法律解釈の手筋

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平成26年度 予備試験 刑法 解答例

 

解答例

 

第1 甲の罪責

 1 甲がVに対し鑑定の必要があるなどと言って、仏像を交付させた行為に詐欺罪(24 6条)が成立しないか。

(1) 甲の上記行為は、「人を欺い」ているか。

  ア 「人を欺」く行為とは、①財産処分に向けられた②財産交付の基礎となる重要な事項を偽る行為をいう。

  イ 甲は代金支払意思がないにも関わらず、「本物と確認できたら」「ここにある金を渡す」と言って、「まず仏像を鑑定させてくれ」とVを欺罔している。かかる代金支払意思は、客観的取引通念に照らしても重要な事項であるといえる。

    なお、確かに本件は不法原因給付(民法708条)であるが、交付する物・利益自体には何らの不法性もないため、重要事項性は否定されない[1]

    したがって、財産交付の基礎となる重要な事項を偽っている(②充足)。

  ウ 本件では、Vは仏像が近くに喫茶店まで運ばれることを容認している。甲とVはホテルにいたのであるから、喫茶店まで仏像が運ばれてしまえば、Vの仏像に対する事実上の管理支配は及ばなくなるといえ、占有移転が認められる。

    したがって、「財産処分に向けられた」[2]といえる(①充足)。

  エ よって、「人を欺い」ている。

(2) 本件客体は密輸品たる仏像であるが、事実的財産秩序の観点から、禁制品も「財物」にあたると考える。

(3) 甲は、代金を準備されている以上、支払ってもらえないことはないと錯誤に陥っており、錯誤に基づいて仏像を甲に引き渡して、ホテルの外まで運ばれ、「交付」している。

(4) 甲には詐欺罪の故意(38条1項)がある。

(5) したがって、甲の上記行為に詐欺罪が成立する。

2 甲が、殺意をもって、Vの腹部にナイフを刺した行為に、強盗殺人未遂罪(243条、240条)が成立しないか。

(1) 甲の上記行為が「暴行」(236条2項、1項)にあたるか。

  ア 「暴行」とは、①利益移転に向けられた②相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力行使をいう。

  イ 甲は刃渡り15cmという殺傷能力の高いナイフを、Vの腹部という人体の枢要部に1回突き刺しているところ、かかる行為は相手を気絶ないし死亡させる危険性の高い行為で、Vの反抗を抑圧するに足りる有形力行使を行ったといえる(②充足)。

  ウ 利益移転に向けられているといえるか。

  (ア) 強盗罪という犯罪類型から相手方の処分行為は不要であるが、処罰範囲限定の観点から、有形力行使が具体的かつ確実な利益移転に向けられていることが必要である。

   (イ) 甲は偽名を使って、Vに身元を明らかにしていない。Vは確かに一命を取り留めて甲に権利行使が観念的には可能であるが、上記事情にかんがみると、実質的に相当期間債権行使を不可能にしているため、具体的かつ確実な利益移転に向けられているといえる。

   (ウ) したがって、利益移転に向けられている(①充足)。 

(2) 甲は、実際に海外に逃走して事実上Vの債権行使を不可能にしているため、「財産上不法の利益を得」ている[3]

 (3) したがって、「強盗」(240条)にあたる。

 (4) 甲の上記行為は、前述のとおりVを死亡させる危険性を有するため、強盗殺人罪の実行行為性が認められる。

 (5) 甲は一命を取り留めており、「死亡」していない。

 (6) 甲は、殺意を有している。なお、強盗が殺意をもつことは240条の典型であること及び刑の均衡の観点から、強盗殺人未遂罪も240条の適用がある。

 (7) もっとも、甲の上記行為に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

   ア Vは甲に対し仏像行為の返還を求める自救行為として、甲の首元にナイフを突きつけているが、明らかに相当性を逸脱した「不正」な侵害である。また、甲の生命・身体への法益侵害が切迫しているため「急迫」な侵害である。

イ 甲は生命・身体という「自己の権利」を「防衛するため」といえるか。

(ア) 「防衛するため」という文言及び行為不法の観点から、防衛の意思は必要と考える。そこで、防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態をいうと考える。

