法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級刑事訴訟法 2015年度 解答例

 

解答例

 

第1 第1問

 1 違法収集証拠排除法則により、覚せい剤の証拠能力は認められず、証拠とすることができないのではないか。

 2 かかる法則を認める明文の規定はない。しかし、将来における違法捜査抑止の観点から、同法則を認める必要性がある。もっとも、軽微な違法な場合にもそれによって得られた証拠を排除することはかえって司法の廉潔性に対する国民の信頼を害することになりかねない。

   そこで、①先行する手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②将来の違法捜査抑止の観点から、証拠を排除することが相当と認められる場合には、当該証拠の証拠能力認められないと考える。

 3 Xのいわゆるおとり捜査について

 (1) おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するよう働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する[1]捜査手法をいう。

  イ 本件では、Kは、Aに対して、Xに覚せい剤の売買を持ちかける旨の依頼をしており、Aは捜査協力者にあたる。AはXに捜査協力者たる身分及び捜査の意図を秘している。Aは覚せい剤の売買という犯罪行為をXに実行するように働きかけている。Kはかかる行為を利用して、Xが覚せい剤の売買のために覚せい剤を所持しているところを現認することで現行犯逮捕しようとしている。

  ウ したがって、本件はおとり捜査にあたる。

 (2) おとり捜査が「強制の処分」(197条1項但し書)にあたるとして、令状主義(憲法33条、35条)又は強制処分法定主義に反し違法とならないか。

   ア 捜査の流動性確保及び刑訴法の強制処分に対する厳格な法定要件の観点から、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加える処分[2]、すなわち、相手方の明示又は黙示の意思に反して、重要な権利利益を制約する処分をいうと考える。

   イ いわゆるおとり捜査は、おとりの働きかけがあるとはいえ、自己の自由な意思決定に基づいて犯行に着手している以上、対象者の意思に反するとはいえない。

   ウ したがって、「強制の処分」にはあたらない。

 (3) そうだとしても、本件おとり捜査が任意処分の限界を超え、違法とならないか。

   ア 任意処分であっても絶対無制約ではなく、捜査比例の原則(197条1項本文)の観点から、捜査の必要性・緊急性等を考慮した上、具体的状況のもとで相当と認められる場合に限り許されると考える。

     そして、いわゆるおとり捜査の被侵害利益は、捜査機関が対象者を介して当該犯罪の法益侵害を惹起する点にあるところ、その適法範囲は限定的に解すべきである。そこで、少なくとも①直接の被害者がいない薬物事犯等の捜査において、②通常の捜査方法のみでは、当該犯罪の摘発が困難である場合に、③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは許されると考える[3]

   イ 本件では、Xの覚せい剤取締法違反という薬物事犯が問題となっている(①充足)。また、本件では、覚せい剤事犯の背後にある密売組織の構成員たるXに対する情報がなく、通常の捜査方法のみでは摘発が困難であった(②充足)。そして、Aの供述によれば、Xは以前からAに対して覚せい剤を融通していたのであり、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者であったといえる(③充足)。

   ウ したがって、本件行為は任意処分としても相当な行為といえ、適法である(①不充足)。

 (4) よって、本件おとり捜査によって覚せい剤の証拠能力は否定されない。

 4 警察官らが本件車両を警察車両で取り囲んだ行為について

 (1) まず、警察官は、上記行為時に、AからXと覚せい剤の取引がなされるとの情報を聞いており、Aから聞いていたXの車両の特徴と本件車両の特徴も一致していた。したがって、本件車両に乗るXは「何等かの犯罪を」「犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」(警職法2条1項)があった。

 (2) もっとも、上記行為は適法か。

   ア まず、「停止させ」(同項)との文言から、職務質問に伴う有形力行使を認めている。もっとも、同条3項は、一般に「強制の処分」を禁止していると考えられている。また、強制処分にあたらない有形力行使でも、警察比例の原則(同法1条2項)に服する。

     そこで、有形力行使の必要性・緊急性を考慮した上、具体的状況の下で相当と認められる限度で適法となると考える。

   イ 本件では、Xが車で移動する自由を侵害しているが、かかる自由は、車による移動の自由の制約にすぎず、人の移動の自由そのものを制約するものではない。したがって、重要な権利利益の制約はなく、「強制の処分」にはあたらない。

     次に、相当性であるが、確かに、本件では警察車両によってXの本件車両を囲むという、車の移動の自由を制限する態様としては強度な方法を用いている。しかし、本件は覚せい剤事犯であり、かつ、その量300グラムという重大な事件についての職務質問であり、職務質問をするため停止措置をとる必要性は高い。また、捜査協力者Aの供述がある以上、Xの嫌疑の程度は非常に高く、この点からも停止措置をとる必要性は高い。以上にかんがみれば、車の移動の自由を制限するにすぎない本件措置は、なお必要性と被侵害利益との間に法益権衡が認められる。

   ウ したがって、上記行為は適法である。

 (3) よって、上記行為によって覚せい剤の証拠能力は否定されない。

 5 警察官らがYを羽交い絞めにした行為について

 (1) まず、前述のとおり、本件車両はXの車両と特徴が一致しており、本件犯罪に関与している疑いが非常に強い。そうだとすれば、そこに同乗するYも本件犯罪に関わっている可能性が非常に強い。したがって、本件車両に同乗するYは「何等かの犯罪を」「犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」(警職法2条1項)があった。

 (2) もっとも、上記行為は適法か。前述4(2)アの基準に照らし判断する。

   ア 上記行為は、Yの意思に反して、行われている。また、上記行為は、Yという人の移動の自由を侵害するものであり、Yを地面に引き倒して押さえつけたという強力な行為態様からしても、かかる自由を実質的に侵害しているといえる

