法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成30年度(平成29年9月/平成30年4月入学) 商法 解答例

 解答例

第1 問1 (以下、会社法は法名略。)

 1 Yは、423条に基づき、甲社に対して損害賠償責任を負わないか。

 2 Yは「株式会社」である甲社の「取締役」である。

 3 Yは「任務を怠った」(任務懈怠)といえるか。

 (1) 取締役は、会社に対して、委任契約に基づく善管注意義務を負い(330条、民法644条)、その一内容として忠実義務を負う[1](355条)。

    そこで、かかる義務に反する場合には任務懈怠が認められると考える。

 (2) 本件では、Yが乙社を代表して大阪市内でした菓子工場の製造・販売が競業取引(356条1項1号)にあたるにも関わらず、Yが事前に競業の承認を得ていないことが法令違反として任務懈怠にあたるか。

   ア 「会社の事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている取引と目的物及び市場が競合する取引をいう[2]。同条の趣旨は、取締役が会社の利益の犠牲の下に、自己又は第三者の利益を図ることを防止する点にあるところ、会社が進出を企画し市場調査等を進めていた地域も市場に含まれると考える[3]

     本件では、甲社は菓子の製造及び販売を業とする会社であり、Yが代表している乙社は甲社と目的物が競合している。確かに、甲社は東京都内で菓子を製造及び販売しており、これに対して乙社は大阪市内で菓子を製造及び販売しているため、市場が競合していないとも思える。しかし、甲社は関西での製造及び販売の展開を検討し、具体的な目標地域として大阪市内を考えており、しかも、2013年4月に市場調査会社に依頼して、同市の菓子の市場動向を調べていた。以上にかんがみれば、甲市は近い将来に大阪市内への進出する蓋然性が高いといえ、甲社と乙社は市場が競合する。

     したがって、「会社の事業の部類に属する取引」にあたる。

   イ 同号違反の効果は、423条2項の損害額の推定にあるところ、「自己又は第三者のために」とは、自己又は第三者の計算においてを意味すると考える。

     本件では、Yは大阪に進出する利益を個人的に独占しようと考えており、自己の計算のために競業したといえる。

     したがって、「自己又は第三者のために」にあたる。

   ウ 甲社は取締役会設置会社であるが、Yは事前に「取締役会」で「重要な事実を開示」し「承認」を受けていない(365条1項、356条1項柱書)。

(3) よって、356条1項1号に反し、任務懈怠にあたる。

 4 乙社は、1億円の利益を上げている。乙社はYが一人で出資して設立した会社であるため、乙社の利益はYの利益と同視できる。したがって、1億円が「損害」額と推定される(423条2項)。かかる利益は、上記違反の下でなされた競業取引によって得たものであり、任務懈怠との因果関係も認められる。

 5 Yは大阪に進出する利益を個人的に独占しようとして甲社の取締役会の承認を得ていないのであるから、故意が認められる。

 6 以上より、Yは甲社に対して423条1項に基づき1億円の損害賠償責任を負う[4]

第2 設問2

 1 前述のとおり、Yが乙社を代表して行った一連の取引は、甲社の株主総会の承認を得ていないところ、かかる取引が無効とならないか。

 2 競業取引は基本的に会社以外の者によって行われる取引であるため、これを無効としても会社の救済にならない。そこで、承認を得ないことが取引の私法上の効力に影響しないと考える。

 3 したがって、本件契約も有効である。

以上

 

[1] 最判昭和45年6月24日参照。なお、有力説は、忠実義務を会社の利益を犠牲にして私利を図ってはならないという「特別の」義務を定めたものであると考える。事例⑫250頁参照。

[2] 江頭7版439頁参照。

[3] 東京地判昭和56年3月26日参照。

[4] 事実7は法的に何を意味するかは不明。このような事後的な取締役会の承認によって、瑕疵が治癒されることにはならないはずである(424条参照)。この点について、365条1項の適用により取締役会の承認で足りる場合には事実7のような取締役会の事後的承認で責任が免除されるのではないか、というご指摘を頂いた。説得的であり、そのような考え方もあり得るように思われる。他方、既に任務懈怠による損害が発生している以上、責任免除には総株主の同意が必要であるという考え方も成り立ちうるように思われる(要検討)。