法律解釈の手筋

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平成30年度 新司法試験 商法 再現答案

再現答案

 

第1 設問1

 1 Dは甲社に対し、会社法(以下法名略)433条1項1号に基づく会計帳簿閲覧請求をしているものと考えられる。

 2 Dは甲社株式の200株を有しており、総株式1000の内2割に相当するため、「議決権の100分の3以上の数の株式を有する株主」にあたる。また、総勘定元帳は「会計帳簿」「に関する資料」にあたり、直近3期分と特定もされている。

 3 これに対して、甲社は、同条2項1号の「調査以外の目的」にあたり、Dの請求は認められないと反論することが考えられる。

   Dは甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っているかどうかなどは本当はどうでもよいと述べているところ、請求の目的は「権利の確保……以外のも奥的といえる。

   したがって、同号に該当する。

   よって、Bのかかる反論は認められる。

 4 また、もし仮に上記反論が認められないとしても、甲社は、Dが同項3号の「実質的に競争関係にある……もの」にあたり、請求は認められないと反論することが考えられる。

 (1) 同項の趣旨は、競争関係にあるものに情報が開示されることにより、会社が著しい損害を被ることを防止する点にある。

    そこで、上記趣旨が妥当するような場合には、実質的競争関係にあたると考える。

 (2) 本件では、甲社はハンバーガーショップを営んでおり、他方、Dはハンバーガーショップを営む乙社の発行済株式総数をすべて所有している株主であるところ、甲社とDは事業において競合している。しかし、甲社の経営は関東地方のP県でのみあり、乙社の経営は近畿地方のQ県であるところ、市場においては競合していない。また、甲社は将来的にも近畿地方に出店する予定はないところ、乙社に甲社の情報が開示されることによって、甲社が著しい損害を被るとはいえない。

 (3) したがって、「実質的に……あるもの」にあたる。

    よって、Dの反論は認められない。

第2 設問2 (1)

 1 本件決議1について

 (1) Cは、本件決議1においてAが「特別の利害関係を有する者」(831条1項3号)にあたり、解任に賛成したことが「著しく不当な決議」にあたると主張することが考えられる。

 (2) 「特別の利害関係を有する者」とは、株主の地位をなんらかの意味で離れた個人的利害関係を有する者をいう。

    本件は、Cを取締役から解任する旨の議案である。経営の方針を巡って、AとCとの間で対立が生じていた。Cが解任されれば、Aは自己の思うままに甲社の経営を指揮することができる。そうだとすれば、本件議案について、Aは株主としての地位を離れた個人的な利害関係があったといえる。

    したがって、Aは「特別の利害関係を有する者」にあたる。

 (2) そして、そのようなAが本件議案に賛成したことによって、本件決議は可決されており、「著しく不当な決議」がなされたといえる。

 (3) もっとも、裁量棄却(同条2項)が認められないか。

    仮にAが決議をしなかったとしても、B及びDの賛成によって、結局本件決議は可決されていたのであるから、上記瑕疵は、「決議に影響を及ぼさないもの」だったといえる。

 (4) したがって、Cの主張は認められない。

 2 本件決議2について

 (1) Cは、AがCの提案の理由を説明しようとしたのを制止し、直ちに最決に移ったことが、取締役の説明義務(314条)に反し、「決議の方法が」「法令」に「違反」すると主張することが考えられる。

 (2) まず、Cは株主でもあるところ、株主としての地位に基づき説明を求めることができ、それに対して自ら説明をすることができるといえる。

 (3) 説明義務違反の生じる範囲は、株主が決議について正常に判断できるために必要な範囲について生じる。

    Cが説明しようとしたAの不正なリベートの受取という事実は、Aが甲社の取締役としてふさわしい人物であるかどうかを判断する上において非常に重要な内容であるところ、取締役にはこの点について説明義務が生じる。

