法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級刑事訴訟法 2016年度 解答例

 

解答例

 

 

第1 設問1[1]

 1 検察官の公訴事実では、Xは投稿者とのわいせつ物公然陳列罪の共謀共同正犯であるのに対し、裁判所は、わいせつ物公然陳列罪の幇助犯との認定をしているところ、訴因変更手続(312条1項)を要する異なる訴因を認定しているとして、不告不理原則(378条3号)に反し、違法ではないか。

 (1) 訴因とは「罪となるべき事実」の記載であり、裁判所の審判対象を当事者たる検察官の主張する事実に限定・拘束するものであるところ、かかる事実に重要な変更が生じた場合には、訴因変更手続を要すると考える。

    そして、訴因の機能は、第1次的には審判対象画定機能にあり、その反射的利益として被告人の防御機能がある。

    そこで、審判対象の画定に必要不可欠な事実に変更が生じた場合には訴因変更を要すると考える。また、審理全体を通じて要請される争点明確化による被告人への不意打ち防止の要請という観点から、被告人の防御にとって重要な事項についても、訴因に明示された場合には、原則として訴因変更手続を要すると考える。もっとも、具体的審理経過に鑑みて、被告人に不意打ちを与えるものでないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に訴因変更手続を要しないと考える。

 (2) 本件では、わいせつ物公然陳列罪の共謀共同正犯の訴因から、同一構成要件事実であるわいせつ物公然陳列罪の幇助犯を認定したことが問題となっている。幇助犯は、共同正犯に認められる正犯意思もしくは重要な役割に欠けることによって成立する犯罪であり、共同正犯と実体法上包含関係にあるといえる。そして、このような包含関係にある場合、当初の検察官の主張する事実の中に幇助犯の主張も黙示的・予備的に併せ主張されていた罪となるべき事実とみることができる。そうだとすれば、審判対象の画定に必要不可欠な事実に変更が生じたわけではないといえ、かかる点で訴因変更手続を要しない。

    また、上記のように訴因に黙示的・予備的に主張されていたといえる以上、かかる事実を認めることが被告人に不意打ちになるわけではなく、被告人の防御に不利益を与えることもない以上、かかる観点からも訴因変更を要しない。

 (3) したがって、本件では、訴因変更手続を要しない以上、裁判所のかかる判決は適法である。

 2 もっとも、裁判所としては、検察官に一部認定の場合にも訴追意思を有していることを求釈明することが望ましい。また、具体的審理経過の関係で、幇助犯の成立がおよそ争点になっていなかったような場合には、争点顕在化措置義務を負う場合があると考える[2]

第2 設問2

 1 供述調書①

 (1) 第1に、自白法則(319条1項)により、証拠能力が否定されないか。

ア 供述調書①に録取された甲の供述内容は、自己の犯罪事実の全部又は重要な一部を認める供述であり、「自白」にあたる。

イ それでは、甲の供述は「任意にされた」ものであるか。

     同条の趣旨は、任意性の欠く自白は、類型的にみて虚偽のおそれが高いところ、誤判防止の観点から証拠能力を否定する点にある。

     そこで、任意性を欠くかどうかは、被疑者が心理的強制を受け、虚偽の自白が誘発されるおそれのある疑いがあるかどうかによって決すると考える[3]

     本件では、確かに、KはXを被疑者であるにもかかわらず参考人として任意同行を求め、供述拒否権の告知(198条2項)を行っていない。しかし、これによってXが自身に供述義務があると誤信したというような事情はなく、Kの供述拒否権不告知によってXに心理的強制を与えたということはできない。そうだとすれば、Xは、もし仮に無罪であったとしても自白をしてしまうというような、虚偽自白のおそれが類型的にあったとはいえない。

     したがって、供述調書①は「任意にされた」ものといえ、証拠能力が認められる。

 (2) 第2に、伝聞法則(320条1項)により、供述調書①の証拠能力が否定されないか。

ア 供述調書①が伝聞証拠(320条1項)にあたり、原則として証拠能力が否定されないか。

     伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠であって②当該公判廷外供述の内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。その趣旨は、知覚、記憶、叙述、表現の各過程に誤りが介在するおそれがあるにも関わらず、反対尋問等によってその正確性が担保できないところ、誤判防止の観点から証拠能力を否定した点にある。

     そこで、内容の真実性は、要証事実との関係で問題となるものをいう。

     供述調書①は、Xの公判廷外供述を内容とする証拠である(①充足)。供述調書①は、Xが電子掲示板に児童ポルノ画像が送信・掲載されていたのを知っていたという事実を立証するため、Xがかかる事実を知っていたと供述した旨を録取した供述調書①をもって直接証明しようとしているといえる。したがって、要証事実は「X が電子掲示板に児童ポルノ画像が送信・掲載されていたのを知っていたこと」となり、供述調書①は、かかる要証事実との関係で、内容の真実性が問題となるといえる(②充足)。