(イ) 本件では、確かに甲は殺意をもっているため、防衛の意思が否定されるとも思える。もっとも、被害者が加害意思を有することは通常あり得るため、防衛の意思が併存している限り、防衛の意思は認められると考える。本件では、甲は自己の身を守る目的も有しているため、防衛の意思が認められる。

(ウ) そこで「防衛するため」にあたる。

ウ 甲の上記行為は「やむを得ずにした」といえるか。

(ア) 「やむを得ずにした」とは、防衛のために必要最小限度の行為をいう。

(イ) 本件では、被害者たる甲は28歳と若く、身長178㎝体重82㎏という点から相当体格の良いことがうかがえる。一方、加害者たるVは68歳と高齢者であり、身長160㎝体重53㎏という点から、体格もそこまで良いとはいえない。以上にかんがみれば、甲としてはVのナイフを取り上げれば、その後は素手でもVを制止することは十分に可能であったはずである。それにも関わらず、Vのナイフをさらに利用してVの腹部にナイフを刺した行為は、必要最小限度の行為を超えていると言わざるを得ない。

(ウ) したがって、甲の上記行為は、「やむを得ずにした」とはいえない。

   エ 甲の上記行為に正当防衛は成立せず、過剰防衛が成立するにとどまる。

 (8) よって、甲の上記行為に強盗殺人未遂罪が成立する。

 3 以上より、甲の一連の行為に、①詐欺罪②強盗殺人未遂罪が成立し、両者は保護法益が共通で、一連の行為といえるため、包括一罪として②に吸収される[4]。②は任意的減免となり、甲はその罪責を負う。

第2 乙の罪責

 1 乙が、甲から一連の事情を打ち切られた後も、「盗品」たる仏像を「保管」し続けていた行為に盗品保管罪(256条2項)が成立する[5]

 2 乙が仏像を500万円で第三者に売却した行為に、占有離脱物横領罪(254条)が成立しないか。

 (1) 乙が仏像を甲から預かっている点に「占有」は認められない。

   ア 「占有」とは、①委託信任関係に基づいて②濫用のおそれのある支配力を及ぼすことをいう。

   イ 本件では、甲の委託の内容は盗品の委託であり、委託関係の要保護性に欠ける。したがって、委託信任関係は認められない[6](①不充足)。

   ウ 「占有」が認められない。したがって、「占有を離れた」といえる。

 (2) 仏像は、Vという「他人の物」である[7]

 (3) 乙の上記行為は、所有者でなければできないような処分をする不法領得意思の発現行為であり、「横領」にあたる。

 (4) よって、乙の上記行為に占有離脱物横領罪が成立する。

 3 以上より、乙の一連の行為に①盗品等保管罪②占有離脱物横領罪が成立し、②共罰的事後行為として①に吸収され、乙はかかる罪責を負う。

以上

 

[1] 山口各論272頁参照。財産的損害要件との関係で詐欺罪を否定する見解もあるが、近時は、財産的損害要件は別個の要件を構成しないとの見解が有力。

[2] 【参考論証例】窃盗罪と詐欺罪の区別の観点から、詐欺罪は交付行為が占有移転と評価できることが必要である。そこで、被欺罔者が容認していた状況を明らかにして、被欺罔者が容認していた状況が、財物の占有移転と評価できる場合には、財産処分に向けられていると考える。

[3] 不法原因給付と強盗の論点が問題となり得る。判例は強盗罪成立を肯定するが、不法原因給付(民法708条)によって返還請求権が否定される以上、行為者が行為の反面として利益を得るわけではなく、強盗罪を否定する見解も有力である。有力説に立った上でも、本件事案のような場合には、先行する財物奪取が不法なものであるため、なお強盗罪が成立するとの見解もある。

[4] 最判昭和61年11月18日参照。

[5] 最判昭和50年6月12日参照。

[6] 反対説も有力(東京高判昭和24年10月22日)。その理由は、事実的財産秩序にあるものと思われる。

[7] 不法原因給付であっても、そもそもV所有の仏像の所有権が乙に反射的に帰属することはなく、「他人の物」であることに疑いはない。したがって、不法原因給付と横領の論点は問題とならない。