   イ したがって、上記行為は「強制の処分」にあたる。

 (3) よって、上記行為は令状主義が必要な逮捕行為であるにもかかわらず、令状の発付を受けていない点で、令状主義の精神を没却する重大な違法がある(①充足)。

 (4) もっとも、本件覚せい剤は上記行為によって発見されたものではなく、証拠物と本件手続には因果性が認められない。したがって、かかる手続を理由に覚せい剤を排除しても、将来の違法捜査抑止の観点から相当とはいえない(②不充足)。

 (5) よって、上記行為によって覚せい剤の証拠能力は否定されない。

 6 Kが段ボール箱のガムテープをはがし、覚せい剤を発見した行為について

 (1) 上記行為は、いわゆる所持品検査であるが、かかる所持品検査は適法か。

   ア 所持品検査を直接規律する条文はない。しかし、所持品検査は職務質問と密接に関連し、その効果を上げる上で必要性・有効性が認められるところ、警職法2条1項を根拠に許されると考える。

     もっとも、任意手段たる職務質問に付随して認められるところ、所持人の承諾がなくとも、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り許容されると考える。もっとも、警察比例の原則から、所持品検査の必要性・緊急性を考慮した上、具体的状況の下で相当と認められる限り許されると考える。

   イ 本件では、Kが「開けるぞ」と言って段ボールの開封を求めたのに対し、Xは黙っている。通常このように黙っている場合は、拒絶の意思を示したものと考えるのが合理的推認であり、黙示の承諾があったとはいえない。したがって、Xの承諾はない。そして、ガムテープという粘着力ある物質で封をされている場合、その箱の中にある物がみだりに他人に見られないという自由が客観的保護に値するといえる。それにも関わらず、そのような段ボール箱の中身を見る行為は、Xのプライバシーという重要な権利利益を実質的に制約するといえ、強制の処分たる「捜索」にあたる。そして、段ボール箱の中身をみるためになされたガムテープをはがすという付随的措置は捜索という強制処分に付随するものであり「強制」にわたる行為である。

   ウ したがって、上記行為は、違法である。

 2 前述のとおり、上記行為は捜索(218条1項)にあたるにもかかわらず、令状の発付を受けていない点で、令状主義の精神を没却する重大な違法がある(①充足)。確かに、捜査機関があえてかかる違法な行為にでたという主観的事情はない。しかし、本件のように典型的捜索行為にあたるような場合には、あえて違法な行為にでるという認識がなかったとしても、違法な行為であることを認識・認容していたといえ、有意性が推認されると考える。

 3 そして、かかる違法は、覚せい剤の発見に直接結びつく行為であり、証拠物との因果性が認められる。したがって、将来の違法捜査抑止の観点から覚せい剤を証拠から排除することが相当といえる(②充足)。

 4 よって、上記行為によって覚せい剤の証拠能力が否定される。

第2 第2問

 1 本件調書は、Xの公判廷外供述を内容とする証拠で、その内容の真実性がZの犯人性という要証事実との関係で内容の真実性が問題となっているため、伝聞証拠(320条1項)にあたり、原則として証拠能力が認められない。

 2 もっとも、伝聞例外(321条以下)によって、例外的に証拠能力が認められないか。

 (1) XはZ訴訟との関係では「被告人以外の者」にあたる。また、本件調書は「検察官」Pの面前でなされた供述を録取したものであり、Xの「署名」「押印」がある。そこで、321条1項2号該当性を検討する。

 (2) まず、Xは供述不能ではないため、同号前段の要件は満たさない。

 (3) 次に、「相反性」が認められるか。

   ア 供述の相反性とは、立証事項との関係で異なる事実認定を導くおそれのある供述をいう。

   イ 本件では、本件調書と異なって、Xは公判廷で「よく覚えていない」としか供述していない。このような供述のみでは、Zの犯行についてもはや何も供述していないに等しく、裁判所としてはZの犯人性について合理的疑いを超える心証を抱くことは不可能である。そうだとすれば、本件調書とXの公判廷供述は異なる事実認定を導くおそれがある。

   ウ したがって、「相反性」が認められる。

 (4) もっとも、相対的特信情況が認められるか。

   ア 相対的特信情況は、反対尋問に替わり得る信用性を定めたものであるところ、その判断は供述内容ではなく、両供述のなされた外部的事情を比較し、どちらが信用すべき内容の供述がなされる情況であったかを判断する。

   イ 本件では、本件調書については、特に信用性を障害するような外部的事情の存在は認められない。これに対して、Xの公判廷供述については、Zがそこに存在しており、XはZの視線を意識し、終始落ち着かない様子であった。かかるXの様子から、Zの目の前でZの犯行を供述することをおそれたことが推認され、Xの供述の信用性が劣る。また、その日の公判の傍聴席にはZの所属するM組の関係者と思われる人物が複数傍聴に来ていたにもかかわらず、Xはその者らを「誰も知りません」と供述し、すぐ目をそらしている。このようなXの態度からしても、XはM組らをおそれて、公判廷でZの犯行についての証言をしなかったことが推認される。以上にかんがみれば、公判廷におけるYの供述の信用性が低く、他方、本件調書についてはそのような事情はないため、本件調書の方が信用すべき内容の供述がなされる情況であったといえる。

   ウ したがって、相対的特信情況が認められる。

 (6) よって、本件調書は321条1項2号の要件を充足する。

 3 以上より、裁判所は、本件調書を証拠として採用し取り調べることができる。

以上

 

[1] 最決平成16年7月12日参照。

[2] 最決昭和51年3月16日参照。

[3] 前掲平成17年決定参照。本問では、判例の射程が及ぶ以上、かかる規範を先出ししたい。