法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成28年度(平成27年9月/平成28年4月入学) 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 本件では、入院治療費について、裁判所は、Xが申し立てた100万円を超えて、150万円と認定しているところ、処分権主義(246条)に反するのではないか。

 (1) そもそも、不法行為における訴訟物の範囲はどこまでか。入院治療費と慰謝料を合わせて1つの訴訟物だとすれば、本件では300万円の損害賠償請求が訴訟物となり、裁判所の判決は一部認容判決となり、上記の問題は生じないため、問題となる。

   ア この点について、不法行為に基づく損害賠償請求について、人損のうち身体的損害と心理的損害を分けて訴訟物とする見解もある。

しかし、少なくとも身体的損害と精神的損害については、原因事実および被侵害利益を共通にするものである。また、不法行為訴訟においては、損害の立証が困難な場合が多く、被害者が望んだ金額が認定されないことが多い。このような場合に、裁判所が慰謝料を多めに認定することで、立証できなかった損害額について、補完する必要性がある。

そこで、不法行為の訴訟物は、少なくとも、人損はまとめて1つの訴訟物を構成すると考える。

   イ 本件では、入院治療費100万円と慰謝料200万円の合計300万円があわせて1つの訴訟物となると考える[2]

 (2) 以上によれば、そもそも1に述べたような問題は生じない。

 2 もっとも、裁判所はXの申し立てた金額よりも低い250万円の認容判決をしているところ、かかる判決がなお処分権主義(246条)に反しているのではないか。

 (1) 処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の特定、訴訟の終了を当事者の処分にゆだねる建前をいう。その趣旨は、私的自治の訴訟法的反映にあり、その正当化根拠は被告への不意打ち防止にある。

    そこで、裁判所の判決が①原告の合理的意思に反せず、②被告の不意打ち防止にならない場合には、一部認容判決も許されると考える。

 (2) 本件では、Xとしては全部の請求棄却判決よりは、250万円の請求認容のほうが有利であり、原告の合理的意思に反しない(①充足)。また、被告としても、300万円までは支払いを覚悟していたのだから、不意打ちにはならない(②充足)。

 (3) したがって、処分権主義には反しない。

 3 以上より、本件には訴訟法上の問題はない。

第2 設問2

 1 控訴が認められるためには、控訴の必要性、すなわち控訴の利益が必要である。本件では、Xに控訴の利益が認められるか。

 (1) 処分権主義の観点から、控訴の利益は裁判所の裁量的判断に左右されるべきではない。そこで、基準の明確性という点から、第1次的には当事者の申し立てと判決主文を比較して、後者が前者よりも原告に不利な場合には、控訴の利益が認められると考える[3]。もっとも、実質的な救済の見地から、補充的に、判決効が後訴において不利に働く者についても、控訴の必要性があり、控訴の利益が認められると考える[4]

 (2) 本件では、当事者の申し立ては300万円であり、また、裁判所の認容額も300万円である。原告にとって裁判所の判決は不利ではない。

 (3) もっとも、本件は第1審において、Xは300万円の請求が全損害額の一部であることを明示していない。

   ア 原告の分割的請求の自由と被告の副次的応訴の負担の調整の観点から、原告が、請求が全額の一部であることを明示した場合には、一部額が訴訟物となるのに対し、かかる明示をしていない場合には、訴訟物は請求全額になると考える[5]

  イ 以上の見解に立つと、本件Xは第1審において300万円が損害の一部であることを明示していないため、訴訟物が損害全部となり、既判力もその範囲に生じる(114条1項)。そうだとすれば、Xは後訴において、150万円の残部請求をしたとしても、訴えの利益がなく訴え却下判決をなされるか、もしくは既判力の双面性によって、後訴が遮断される。

   ウ したがって、Xには本件判決効が後訴において不利に働く者にあたる。

 2 以上より、Xには控訴の利益が認められる[6]

したがって、判決謄本の送達から「2週間」以内に、控訴状を第1審裁判所に提出することによって、Xは控訴することができる。

以上

 

[1] 平成27年度司法試験予備試験民事訴訟法参照。

[2] 最判昭48・4・5参照。なお、人損と物損が訴訟物を同一にするかについて、最高裁は判断していない。

[3] 形式的不服説。

[4] 新実体的不服説。

[5] 黙示の一部請求について最判昭32・6・7、明示の一部請求について最判昭37・8・10参照。

[6] 名古屋高金沢支判平元・1・30参照。もっとも、否定説も有力である。そもそも原告Xは第1審において一部請求であることの明示をすることができたにも関わらずそれを怠ったにすぎない以上、その不利益は織り込み済みであって、被告の応訴の負担と審級の利益を重視し、控訴の利益を認めるべきではないからである。したがって、一部請求において控訴の利益が認められるのは、一部請求であることの明示がないことに過失がない場合である(三木浩一『民事訴訟における手続運営の理論』(有斐閣、2013年)140頁参照)。ただ、形式的不服説からは出てこない論法であるし、新実体的不服説でも考慮しない事項を考慮している。控訴の利益はありとして、時機に遅れた攻撃防御方法(157条)として却下する方が穏当のようにも思われる(私見)。なお、試験との関係では本答案例で充分に上位であると思われるため、注での指摘にとどめる。