法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2016年度(高田裕成問) 解答例

 

解答例

 

第1 問題1 小問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)

1 まず、XのY1に対する請求とXのY2に対する請求が固有必要的共同訴訟か通常共同訴訟かが問題となるが、両請求は金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権と保証契約に基づく保証債務履行請求権という別個の訴訟物である以上、通常共同訴訟であることは明らかである。

2 通常共同訴訟の場合。各共同訴訟人が独自に訴訟追行をなしうるという、共同訴訟人独立の原則が適用される(39条)。したがって、共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に何らの効力も生じず、裁判所は職権によって弁論の分離(152条1項)が可能である。

  本件では、Y2は口頭弁論期日に欠席しており、Xの請求原因について擬制自白(159条3項、1項)が生じ、裁判所はXの請求原因に理由があると認定しなければならない(弁論主義第2テーゼ)。

  したがって、裁判所はY2に対して、弁論の分離をしたうえで、請求を認容する判決をすることができる。

第2 設問1 小問2

 1 上記のような判決をした場合、もし仮にY1がXからの請求に対して勝訴したとしても、敗訴して債権者に債務を履行した保証人Y2から求償請求を受ける可能性がある。そうだとすれば、Y1としては、Y2との関係でも勝訴しなければならない点で妥当ではないと思われる。そこで、上記結論を回避するための解釈論について検討し、本当に妥当でないのか考える。

 2 当然の補助参加

(1) まず、補助参加の利益のある者が補助参加の申出をしなくとも補助参加をしたものとみなし、参加人の訴訟行為を被参加人との関係でも認めようとする解釈が考えられる。

 (2) 本件では、Y1は保証人Y2の主債務者であり、XのY2に対する本請求が請求認容という結果になると、Y2から求償請求を受けるという点で、「訴訟の結果」に法律上の「利害関係」を有する。したがって、XのY2に対する請求に補助参加をすることができる。

    そのため、XのY1に対する請求でのY1の否認を、XのY2に対する請求との関係でも認めることで、XがY2に無条件で勝訴判決を得ることを阻止することができる。

 (3) もっとも、参加人の申出がなくとも補助参加をしたと認めることは、そもそも明文の規定がない。また、いかなる者にかかる当然の補助参加を認めるか明確な基準がなく、かかる点でも妥当でない。そもそも、参加人としては、補助参加の申出をすればよいのであって、かかる解釈を認める必要性はそこまで高いとはいえない。

 (4) 以上のとおり、当然の補助参加は、解釈として認められないと考える。

 3 共同訴訟人主張共通の原則

 (1) 次に、共同訴訟人主張共通の原則という解釈論が考えられる。主張共通の原則とは、共同訴訟人の一人がした訴訟行為は、他の共同訴訟人が積極的な訴訟行為をしない限り、他の共同訴訟人との関係でも判決の基礎とすることができるという原則である。

    共同訴訟人独立の原則というのは、各人が他の共同訴訟人からの制約を受けずに積極的に訴訟行為をするということに意味があるのであって、積極的な主張をしていない者との関係では、共同訴訟人独立の原則は意味をなさない。相手方としては、結局共同訴訟人の一人との関係では争われた主張について立証をしなければならない点で不都合はないし、裁判所としても全員との関係で統一的な判断を下すことできる。

    したがって、かかる原則を解釈として認めることができるという。

 (2) 本件では、Y1の否認が、XのY2に対する請求との関係でも認められ、裁判所はY2の欠席による擬制自白をもって、請求認容判決をすることができない。

 (3) もっとも、かかる解釈も妥当でない。そもそも、裁判所には職権によって弁論の併合・分離が認められるのである。そして、弁論分離がなされた場合に同原則を適用する余地はなくなるのであり、そうだとすれば、弁論の併合・分離という裁判所の職権によってXY2訴訟の結果が全く逆になるというのは、弁論主義との関係で落ち着きのよいものではない。同原則を採用する論者は、この点からさらに弁論の分離を共同訴訟人の同意によって制限する解釈を展開するが、統一的判断のために本来認められる裁判所の裁量を制約することまで認められるかは疑問である。また、このような解釈を認めるとすると、XY1訴訟とXY2訴訟が、当初は別個の裁判所に係属していた場合、弁論の併合(さらには移送)まで義務づけるということにもなりかねず、これは裁判所の負担を大きくし、妥当でない。