 (4) 説明義務の履行は、一般的株主が合理的な判断をするために必要な程度の説明が求められると考えるところ、本件では、Cが上記事実について説明しようとしたにも関わらず、Aはそれを制止し、直ちに採決に移っているのであるから、何らの説明もなされておらず、一般的な株主がAの取締役の解任において適切な議決権行使をするに足りる説明がなされたとは到底いえない。

    したがって、本件決議2には、説明義務違反の法令違反が認められる。

 (5) もっとも、裁量棄却(831条2項)が認められないか。

確かに、経営対立のあるAと、その議決権の代理行使をAに委任しているDが本件議案に反対すれば、「決議に影響を及ぼさない」しかし、上記瑕疵は、株主総会の適正な手続に反するため「重大な違法」といえる。

    したがって、裁量棄却は認められない。

(6) よって、Cの主張は認められる。

第3 設問2(2)

 1 Aの責任

 (1) Cは株主代表訴訟(847条1項)として、Aの甲社に対する423条1項責任を追及することが考えられる。

 (2)  Aには、本件契約について423条3項1号により任務懈怠が推定されないか。

ア 本件契約は間接取引(356条1項3号)にあたるか。

     同条の趣旨は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることを防止する点にある。そこで、会社と取締役の利益が実質的に相反する取引の場合には、間接取引にあたると考える。

     本件では、甲社は本件契約において、Gの丙に対する債務について連帯保証をしている。これに対して、AはGに株式を取得させることで、Cを取締役から解任させ、自らが取締役として経営権を握ることができるという利益を有する。そうだとすれば、本件契約は、会社と取締役との間で、利益が相反する。

     したがって、本件契約は間接取引にあたる。

   イ 甲社は丙に対して800万円を弁済し、Gに対して求償請求をしたが、Gがこれに応じず、800万円の「損害」が生じている。かかる損害は、上記間接取引との因果関係が認められる。

   ウ したがって、Aには任務懈怠が推定される。

 (3) Aは、Gが資力のないことについて知っており、将来求償できないことについて予見可能であったにも関わらず、それに反して本件契約を締結しているため、少なくとも過失が認められる。

(4) よって、Aには423条1項に基づき800万円の損害賠償責任が認められる。

第4 設問3

 1 Bは、相続によりBが承継した450株の一部である401株のみの売渡し請求をすることは、174条の趣旨に反し、許されないと主張する。

 2 同条の趣旨は、相続等の偶然の事情による一般承継によって、好ましくない者が株式を取得することを防止する点にある。

   そこで、会社としては、承継による株式の全部の売渡し請求をすることで趣旨を全うできるのであるから、株主が承継した株式の一部のみを売渡し請求することは許されないと考える。

 3 したがって、本件でも、450株の内401株のみを売渡し請求した本件請求は174条の趣旨に反し、許されない。

第5 設問2(2)

 2 Gの責任

  CはGに対して何らの請求もできない。

以上

 

 

解答実感

・約3000字(思考時間55分/答案作成時間65分)

・ゴミ答案その2。予備合格者がみんな利益供与に気付くと思われては困る。笑

・ここまで筋が悪いと、どんな書き方したかは完全に忘れてしまう。正確に再現できるってのは、それだけぶれなくその問題を構成できることを意味するから、それだけで合格推定働くなぁ、と思う。囲碁の棋譜を覚えていられるのに少し似ている…。

・おそらく、疲れはこの科目の時間帯がピークだった。問題も過去最高レベルに難しかったのでは?と思わせる難問。設問2の筋がわからず、焦るラスト30分。「何らの請求もできない」なんて、めちゃくちゃ久々に書いたなぁ…。

・設問2のような問題が説得的に書ける人は本当に会社法が得意なんだろうな、と思わせるような、そんな問題。手も足も出なかったから、逆に後悔はない。言い訳もない。

・予想順位は……どんなものだろうか? 利益供与に気づく人がどれくらいいるのかによるなぁ。2000位以内に入ってくれるならありがたい…。