法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2012年度(松下淳一問) 解答例

 

解答例

 

第1 第1問 小問1[1] (以下、民事訴訟法は法名略。)

 1 Xの本問訴えは、確認の利益を欠き、不適法とならないか。

 2 確認の利益とは、確認の訴えによる本案判決を求める必要性をいう。確認の訴えでは、その対象が無限定になるところ、訴えを限定する必要がある。そこで、確認の利益は、原告の有する権利や法律上の地位に危険または不安が存在し、そうした危険や不安を除去するために確認判決を得ることが有効かつ適切な場合に認められる[2]と考える。

 3 本件では、Xは、甲土地がY1の所有に属することの確認を求めているところ、そもそも請求の趣旨が原告の権利の確認ではない。もっとも、原告がこのような判決を求める趣旨は、原告がY1の推定相続人であり、将来甲土地を相続する可能性があるために、あらかじめ甲土地がY1の所有に属することを確認しようとするものである。そうだとすれば、このような原告の推定相続人たる地位をもって確認の利益があるかを判断すべきである。そして、このような推定相続人の地位は、単に将来相続の際、被相続人の権利義務を包括的に承継すべき期待権を有するだけで、被相続人の死亡以前においては、被相続人の個々の財産に対し権利を有するものではない。

   したがって、Xには保護に値する法的地位がなく、原告の有する権利や法律上の地位に危険または不安が存在しているとはいえない。

 4 よって、Xの訴えは確認の利益を欠き、不適法である。

第2 第2問 小問2

 1 裁判所が、Y1からAへの贈与を理由にXの所有権確認請求を棄却することは、弁論主義第1テーゼに反し、できないのではないか。

 2 弁論主義とは、判決の基礎となる事実の確定に必要な資料の収集・提出を当事者の権能及び責任とする建前[3]をいう。その趣旨は、私的自治の訴訟法的反映に基づく当事者間の自律的水平空間の確保にあり、その機能は当事者への不意打ち防止にある。

   そして、この弁論主義から、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないという弁論主義第1テーゼが導かれる。「事実」とは、当事者に対する最低限の不意打ち防止となる主要事実に限れば足りると考える。また、自律的水平空間の確保という趣旨から、「当事者」とは一方当事者の主張があれば足りると考える。そして、訴訟資料と証拠資料の峻別の観点から「主張」とは、弁論期日になされた陳述を意味すると考える。

 3 本件では、XのYに対する甲土地所有権確認訴訟が提起されている。本件における請求原因事実は、①甲土地のY1もと所有②Y1死亡③XがY1の子であることによって、相続による所有権取得が基礎づけられている。これに対して、Y1からAへの贈与という事実は、Y1の甲土地もと所有を起点とする、所有権喪失を基礎づける事実であって、請求原因と両立し、請求原因よって発生する権利を消滅させる抗弁事実に属する。したがって、かかる事実は主要事実にあたる。それにもかかわらず、かかる事実はX及びY2の両当事者のどちらからも弁論期日において主張されていない。

   したがって、裁判所はかかる事実を判決の基礎とすることができない。

 4 よって、裁判所は、Y1からAへの贈与を理由にXの所有権確認請求を棄却することができない。

第3 第2問 小問1

 1 XY間における訴訟上の意義

 (1) 金銭授受及び返還合意の事実について、XとYとの間において争いがない以上、不要証効としての自白が成立する(179条)ため、裁判所は、かかる事実について証拠調べを要することなく判決の基礎とすることができる。

 (2) 次に、裁判所拘束力としての自白が成立するか。

ア 裁判所は、当事者に争いのない事実を判決の基礎としなければならない(弁論主義第2テーゼ)。不要証効が認められる事実について裁判所が異なる認定をすることは当事者に不意打ちを与えることになる点から認められる。そこで、「事実」とは、当事者に最低限の不意打ち防止となる主要事実に限れば足りると考える。