    以上にかんがみれば、主張共通の原則も明文の規定がないにもかかわらず認めるだけの説得力があるとは思えない。

 (4) 以上より、共同訴訟人主張共通の原則も、解釈として認められないと考える。

4 その他、片面的共同訴訟や準必要的共同訴訟等も、弁論の分離・併合との緊張関係が生じる点で、妥当と思えない。

  翻って考えてみれば、Y1としてはY2に補助参加をしていくことで、上記不都合を回避できるのであり、それを怠った以上、求償請求訴訟を後から提起されることは受忍しなければならないと考える。本件を離れて、XY2訴訟をそもそも知らず補助参加をする機会がなかったような場合も考えられるが、私見としては、Y2に訴訟告知義務のようなものを認める方向でかかる不都合を回避していくことが、勝訴判決を欲する債権者と、保証人を付した債務者の利益を調整する方法として妥当なのではないかと思われる。

  以上要するに、本問における裁判所の取扱いは妥当と考える。

第2 問題1 設問2

 本問の場合、訴状はY1の本店に送達され、同社の事務員が受領しており、答弁書を作成・提出したのは真の代表者Bであった。以上にかんがみれば、本件における訴状の送達は有効であり、訴状における代表者の記載が誤っているだけといえる。

 判例は、訴状が無権代表者の下に送達され、真の代表者が訴訟係属を知らなかったという事案であり、判例の射程が及ばない。そして、本問のように訴状が真の代表者の下に送達されたといえるような場合には、代表者が訴訟に出ていき、訴状の訂正を求めることができ、かつ、そうすべきであるのだから、無効と解する必要はない。

したがって、Xは、訴状の訂正を申し立てればよいと考える

第3 問題2 設問1

 1 重複訴訟は、同一の事件について更に「訴え」を提起することが許されないところ、別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することに、142条の直接適用はない。

 2 もっとも、重複訴訟禁止の趣旨は、被告の応訴の負担、既判力抵触のおそれ、訴訟不経済といった弊害の防止にある。相殺の抗弁は、それ自体訴訟物となり得るものであり、反訴提起の実質があるため、例外的に既判力が生じる(114条2項)。そうだとすれば、別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することを許せば、異なる判決が出ることにより既判力抵触のおそれが生じる上、同一の訴訟物について二回審理・判断することになり訴訟不経済である。以上にかんがみれば、重複訴訟禁止の趣旨が妥当する。

   そこで、そのような相殺の抗弁は142条の趣旨に反し、許されない。

第4 問題2 設問2

 予備的反訴の場合、相殺の抗弁について既判力ある判決がされた場合には反訴請求がなされず、反訴について既判力が生じることがないため、相殺の抗弁と反訴との間で既判力抵触のおそれがなくなる。また、相殺の抗弁が審理・判断されれば反訴請求がなされず、相殺の抗弁が審理・判断されなければ反訴請求がなされるのであり、同一の訴訟物について二重に審理・判断されることはなく、訴訟不経済も生じない。

 したがって、かかる場合には142条の趣旨が妥当しないため、重複訴訟の問題は生じないのである。

第5 問題2 設問3

 1 弁論が分離されず、同一期日に判決がなされる場合

   この場合、相殺の抗弁が審理・判断される場合、それによって反訴請求の債権の不存在が認められるため、裁判所は請求棄却判決をすべきである。相殺の抗弁が審理・判断されない場合、反訴請求について別途審理判断をして、本案判決をすべきである。すなわち、この場合、同一裁判体によって判決がなされる以上、統一判断によって既判力抵触及び訴訟不経済を避けることができるため、142条に反しないと考える。

 2 弁論が分離された場合、

   この場合、平成3年判決の射程が及ぶため、裁判所としては、相殺の抗弁を142条の趣旨に反することを理由に却下しなければならないと考える。

以上