法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成28年度(平成27年9月/平成28年4月入学) 民法 解答例

解答例

1 EはCに対して所有権(206条)に基づく本件建物収去土地明渡請求[1]をすることが考えられる。

(1) Eは土地αの元所有者であるBから平成17年8月15日に売買契約を締結し、本件越境部分を含む土地βを譲受している。Cは土地αの一部である本件越境部分を本件建物によって占有している。Cは本件建物の所有者である。

(2) 第1に、Cは、Aが土地βの本件越境部分を時効取得(民法162条1項)したため、Eには本件越境部分の所有権が認められないと反論することが考えられる[2]

ア Aは昭和60年6月30日に本件越境部分を含む土地βを縁石によって囲んでおり、本件越境部分について「所有の意思」をもって「占有」している。また、かかる占有時点から20年後の平成17年6月30日にAは本件越境部分を継続して占有している。

  イ もっとも、Eは、自己が本件越境部部分を含む土地αについて登記を具備しており、Aの本件越境部分の所有権は喪失したと再反論することが考えられる[3]

  (ア) 時効による権利取得は原始取得であるが、時効完成後の第三者との関係では二重譲渡類似の関係であるといえる。また、時効取得者は時効取得によって登記が可能なのであるから、これを怠った以上不利益を被っても仕方ない。

     そこで、時効取得後に時効が完成した所有物を元所有者から譲受した者は「第三者」(177条)にあたり、時効取得者は登記がなければ、所有権を対抗できないと考える。

(イ) 本件では、EはAに時効が完成した平成17年6月30日より後の、平成17年8月15日に土地βを譲受している。そして、Eは既に土地βの登記を具備している。

(ウ) よって、Eは「第三者」にあたり、また、本件越境部分を含む土地βの登記を具備している以上、Aは本件越境部分の所有権をEに対抗できない。

ウ よって、かかる反論は認められない。

(3) 第2に、Cは、本件越境部分について土地賃借権を時効取得(163条)したため、Eは本件越境部分の所有権が認められないと反論することが考えられる[4]

  ア 賃借権が「所有権以外の財産権」にあたるか。

  (ア) 賃借権は債権であり、永続した事実状態を観念できないため、原則として時効取得になじまないと考える。

     しかし、不動産賃借権は継続的な不動産の占有を目的とする再建であり、永続的な事実状態を尊重する必要性が認められる。

     そこで、不動産賃借権は「財産権」に含まれると考える。

     もっとも、相手方の時効中断の機会の付与という観点から、①目的物の継続的用益という外形的事実が存在(「行使する」)し、かつ②賃借の意思が客観的に表現されている場合(「自己のためにする意思」)に、163条のその他の要件を満たすことで、時効取得が認められると考える。

(イ) 本件では、Cは本件越境部分を含む土地αの上に本件建物を建ててそこに居住しているところ、目的物の継続的用益が認められる(①充足)。また、CはAに対して土地αの賃料を支払い続けており、賃借の意思が客観的に表現されている(②充足)。

     Cは土地αを平成7年8月20日に建物の継続的な用益を開始しており、かかる時点から10年後の平成17年8月20日においても占有を継続している。

     Cは「平穏」にかつ「公然」[5]と、「善意無過失」で本件越境部分を賃借している。

(ウ) したがって、Cは本件越境部分を時効取得する。

イ もっとも、Eは、自己が本件越境部部分を含む土地αについて登記を具備しており、Aの本件越境部分の所有権は喪失したと再反論することが考えられる[6]

(ア) 時効取得は原始取得であり、時効取得者と時効完成時の権利者は当事者とはいえない。しかし、時効取得者の権利取得によって他方が権利を反射的に失うという関係は当事者類似の関係といえる。また、時効完成前は、時効取得者は登記を具備することが不可能であるから、時効完成前の第三者との関係でも登記の具備を要するというのは酷である。

     そこで、時効完成前の第三者は登記なくして対抗できると考える。

(イ) 本件では、Cが土地賃借権を時効取得したのは平成17年8月20日であるのに対して、EがBから土地βを譲受したのは平成17年8月15日であり、Eは時効完成前の第三者にあたる。

(ウ) したがって、Eのかかる再反論は認められない。

2 以上より、Eの請求は認められない。

以上

 

[2] E:時効取得によるEの所有権喪失の抗弁

(イ)占有の事実(ロ)(イ)から20年後の時点での占有の事実(186条2項)(ハ)時効の援用

[3] R:対抗要件具備に基づく所有権喪失の抗弁

(イ)自己が「第三者」にあたること(ロ)登記を相手方に先立って具備したこと

大連判大正14・7・8参照。

なお、この論点の前に、土地賃借人が時効援用権者にあたるか、という論点について言及可能。もっとも、かかる点については下級審での判断も分かれており、簡単に記述することが難しいため、本答案例ではあえて言及していない(肯定例:東京高裁平元・6・30、否定例:東京高裁昭47・10・27(私見としては、肯定説が妥当と考える))。そもそも、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁が認められるため、書く実益がない(受験戦略上書くという手段はあり得る)。

以下、参考論証。

【参考論証】

土地賃借人が「当事者」(145条)にあたるか。

「当事者」とは、時効によって直接に利益を受ける者に限られると考える。なぜなら、財産権の意に反する喪失は簡単に認められるべきではいし、援用の相手方以外のものの法律関係を変動させることも、私的自治の原則からして原則として認められないと考えられるからである。

 そこで、時効の援用権者にあたるかどうかは法律関係の①直接性②可分性によって決すると考える。

 土地の賃借人は、土地所有者が所有権を喪失することによって土地賃借権を侵害されることから、直接性は認められる。また、土地賃借人に援用を認めても、土地賃借人が賃料を請求者に対して支払えば、土地所有者の法律関係が変動することはないため、可分性も認められる。

 したがって、土地賃借人は「当事者」にあたる。

[4] E:時効取得(163条)による所有権喪失の抗弁

要件事実は論点の解釈によって、変容される。

【参考判例】最判昭43・10・8

[5] 推定規定(186条1項)について言及の余地あり。

なお、188条の無過失の推定は時効には適用されないのが通説。

[6] R:対抗要件具備に基づく所有権喪失の抗弁

要件事実は前述参照。

最判昭41年11月22日参照。