法律解釈の手筋

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『ロースクール演習 民事訴訟法[第2版]』 問題6 解答例 【勅使川原説ver.】

 

解答例

 

【勅使川原説ver.】

 

第1 設問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)

 1 Xの「Aは生存中に甲土地をCに贈与していた」との主張は、前訴既判力(114条1項)に抵触し、裁判所は審理・判断することが許されないのではないか。

 (1) まず、前訴既判力が後訴に及ぶか。

ア 既判力とは、前訴確定判決の後訴での通用性ないしは基準性をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

     そして、前訴既判力が後訴に及ぶかどうかは、前訴後訴の訴訟物が①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にある場合であると考える。

   イ 本件では、前訴訴訟物は、Yの甲土地所有権であるのに対し、後訴訴訟物はXの甲土地所有権である。そして、どちらの訴訟もXYが訴訟当事者となっており、一物一権主義を媒介として矛盾する関係にあるといえる(③充足)。

   ウ したがって、前訴既判力が後訴に及ぶ。

 (2) 次に、前訴既判力が、上記Xの主張に作用するか。

   ア 裁判所は、前訴既判力に矛盾抵触する当事者の主張を排斥しなければならず(消極的作用)、前訴既判力の内容を後訴での判決の基礎としなければならない(積極的作用)。

   イ 本件では、前訴既判力の客観的範囲はYの甲土地所有権の存在であり、それが前訴の事実審口頭弁論終結時を基準時として(民事執行法35条2項参照)、XYとの間で及んでいる(115条1項1号)。

   ウ 後訴のXの上記主張は、CがXの父であること、Cが死亡していること、という事実の主張と併せて、甲土地のX所有権の存在を基礎づける事実である。しかし、かかる事実は、前訴既判力の基準時よりも前の事情であり、Yが甲土地を所有していることと一物一権主義を媒介として矛盾抵触することになる。

     したがって、裁判所は、Xのかかる主張を排斥しなければならない(消極的作用)。

   エ よって、裁判所は、Xの上記主張を審理・判断することは許されない。

2 そして、本件後訴において、Xは前訴既判力と矛盾抵触しない主張をしておらず、Xの所有権を基礎づける事実の主張はなんらなされていない。

  以上より、裁判所は、請求棄却判決をすべきである。

第2 設問2

 1 「Cは生存中に甲土地をAに贈与していた」との主張は、前訴既判力に抵触し、裁判所は、審理・判断することは許されないのではないか。

 (1) まず、前訴既判力が後訴に及ぶかどうかであるが、設問1と前訴・後訴の訴訟物は同じであるため、前述のとおり、前訴既判力が後訴に及ぶと考える。

 (2) 次に、前訴既判力が後訴に作用するか。

   ア 本件では、前訴既判力の客観的範囲はYの甲土地所有権の不存在であり、それが前訴の事実審口頭弁論終結時を基準時として(民事執行法35条2項参照)、XYとの間で及んでいる。

   イ 後訴のYの上記主張は、AがYの父であること、Aが死亡していること、という事実の主張と併せて、甲土地のY所有権の存在を基礎づける事実である。しかし、かかる事実は、前訴既判力の基準時よりも前の事情であり、Yが甲土地を所有していないことと、一物一権主義を媒介として矛盾抵触することになる[1][2]

    ウ したがって、裁判所は、Xのかかる主張を排斥しなければならない(消極的作用)。

    エ よって、裁判所は、Yの上記主張を審理・判断することは許されない。

 (3) 本件後訴において、Yは前訴既判力と矛盾抵触しない主張をしておらず、Xの所有権を基礎づけない事実の主張はなんらしていない。そして、Xの所有権を基礎づける事実は認められるとの心証を、裁判所は形成している。

    以上より、裁判所は、請求認容判決をすべきである。

以上

 

[1] ここで、一つ難解な疑問が生まれる。本問において、Yが「Aの死亡によりYが相続して甲土地の所有者となった」という部分の主張をしていない場合、既判力は作用するのであろうか。「Cは生存中に甲土地をAに贈与していた」という事実の主張だけでは、Yが甲土地所有権を有していないことと矛盾しない。その後、Aが更なる第三者Dに甲土地を譲渡していることもあり得るからである。実は、本件後訴との関係で抗弁となるのは、Yの「Cは生存中に甲土地をAに贈与していた」という事実のみであって、相続云々は余計な事実主張である。つまり、本問でYは、余計な主張をしてしまったがために肝心の抗弁事実の主張も既判力により排斥されることになってしまったのである。しかし、これは、あまりにも不都合な結果といえないだろうか。翻って考えてみれば、Y主張の事実を一体のものとして評価し、既判力の遮断を導いていることがそもそも不当といえる。そうだとすれば、勅使川原説を前提にしたとしても、Yの上記主張は既判力と抵触しないと考える方が妥当なのではないだろうか。上記参考答案例は、本書解説を前提に答案を作成しているため、Yの主張を遮断する方向で立論しているが、私見としては、既判力は作用しないと考える立場に共感を覚える。

 以上のように、勅使川原説によっても、通説的見解と異なる結論が導かれるものではないと思われる。

[2] 更に翻って、設問1についても検討をし直す必要がある。設問1においても、Xの主張を一体として評価し、既判力を作用させているからである。要するに、「Aは生存中に甲土地をCに贈与していた」という事実の主張のみでは、Xの甲土地所有権の存在を基礎づけないことは、設問2と同様だからである。が、しかし、設問1ではなお既判力が作用すると考えられると思われる。設問1では、後訴訴訟物がXの甲土地所有権であり、Xとしては、自己の甲土地所有を基礎づける主張をしなければならないのである。すなわち、Xの主張は、すべてXの甲土地所有を基礎づける主張といい得るのであり、これは、Yの甲土地所有権の存在という前訴既判力と矛盾する。したがって、Xの主張は、前訴既判力基準時以降の主張でない限り、前訴既判力と矛盾抵触して既判力によって排斥されるか、あるいは、有理性を欠くとして却下されるのだと思われる。よって、設問1の解答の帰結は妥当である。