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『ロースクール演習 民事訴訟法[第2版]』 問題8 解答例 【争点効肯定説ver.】

 

解答例

 

【争点効肯定説ver.】[1]

第1 設問1

 1 第1に、「XY売買契約は詐欺によるものである」とのXの主張は、前訴既判力(114条1項)に抵触し、遮断されないか。前訴既判力が後訴に作用するか。

 (1)  既判力とは、前訴確定判決の後訴での通用性ないしは基準性をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

    そして、前訴既判力が後訴に作用する場合とは、前訴既判力と後訴の訴訟物が①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にある場合であると考える[2]

 (2) 本件では、前訴既判力の客観的範囲は、訴訟物たるYのXに対する所有権に基づく甲土地引渡請求権の存在に生じており、判決理由中の判断には生じない。請求との関係では、訴訟物にのみ既判力を認めれば当事者の紛争解決に十分であるし、審理の簡易化・弾力化にも資する。また、もし仮に、前訴請求認容の場合にその判決理由中の判断である「Yによる詐欺の事実がないこと」に既判力を認めるとすると、請求棄却判決の場合には「Yによる詐欺の事実があること」に既判力が認められないこととの相称性が害され、Xが不当に不利な立場に置かれ得る。

    上記請求権の存在は、前訴口頭弁論終結時の時点に生じ(民事執行法35条2項参照)、当事者XYの間に及ぶ(115条1項1号)。

 (3) 後訴訴訟物は、XのYに対する所有権に基づく所有権移転登記抹消登記請求権であるところ、上記前訴既判力とは、①同一②先決③矛盾のいずれの関係にもない。

 (4) したがって、既判力が後訴に作用しない。

 2 第2に、Xの上記主張は、いわゆる争点効によって遮断されないか。

 (1) まず、Xの上記主張が認められるとすると、土地はYに引き渡され、登記はX名義になり得、甲土地のXY間の紛争が解決しないことになる。判例[3]は、XのYに対する所有権確認訴訟という第3の訴訟によって解決可能である、という。しかし、所有権確認訴訟では執行力がなく、結局紛争が解決しないため、第4のXのYに対する所有権に基づく甲土地引渡請求訴訟が必要となる。これでは、訴訟経済に反する。

    そこで、争点効を認める必要がある。

 (2) 争点効とは、前訴において当事者が主要な争点として争い、かつ裁判所がこれを審理して示した当該争点についての判断に生じる通用力で、同一の争点を主要な先決問題とした異別の後訴請求の審理において、その判断に反する主張立証を許さず、これと矛盾する判断を禁止する効力である。かかる争点効は、認められるか。

   ア 確かに、争点効を認める明文の規定はない。しかし、判例は信義則による後訴遮断を認めており、争点効は信義則を制度として明確化したものともいい得る。否定説は、前訴の審理が重くなるというが、主要な争点として当事者真剣に争った点のみを事後的に遮断するのであり、当事者が後訴遮断を嫌って、前訴で真剣に争わなければならないという事態は生じない。また、中間確認の訴え(145条1項)によって、争点効の必要性を否定する見解があるが、中間確認訴訟は法律関係レベルで既判力が生じるのに対し、争点効は主要事実レベルで効力が生じる以上、守備範囲が異なる。したがって、かかる批判もあたらない。

     そこで、①前訴後訴の両請求の当否の判断過程において主要な争点となっている事項であること②当事者が前訴においてその争点につき主張・立証を尽くしたこと③裁判所がその争点につき実質的な判断を下していること④前訴と後訴の係争利益がほぼ同等であること⑤後訴で当事者が援用すること、という5要件を充足した場合には、争点効が認められると考える。

   イ 本件では、前訴でXは、Yの請求原因事実をすべて自白し、Yの詐欺の事実のみで争い、かつ、Xもその事実の存在を争っており、前訴の主要な争点となっている。また、本件後訴においても、詐欺の事実が主要な争点になっているといえる(①充足)。前訴においてYの詐欺の事実について証拠調べ手続がなされており、当事者が主張・立証を尽くしたといえる(②充足)。裁判所もYによる詐欺の事実は認められないとして、前訴請求を認容しており、実質的な判断を下している(③充足)。前訴訴訟物は甲土地引渡請求であり、後訴は甲土地所有権移転登記抹消登記請求であるところ、土地については利用できなければ意味はないし、登記がなければ処分もできない上、第三者に所有権を取得されるおそれもあり(民法94条2項類推適用)、どちらも係争利益が大きく、等しい(④充足)。そして、後訴でYの訴訟代理人Pが争点効を援用するものである(⑤充足)。

   ウ したがって、争点効が認められ、後訴でXがYの詐欺の事実を主張することは許されない。

 3 以上より、Xが再度、売買契約は詐欺に基づくことを主張するのは許されない。

第2 設問2 課題(1)

 1 まず、訴訟1の既判力が訴訟3に作用しないことは、前述と同様である。

 2 次に、Xは、いわゆる争点効も認められず、訴訟3でXがYの詐欺の事実を主張することは許されると主張する。

 (1) まず、明文の規定がないにも関わらず、裁判を受ける権利(憲法32条)を失うことになり得る争点効を認めるのは妥当でない。また、争点効肯定説は、審理が重くなることはないという。しかし、主要な争点となっていたかどうかによって、争点効が生じるかどうか微妙な判断を伴う場合があり得、このような場合、前訴時点においてしっかりと争わねばならないと当事者に不安を与えることになり、結果として審理が重くなる可能性は否定できない。そして、中間確認の訴えが法律関係にのみ拘束力を認めたのは、主要事実まで拘束力を及ぼすべきでないという立法的政策といえ、守備範囲の異なることが争点効を肯定する論理とはならない。

 (2) よって、争点効は認められない。

3 よって、訴訟3において、Xは、Yによる詐欺の事実を主張することができる。

第3 説問2 課題(2)

 1 仮に、争点効を肯定するとしても、本件においては、前訴判決の理由中の判断である、Yによる詐欺の事実に争点効は生じない。

 2 まず、Yによる詐欺の事実という前訴争点は、争点効を認める上記5要件を欠き、争点効が生じないといえる。また、もし仮にかかる主張が認められないとしても、訴訟3は、訴訟1よりも前に提起されており、たまたま訴訟1が先に判決確定したにすぎない。このような場合には、訴訟3が実質的に前訴の蒸し返しという事態ではないため、争点効を認める前提を欠く。

 3 したがって、争点効は本件の下では生じず、XはYによる詐欺の事実を主張することができる。

以上

 

[1] 基本的に争点効否定説の立場は多くの者が押さえていると思われること、設問2では争点効否定説からの立論が問われていることから、設問1では争点効を肯定して立論している。

[2] 前訴既判力が前訴訴訟物に生じ、後訴訴訟物との同一等の関係で判断するとする見解(重点講義(上)596頁注15参照)からの論証。勅使川原説ver.も『ロースクール演習 民事訴訟法[第2版]』 第6問 参考答案例 【勅使川原説ver.】にて論証済。

[3] 最判昭和44年6月24日参照。