     したがって、供述調書①は伝聞証拠にあたり、原則として証拠能力が否定される。

   イ もっとも、伝聞例外(321条以下)によって、例外的に証拠能力が認められないか。

     本件では、被告人の供述録取書が問題となっているため、322条1項該当性が問題となるが、本件では、「被告人」Xの「署名又は押印」がなされたという事情がない。

     したがって、伝聞例外によっても、証拠能力が認められない。

 (3) 第3に、仮に伝聞例外により証拠能力が認められるとしても、違法収集証拠排除法則により、証拠能力が否定されないか[4]

ア 同法則を規定する条文は存在しない。しかし、将来の違法捜査抑止の観点から、同法則を認める必要性がある。もっとも、軽微な違法においてもこれを認めることは、かえって司法の廉潔性に対する国民の信頼を害する。

     そこで、①先行する手続に重大な違法があり、②将来の違法捜査抑止の観点から証拠能力を排除することが相当と認められる場合には、同証拠の証拠能力は否定されると考える。なお、違法収集証拠排除法則の前述の趣旨からすれば、重大な違法は令状主義の精神を没却する場合に限られると考える必要はなく、重大な違法であればよいと考える。

   イ 本件では、前述のとおり供述拒否権の不告知(198条2項)という違法がある。供述拒否権の告知は、供述拒否権が憲法上保障される権利(憲法38条1項)を実効的なものにするために要請される手続であり、被疑者の側からみれば、憲法上の権利に由来する重要な手続上の権利といえる。本件では、捜査機関は意図的にXを被疑者ではなく参考人として任意同行を求め、取調べを行っており、手続違反の有意性がある。以上にかんがみれば、本件においては重大な違法があったといえる(①充足)。また、かかる手続違反によって直接得られた供述調書は、上記違法と因果性が認められ、かかる証拠を排除することが将来の違法捜査抑止の観点から相当といえる(②充足)。

   ウ したがって、供述調書②は証拠能力が認められない。

 (4) 以上より、裁判所は、供述調書①について証拠として採用することができず、取り調べることができない。

 2 供述調書②について[5]

 (1) まず、伝聞証拠として、322条1項の要件を充足しなければ証拠能力が認められないことは、供述調書①と同様である。

 (2) 次に、供述調書②も、違法収集証拠排除法則によって、証拠能力が廃除されないか。前述の基準により、検討する。

   ア 供述調書②に直接先行する取調べは適法であったため、かかる点で重大な違法はない。そこで、前述の供述拒否権不告知の違法によって、供述調書②も排除することが相当でないかを検討する。

     確かに、供述調書②を疎明資料としてXは逮捕され、かかる逮捕された状態でXの取調べが行われ、供述調書②が作成されているところ、違法手続と密接関連する証拠として因果性が認められるとも思える。しかし、供述調書②が作成された取調べでは、供述拒否権の告知が適法になされており、Xとしては電子掲示板に児童ポルノ画像が掲載されていたことを知らなかったと供述することは可能であったはずである。そうだとすれば、供述拒否権の不告知の違法は、かかる告知によってその因果性が希釈ないし遮断されたといえる。そして、このようなXの認識については他の証拠収集が困難であることが予想されるため、証拠としての重要性も高い。以上にかんがみれば、将来の違法捜査抑止の観点から供述証拠②を排除することが相当とまではいえないと考える(②不充足)。

   イ したがって、違法収集証拠排除法則によって証拠能力は否定されない。

 (3) 以上より、裁判所は、供述証拠②を証拠として採用し、取り調べることができる。

以上

 

[1] いわゆる縮小認定における訴因変更の要否。古江賴隆『事例演習刑事訴訟法[第2版]』(有斐閣、2015年)設問15、特に214頁以下参照。

[2] 酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015)297頁参照。

[3] 最大判昭和45年11月25日参照。

[4] 告知を欠いた供述について、自白法則ではなく違法収集証拠排除法則で証拠能力を否定する見解を示唆するものとして、酒巻84頁参照。

[5] 仮に、供述証書①を自白法則の適用によって証拠能力を否定した場合には、反復自白による証拠能力の排除が問題となる。この点については、古江296頁参照。本問では、任意性に影響を及ぼした前述の取調べから供述調書②の取調べの間に、かかる影響を遮断する特段の措置をとっていないことから、任意性を否定する方向での立論が自然と思われる。