法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成27年度(平成26年9月/平成27年4月入学) 刑法 解答例

解答例

第1 Yの罪責

1 YがXと共謀の上、Aに暴行を加え、バッグからAの財布を持ち出した行為に、強盗罪の共同正犯(60条、236条)が成立するか。

(1) 共同正犯の客観的構成要件を充足するか。

ア 60条の一部実行全部責任の処罰根拠は、各犯罪者が共同してその犯罪の実行に重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

そこで当該行為者が①共犯者間が「共同して」相互的な意思連絡の下②正犯意思をもって③重大な寄与をし、かつ、④共謀に基づく「犯罪を実行」して実行行為をすれば、共同正犯が成立すると考える。

   イ まずXYはAに対して強姦しようと計画しており、その中には暴行の計画も含まれているといえる。また、その後XYは現場で財物奪取の計画を立てており、意思の連絡が認められる(①充足)。また、Yは自己の犯罪として本件犯罪を行う意思を有している(②充足)。さらに、Xは財布を抜き出すという財物奪取行為を行っており、重大な寄与を果たしている(③充足)。

     もっとも、共謀に基づく実行行為、すなわち、「暴行」があったといえるか。

(ア) 「暴行」とは、①財物奪取に向けられた②相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使をいう。

      そして、暴行行為時に金品の奪取意図がないいわゆる事後的奪取意図の場合には、手段たる暴行とはいえないため、新たな暴行脅迫がない限り実行行為性が認められないと考える。もっとも、新たな暴行脅迫はすでに先行行為によって相手方が反抗を抑圧されている場合には、態様の弱い暴行脅迫でも足りると考える。

(イ) 本件では、確かにXYはAに対して暴行を加えており、Aの反抗を抑圧するに足る程度の暴行があったといえる(②充足)。しかし、上記行為時には財物奪取の意図がないため、手段たる暴行とはいえない(①充足)。また、その後に新たな暴行脅迫も加えられていない。

(ウ) したがって、「暴行」にはあたらない(④不充足)。

(2) よって、Yの上記行為に強盗罪の共同正犯は成立しない。

2 Yの上記行為に、窃盗罪(235条)が成立するか。

(1) Aのバッグという「他人の財物」をAの意思に反してY又はXの占有に移転する「窃取」している。

(2) もっとも、YはAが死亡してしまったと誤認しており、窃盗罪の故意(38条1項)が認められないのではないか。

   ア 故意とは、犯罪事実に対する認識・認容をいうところ、構成要件に該当する具体的事実の認識・認容でたりる。

     死者については、原則として財物に対する占有が認められない。しかし、①死者を殺害した犯人との関係で②時間的場所的近接性が認められる場合には、死者の占有もなお保護に値するため、占有が認められると考える[1]

     そこで、行為者の主観において、上記①②の事実を認識・認容していた場合には、窃盗罪の故意が認められると考える。

   イ 本件では、Yの認識ではAを殺害しているところ、行為者である以上自身が犯人であることの認識は認められる(①充足)。また、そうだとすれば、殺害行為と窃盗行為との時間的場所的近接性も認識していたといえる(②充足)。そして、かかる事実を認識しながらあえて上記行為を行っているため、認容もあったといえる。

   ウ したがって、故意(38条1項)が認められる。

 (3) よって、Yの上記行為に窃盗罪が成立する。

3 Yが「ネックレスだ。ネックレス。ネックレス」と言って、それに応じてAがネックレスを手渡した行為に強盗罪が成立するか。

(1) 「脅迫」にあたるか。前述の基準により判断する。

ア 確かにYの上記行為は、それだけをみると単にAの首元に指をさして「ネックレス」と言っているだけで、なんら相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものとはいえない。しかし、Yは前述のとおりXと共同してAに暴行を加えて反抗を抑圧した者である。Aは先行する暴行行為によって犯行を抑圧されており、すでに極度の恐怖感を抱いているため、Yの上記行為に逆らったらまた暴行を加えられるかもしれないと考えるのが通常である。以上の状況に鑑みると、Yの上記行為は先行する暴行行為と相まって、Yの反抗を抑圧するに足りるものであったといえる。

イ したがって、「脅迫」にあたる。

(2) YはAの意思に反してネックレスを交付させており「強取」にあたる。

(3) Yの上記行為、Aの反抗抑圧及び結果との間に因果関係も認められる。

(4) Yに故意(38条1項)も認められる。

(5) よって、Yの上記行為に強盗罪が成立する。

第2 甲の罪責

1 Yと計画してAの財布を持ち出した行為に窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立する。

2 XがYと共謀の上、Aのネックレスを奪った行為について強盗罪の共同正犯(60条、236条)が成立するか。

(1) 共同正犯の客観的構成要件を充足するか。

ア まず、前述のとおり、XYに財物奪取の意思連絡は認められる(①)。また、Xは自己の犯罪として財物奪取を行う意思もあるし(②)、財布を持ち出すという重要な行為を行っている(③)。

     もっとも、Yの上記行為が共謀に基づく実行行為といえるか。

     確かに、Aという同一人物からの財物奪取であるため、共謀の射程が及ぶとも思える。しかし、XYは財布を持ち出した後すでに自己の車に引き返そうとしており、Aの下を離れている。したがって、ここで共謀に基づく財物奪取行為は終了したものといえる。また、Yはネックレスを奪いに行く際、Xに対して「スマホを落としたみたいだ」などと噓を言って車に戻っていることからも、Xとの計画に基づく行為として行ったといえる客観的事情はない。

     したがって、上記XYの共謀の危険性がYの上記行為へと現実化したとは言えない(④不充足)。

     また、その後に新たな共謀もない(①不充足)。

イ よって、共同正犯は成立しない。

(2) 以上より、甲に強盗罪の共同正犯は成立しない。

以上

 

[1]最判昭41・4・8参照。学説では反対説が多数説。反対説に立つ場合は、抽象的事実の錯誤になり、窃盗罪と占有離脱物横領罪の実質的重なり合いが問題となり得る(窃盗罪の保護法益は占有権であるが、その背後にある所有権も保護していると考えられ、そうだとすれば占有離脱物横領罪の限度で重なり合いが認められる)。