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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2014年度(松下淳一問) 解答例

 

解答例

 

第1 第1問 小問1[1] (以下、民事訴訟法は法名略。)

 1 第1に、不要証効(179条)としての「自白」が成立しないか。

 (1) 不要証効の生じる自白とは、当事者に争いのない事実である。そして、事実とは、争点整理機能の観点から、広く間接事実及び補助事実も含むと考える。

 (2) 本件訴訟物は、XのYに対する売買契約に基づく代金支払請求権である。Aに本件商品の売却についての代理兼を授与した、という事実は、上記権利の発生を基礎づける請求原因となり、主要事実にあたる。そして、かかる主張についてYはXの主張を認めて争わない旨陳述しており、当事者に争いがない。

 (3) したがって、Yの陳述により、不要証効としての自白が成立する。よって、裁判所は上記事実について証拠調べを要することなく、判決の基礎とすることができる。

 2 また、本件主張は前述のとおり主要事実にあたるところ、不要証とされた自白事実と異なる認定をされる不意打ち防止のため、裁判所は当事者に争いのない事実については判決の基礎としなければならないとする弁論主義第2テーゼによって裁判所拘束力が認められる。よって、裁判所は、後述の自白の撤回がない限り、上記事実を判決の基礎としなければならない。

 3 それでは、上記自白に当事者拘束力が認められるか。

 (1) 当事者拘束力の認められる裁判上の自白とは、期日における相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。

    当事者拘束力の趣旨は相手方の信頼保護にあり、かかる信頼は裁判所拘束力たる判断拘束力とコスト管理論から導かれる審理拘束効に対して生じるところ、「事実」とは主要事実に限られる[2]と考える。

    また、「自己に不利益な」とは、基準の明確性から、相手方が証明責任を負う事実をいうと考え、証明責任規範の分配は実体法の趣旨、立証の難易・証拠の距離等によって決すると考える。

 (2) 本件Yの主張が「期日における相手方の主張と一致する」「事実」にあたることは、前述のとおりである。そして、Aに本件商品の売却についての代理兼を授与した、という事実は、前述のとおり、上記権利の発生を基礎づけるものであるところ、有利な法的効果の発生を受けるXが証明責任を負う。そうだとすれば、本件主張はYにとって「自己に不利益」な事実であるといえる。

 (3) したがって、Yに対しては当事者拘束力が認められる。よって、①当該事実が真実に反しかつ錯誤の場合②刑事上罰すべき相手方の行為によって自白がなされた場合③相手方の同意がある場合のいずれかにあたる場合でない限り、Yは上記主張の撤回をすることができない。

第2 第1問 小問2

 1 文書の成立の真正とは、挙証者の主張する作成者が、その意思に基づき文書を作成したことをいう(228条1項)。

 2 まず、文書の成立を認める旨の陳述は、当事者に争いのない事実であるため、不要証(179条)が生じ、裁判所は、文書の成立の真正について証拠調べを要しない。

 3 次に、裁判所拘束力及び当事者拘束力が認められるかであるが、文書の成立の真正が証拠の証拠力を判断される際に使用される補助事実にあたり主要事実ではないことから、かかる効果は認められない[3]

第3 第2問 小問1[4]

 1 既判力とは、前訴確定判決の後訴での通有性をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、その正当化根拠は手続保障に基づく自己責任にある。そして、審理の簡易化・弾力化の観点から、既判力の物的範囲は訴訟物に限るのが原則である(114条1項)。これに対し、相殺の抗弁については、例外的に、判決理由中の判断であるにも関わらず「相殺をもって対抗した額」に既判力が生じる(114条2項)。相殺の抗弁は反訴提起の実質があり、それ自体訴訟物となり得るっものであるからである。

 2 本件では、まず、Yが相殺の抗弁に供した300万円の請負代金の内100万円については存在しており、Xの請求権と相殺されている。したがって、かかる100万円については、相殺に供されたことにより100万円の請負代金債権の「不存在」に既判力が生じる。次に、200万円についてはそもそも請負代金債権が存在していないとの判断に達しているため、その意味で「不存在」に既判力が生じる。

 3 よって、Yが相殺に供した請負代金債権300万円の不存在について、既判力が生じる。

第4 第2問 小問2[5]

 1 単純反訴の場合[6]

