建物の価格は3500万円となっており、廉価売却がなされている。上記の点について、Aは当然認識している。

(3) したがって、本件売買契約は詐害行為にあたる。

3 これに対して、Cは、本件売買契約が詐害行為にあたることを知らなかったと反論することが考えられるが(424条1項但し書)、かかる反論は以下のとおり認められない。

(1) 受益者が法人の場合、当該法人の取締役のうち1人でも詐害行為の事実について認識していれば、取締役会決議を開催することで当該詐害行為を回避することができる以上、悪意であったと考える。

(2) 本件では、Cの取締役であるBは、Aの代表取締役であるため、Aが、銀行取引停止処分を受けたこと、及び本件建物の時価が4000万円であったことについては、当然に認識していたといえる。

(3) したがって、Cは、詐害行為について、悪意であったといえる。

4 次に、Cは、本件建物に設定されていたDの根抵当権設定登記が抹消されているため、財産の返還が困難であり、現物返還は認められず、500万円の限度でのみ価額償還請求が認められるにすぎない、と反論することが考えられる。

(1) 詐害行為の目的物について、財産の返還が困難であるときは、債権者は、価額償還請求ができるにとどまる(424条の6第1項後段)。

(2) 本件では、本件建物に付着していたDの根抵当権設定登記が抹消されているところ、現状に回復することが困難である。

(3) したがって、本件では財産の返還が困難であるため、Eは価額償還請求ができるにとどまる。また、価額償還請求であれば、「目的が可分」であるといえるため、Eは自己の債権の額の限度においてのみ、請求することができる(424条の8第1項)。

6 以上より、Eは、Cに対して、500万円の価額償還請求の限りで詐害行為取消請求が認められる。

以上