法律解釈の手筋

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同時審判申出共同訴訟の手筋

 

※参考文献[1]

 

0.事例

事例1.【代理と無権代理事例】 Xは、代理人Zと甲土地の売買契約締結をしたとして、本人Yに対して売買契約に基づく履行請求をすると同時に、仮にZが無権代理人である場合を想定して、Zに対して無権代理に基づく損害賠償請求をした上、同時審判の申出をした。

事例2.【売買契約当事者の不明事例】Xは、売買契約の当事者がYかZか不明であるとして、両者に対して売買契約に基づく履行請求をした上、同時審判の申出をした。

 

1.制度趣旨

(1) 概要

 例えば、事例1の場合、Yに対する関係ではZに代理権があったと主張して請求し、Zに対する関係ではZには代理権がなかったので損害賠償請求をせよと主張する。この場合、両請求は、代理権の有無によって非両立の関係にあり、両請求が共に認容又は棄却されることは法律上あり得ない。しかし、両請求の被告は異なり訴訟物も異にするため、通常共同訴訟の関係にしかない。両請求が別々の裁判所に係属し審理することがあり得、それによって両請求が棄却されるという結果が生じうる。しかし、この結果は実体法上あり得ないものであり、原告に二重敗訴の危険を負担させる。そこで、このような原告の二重敗訴の危険を回避するために、同時審判申出共同訴訟が規律された。

 同時審判の申出により、弁論の分離が禁止され一部判決が許されない(41条1項)。これによって、同一の裁判所が審理判断することになるため、事実上統一的判断が保障され、原告の二重敗訴の危険が回避される。

 平成8年新法によって、創設された。

(2) 主観的予備的併合の代替制度

 原告が一方の請求の審判を優先して申立て、それが認容されることを解除条件として他の請求の審判を求める併合形態を、主観的予備的併合という。主観的予備的併合は、①二重敗訴の危険を事実上回避するとともに、②原告の主張の一貫性を確保したいというニーズを満たす実務上の工夫[2]*¹であるが、③予備的被告の地位が不安定になること④上訴審において審判の統一を図ることも困難であること、という問題点を有するとされる[3]

 同時審判申出共同訴訟は、①について、前述のとおり弁論及び裁判の分離が禁止され事実上の統一的判断がなされることで、原告の二重敗訴の危険を回避する。②については、同時審判申出共同訴訟が単純併合であるため、形式的には主張の一貫性を確保できていない。しかし、これは観念的な議論であるとされており[4]、同時審判申出共同訴訟の制度趣旨から、主張の一貫性を欠くことにはならないことを当然の前提であると捉えるのが通説である[5]。そして、③について、同時審判申出共同訴訟は予備的併合ではなく単純併合であるため、被告の地位を不安定にすることはない。④についても、両請求が控訴された場合には、控訴審における弁論および裁判の併合が強制されるため(41条3項)、一応の対処がなされている。

 このように、同時審判申出共同訴訟は主観的予備的併合が目指すところを別の形で実現しようとするものであり、平成8年新法で主観的予備的併合を立法できなかった代償として創設された[6]

 

*1 主位的請求の認容判決を解除条件として他方の請求を求める予備的併合とすることで、原告主張の一貫性を欠くことを回避することができるということを意味する。

 

2.「法律上併存し得ない関係」

 同時審判申出共同訴訟が認められるためには、共同被告に対する両請求が「法律上併存し得ない関係」にあることが必要であり、事実上の併存し得ない関係では足りないとされている。それでは、法律上併存し得ない関係とはいかなる関係を指すか。

(1)狭義説(立案担当者・通説)

 「法律上併存し得ない関係」とは、一方の請求における請求原因事実が他方の請求では抗弁事実になるなど、主張レベルで請求が両立しない関係をいうとする考え方である。

 かかる見解によると、事例1は、Yに対する請求では代理権の存在は請求原因事実であるのに対して、Zに対する請求では代理権の存在は抗弁事実であるため、かかる要件を充足する。これに対して、事例2は、Yに対する請求の請求原因事実であるXY間売買契約締結の事実がZに対する請求で抗弁事実となるわけではなく、Zに対する請求の請求原因事実であるXZ間売買契約締結事実と両立しない理由付否認となる。したがって、事例⒉ではかかる要件を充足せず、同時審判の申出が認められないということになる*²。

(2)広義説(竹下・高見)

 狭義説に対して、一方の被告への請求における請求原因事実が他方の被告への請求における抗弁事実になる場合でなくても、すなわち、もし仮にXがZに対して無権代理であることの主張立証責任を負っていたとして、実体法上の択一関係は存在するのであるから狭義説のような関係に限定する必要はないとする考え方がある。

 かかる見解によれば、事例1及び事例2の両方について、同時審判申出共同訴訟が認められるということになる*³*⁴。

 

*2 もっとも、狭義説にたつ論者は、事例2において裁判所の裁量の観点から統一的判断を指向し、特段の事情がない限り裁判所は弁論の分離をしてはならないとする[7]