反訴提起をした債権をもって本訴において相殺の抗弁を主張することは、重複訴訟禁止(142条)に反し許されないのではないか。

 (1) まず、相殺の抗弁は「訴え」ではないため、142条の直接適用はない。

 (2) もっとも、相殺の抗弁は、前述のとおり既判力が生じるところ、反訴提起をした債権をもって相殺の抗弁を主張することは、既判力抵触のおそれが生じる。

そもそも、重複訴訟禁止の趣旨は、被告の応訴の負担、矛盾判決のおそれ、訴訟不経済等の弊害を防止する点にある。

    そこで、かかる趣旨が妥当する場合には、142条が類推適用されると考える。

    単純反訴の場合、本訴と反訴は単純併合の関係にあり、裁判所の裁量によって弁論の分離(152条1項)がなされることがある。そして、弁論の分離がなされた場合、異なる期日に異なる裁判体によって両訴訟が審理・判断されることになり、本訴の相殺の抗弁と反訴について異なる判断がなされるおそれがあり、矛盾判決のおそれがある。また、このように同一の訴訟物たる権利関係について2回審理をすることは訴訟不経済である。したがって、重複訴訟禁止が防止しようとした弊害が生じるおそれがある。また、かかる相殺の抗弁を認めることは、相殺の担保的機能と債務名義獲得という二重の利益を反訴原告に与えることになり、妥当でない。

(3) よって、142条が類推適用され、かかる主張は許されない。

2 予備的反訴の場合[7]

 (1) それでは、予備的反訴の場合はどうか。

    反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分には反訴請求としない予備的反訴の場合、弁論の分離をして予備的反訴を審理・判断することは、上記解除条件反することになるため、許されない。そうだとすれば、相殺の抗弁について既判力ある判断が示された場合には確実に反訴が審理・判断されない以上、判決矛盾のおそれはない。また、訴訟不経済ということも起き得ない。また、単純反訴の場合と異なり、相殺の担保的機能と債務名義獲得という二重の利益を得ることもない。

 (2) よって、単純反訴の場合に妥当した重複訴訟の弊害が生じず、142条類推適用はない。

 3 単純反訴でも適法であるとする立場

 (1) そもそも単純反訴の場合に、弁論の分離がされると上記弊害が生じることは前述のとおりである。そうだとすれば、そもそもそのような不適法となる弁論の分離は許されないと考える。

(2) このように弁論分離の禁止が強制される場合、既判力抵触のおそれや訴訟不経済といった弊害が生じない。したがって、単純反訴の場合でも適法と考える。

以上

 

[1] 自白については、勅使川原和彦『読解民事訴訟法』(有斐閣、2015年)unit3が非常に有益である。

[2] ここでの論証を敷衍すると、すなわちこうである。弁論主義第2テーゼにおける裁判所拘束力、すなわち判断拘束効は判決段階で作用する効果であり、審理段階において、裁判所は、自白事実以外の事実について証拠調べをすることも本来許される。しかし、判決では自白事実に拘束されるにも関わらず証拠調べをすることは、私法資源の無駄遣いであり、コスト管理の観点から禁止されるべきであるといえる。そこで、裁判所は判断拘束効の生じる事実について証拠調べも許されないという審理拘束効も生じるのである(この審理拘束効と判断拘束効を併せて審判拘束力と呼ばれる)。そして、このような審理拘束効の結果、自己に有利な事実の自白を得た当事者としては、かかる事実について証拠調べがなされない(証拠調べが一切禁止される)との信頼を有することになる。それにも関わらず、相手方当事者が自白を撤回し、審理拘束効を覆すことは、相手方当事者の信頼を害することになるのである。このような観点から相手方の信頼保護を考える場合、「事実」とは、審理拘束効の生じる主要事実に限れば足りると考えられる。

[3] 最判昭和52年4月15日参照。

[4] 同様の問題を論じたものとして『ロースクール民事訴訟法[第2版]』(法学書院、2018)問題24、勅使川原和彦『読解民事訴訟法』(有斐閣、2015)196頁以下参照。なお、これの応用の問題として司法試験予備試験平成29年度設問2参照。また、東大ロー期末試験2016年度(松下淳一問)第2問小問2も参照。

[5] 同様の問題として、平成27年度新司法試験民事訴訟法設問1参照。

[6] 最判平成3年12月17日参照。

[7] 最判平成18年4月14日参照。