イ 上記事実はXのYに対する消費貸借契約に基づく金銭返還請求権の請求原因事実であり、主要事実にあたる。

ウ したがって、裁判所は、上記事実を判決の基礎としなければならない。

 (3) 最後に、当事者拘束力としての自白がYに成立しないか。

   ア 当事者拘束力の認められる自白とは、自己に不利益な相手方の主張する事実を認めて争わない旨の陳述をいう。その根拠は禁反言ないし相手方の信頼保護にある。そして、かかる信頼は、裁判所拘束力によって審理段階でも裁判所を拘束する審理排除効に対して生じるところ、「事実」は裁判所拘束力の生じる主要事実でのみ認められると考える。また、当事者拘束力は当事者間で生じる効力であるため「不利益」性が要件となるが、「不利益」であるかどうかは基準の明確性から証明責任の所在によって決すると考える。

   イ 本件では、請求原因たる①金銭授受と②返還合意に自白が生じており、主要事実にあたる。また、かかる請求原因は原告が証明責任を負うため、Yにとって「不利益」である。

   ウ したがって、当事者拘束力が認められる。

 2 XZ間における訴訟上の意義

 (1) まず、XY間とXZ間の訴訟が必要的共同訴訟か通常共同訴訟かが問題となるが、XのYに対する消費貸借契約に基づく金銭返還請求権とXのZに対するXY間の消費貸借契約に基づく金銭返還請求権は別個の訴訟物であるため、通常共同訴訟であることが明らかである。

 (2) 通常共同訴訟の場合、共同訴訟人独立の原則(39条)が妥当するところ、共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。

    本件では、Yの自白は、Zに影響を及ぼさない。

    したがって、XZ間において、Yの陳述は何らの意義も有しない[4]

第4 第2問 小問2

 1 Xとしては、Zを承継人とする義務承継に基づく引受承継(50条)の申立てをすべきである。

   本件では、XY訴訟はすでに係属しており、かつZはYのXに対する債務について免責的債務引受したとXは主張している。

   したがって、かかる申立ては引受承継の要件を充足する。

 2 引受承継によって、Zは、Yのした自白を争うことができないか。訴訟状態承認義務が認められるかが問題となる。

 (1) この点について、通説は相手方の既得的地位の保障の観点から、生成中の既判力なるものが承継人にも及ぶとし、訴訟状態承認義務を肯定する[5]

    しかし、このような既得的地位の保障は、承継人の手続保障を著しく害する。また、既判力というのは、訴訟物に生じるのに対し、訴訟状態承認義務は判決理由中の判断ともいえる、自白等の訴訟行為に拘束力を認めるのであり、既判力とは構造的に矛盾する。そして、このような訴訟の過程に拘束力を認めるというのは、裁判官の心証という浮動的で検証不可能なものに基づいて拘束力を認めることにほかならず、妥当でない。

    そこで、参加承継の場合は別論としても、引受承継の場合には訴訟状態承認義務は認められないと考える[6]

 (2) 本件においても、ZはYの自白に拘束されることなく、これと異なる主張をすることが認められる。

 (3) よって、Yの本件陳述は、何らの効力も有しない。

以上

 

[1] 最判昭和30年12月26日参照。

[2] 前掲昭和30年判決参照。

[3] 高橋概論115頁参照。

[4] この後、共同訴訟人主張共通の原則、当然の補助参加の理論等が問題となり得る。以上の解釈論については、「東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2016年度(高田裕成問) 参考答案例」の設問1小問2参考。

[5] 兼子一『民事法研究第一巻』(酒井書店、1940)141頁以下参照。

[6] 新堂幸司「訴訟承継論よ、さようなら」『民事手続法と商事法務』(商事法務、2006)378頁参照。歴史的名論文(と少なくとも私は思っている。) であり、ぜひ読んでいただきたい論文の1つであるが、訴訟状態承認義務を否定する論拠をまとめると①口頭弁論終結後の承継人との対比で「生成中の既判力」は認められないこと②訴訟承継人も新たな当事者であり、手続保障を与えなければならないこと③承継人から手続保障を奪う「生成中の既判力」は、115条1項1号の解釈上認められないこと④裁判官の心証・証拠調べ・弁論の全趣旨について「生成中の既判力」を認めるとしても検証不可能でありナンセンスであること⑤承継人と相手方との間では、当事者権と裁判所の訴訟指揮とのせめぎ合いになり、その中で従前の訴訟資料をどこまで使えるかが流動的に決まるところ、そこに「生成中の既判力」の働く余地はないことを挙げる。私見も同論文に全面的に賛成する。