 

*3 主張立証責任の分配から実体法上の択一関係を決するのが妥当でないとしても、なぜかかる理由が事例2のような場合にも同時審判申出共同訴訟を認めることになるのか、よく分からない。

ところで、狭義説は実体法上の択一関係を「一方の被告に対する請求の請求原因事実が認められないならば、他方の被告に対する請求の抗弁事実が当然に認められないことになる」場合に限定するのに対して、広義説は、「一方の被告に対する請求の請求原因事実が認められるならば、他方の請求原因事実が当然に認められないことになる」場合も実体法上の択一関係に含まれると捉えているように思われる。確かに、請求原因事実が認められる場合と認められない場合の両方で他方の請求と択一関係になくても、実体法上あり得ない矛盾判決防止の観点から同時審判申出共同訴訟を肯定する理解もあり得ないではない。しかし、同制度の趣旨は原告の二重敗訴の回避に向けられているのであり、論理的な合一確定にあるわけではない。原告の二重敗訴の回避の観点からは、原告が一方の請求に敗訴した場合に、他方の請求で勝訴できることを保障すれば充分であると考えられるから、請求原因事実が認められない場合を想定して択一関係にあるかを決する狭義説の方が制度趣旨に合致すると私見は考える。狭義説と広義説の対立点は、このようなところにあるのではないだろうか。

 

*4 もっとも、広義説にたつ論者も事例2に対して厳格に41条を適用するのではなく、弁論の分離・併合を弾力化して適用すべきである旨説く。そうだとすると、*2で論じた広義説のように41条の外側で裁判所の裁量の限定を論じるか、狭義説のように41条が適用され裁判所の裁量が収縮されたところから裁量を一定程度認めるかということは、具体的帰結に大きな差異をもたらすことはない。したがって、狭義説と広義説は解釈論上の差異にすぎず、大きな問題ではないと評価することができる。

 

3.主観的予備的併合の可否

 同時審判申出共同訴訟は主観的予備的併合の目指すところを達成するために創設されたものであるが、なお主観的予備的併合に独自の意味があるのではないかが論じられる。

(1)否定説(通説)

 ①同時審判申出共同訴訟は旧法下における見解の対立を解消するために設けられたという立法の経緯②主観的予備的併合には予備的被告の地位の不安定という決定的な難点があること③同時審判申出共同訴訟によって原告の不都合はほとんど解消されること、等から主観的予備的併合を認めないとする考え方が通説である[8]

(2)肯定説(高橋)

 ①主観的予備的併合では順位指定によって矛盾主張の問題が回避されているが、同時審判申出共同訴訟では矛盾主張の問題がなお存在すること②同時審判申出共同訴訟では共同訴訟人独立の原則が働くので、自白によって統一的審判が保障されない場合があること③旧法下で下級審裁判例が主観的予備的併合を認めていた事例など、被告の保護を必ずしも考える必要がない場合もあること④同時審判申出共同訴訟は上訴との関係における審判の統一が不十分であること、等の理由から主観的予備的併合がなお認められるとする考え方も、なお有力である*⁵。

 

*5 ①について、同時審判申出共同訴訟は矛盾主張を当然に前提とする制度であること②について、同時審判申出共同訴訟は原告の二重敗訴の回避にあるのであるから被告の自白による原告の二重勝訴は制度趣旨に反せず許容されるし、原告の自白による二重敗訴は原告の処分行為であるからこれも制度趣旨に反せず許容されること③について、不安定な地位に置かれてもやむを得ない被告を積極的に不安定な地位に置かなければならないわけではないこと④について、本来通常共同訴訟である両請求が40条準用によって被告の1人の上訴が他の被告との関係でも移審効を生するというのは過大な効果であり、原告に控訴の負担を負わせても不合理でないことから、否定説が妥当であると私見は考える[9]

 

[1] 主な参考文献として、高橋宏志『重点講義民事訴訟法(下)[第2版補訂版]』(有斐閣、2015)394頁以下(以下「重点講義・下」で引用)三木浩一「多数当事者紛争の処理」『民事訴訟における手続運営の理論』(有斐閣、2013)247頁以下特に253頁ないし259頁、高見進「同時審判の申出がある共同訴訟の取扱い」新堂幸司先生古稀祝賀・民事訴訟法理論の新たな構築(上)(2001)673頁等を参照。

[2] 主位的請求の認容判決を解除条件とすることで、原告主張の一貫性を欠くことを回避することができるということを意味する。

[3] 三木・前掲注(1)254頁参照。

[4] 高橋・前掲注(1)(重点講義・下)406頁参照。

[5] 三木・前掲注(1)254頁注(24)参照。

[6] 高橋・前掲注(1)(重点講義・下)405頁参照。

[7] 三木・前掲注(1)256頁参照。

[8] 三木・前掲注(1)257頁参照。

[9] 三木・前掲注(1)258頁以下が明快に論じるところであり、私見もこれに全面的に賛同する。