法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成29年度(平成28年9月/平成29年4月入学) 刑法 解答例

 解答例

1 甲がAをワインボトルで殴って死亡させた行為に、傷害致死罪(205条)が成立しないか。

(1) 甲はAという「人」の後頭部という致命傷になり得る部位を、ワインボトルという重くて硬い凶器で振り下ろして殴っているところ、重力及び遠心力も加わりかなりの威力であるといえるため、人の生命を侵害する現実的危険性を有する行為といえ、傷害致死罪の実行行為性が認められる。

(2) Aに死という結果が生じている。

(3) もっとも、本件ではAは1 時間後にようやく病院に搬送されており、現場近くの病院で直ちに手術を受けていれば助かっていた可能性もあったところ、甲の上記行為とAの死という結果に因果関係が認められるか。

ア そもそも法的因果関係とは、当該行為者に結果責任をとうことができるかという問題である。

   そこで、当該行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合には、因果関係が認められると考える。

 イ 確かに、本件では、近隣の病院が満床で、上記行為から1時間後に病院に搬送されたことが相まって、Aの死という結果が発生している。しかし、そもそもAの死は、甲の上記行為が致命傷となり、死因を形成していることから、甲の上記行為の危険性が極めて大きい。そうだとすれば、もし仮に上記介在事情がなかったとしても実際に生じた結果と同一の結果が生じたといえ、介在事情の結果への寄与は甲の上記行為に比べて小さいといえる。

   したがって、甲の上記行為の危険性がAの死という結果へと直接現実化したといえる。

 ウ よって、因果関係は認められる。

(4) 甲に傷害の故意(38条1項)は認められる。なお、結果的加重犯の処罰根拠は、基本犯に重い結果を発生させる類型的で高度な危険が含まれる点にあることから、死亡についての故意は不要と考える。

(5) AとBは単にふざけ合っていただけであり、「急迫不正」の侵害が認められず、正当防衛(36条1項)は成立せず、違法性は阻却されない。

(6) 甲は、AがBを襲っていると誤認していることから、自己に正当防衛が成立すると誤認しており、責任故意(38条1項)が阻却されないか。

ア 故意責任の本質は、反規範的態度に対する道義的非難であり、規範は構成要件の形で国民に与えられている。そして、違法性阻却事由もかかる規範となりえ、それを誤信した者は規範的傷害を乗り越えたとはいえない。そこで違法性阻却事由について誤信していた場合も、事実の錯誤として責任故意が阻却されると考える。

 イ 本件では、甲の主観において、正当防衛が成立するか。

 (ア)  本件では、夜に公園の茂みでAがBに後ろから抱きついており、甲の主観においては、甲の住む住宅街において強制わいせつ事件が多発しているという情報もあいまって、AがBを襲っていると誤認している。したがって、甲の主観ではBの性的安全に対する法益侵害が切迫しているといえ「急迫」性が認められる。また、Aの行為は、甲の主観では、強制わいせつ罪という「不正」なものである。

(イ) また、甲はBの性的安全という「他人の権利」を「防衛するため」に上記行為に出ている。

 (ウ) もっとも、甲のかかる行為は、Bの性的安全を防衛するために、ワインのボトルでAの後頭部を殴るという態様の強い有形力行使をし、Aの生命を侵害している。その態様には相当性が認められず、「やむを得ずにした」とはいえない。

 ウ したがって、責任故意は阻却されない。

(7) よって、甲の上記行為に、傷害致死罪が成立する。

(8) もっとも、甲の上記犯罪に36条2項が適用され、任意的減免とならないか。

   36条2項の減刑根拠は、急迫不正の侵害に対する防衛行為がなされている点で違法性が減少し、また、急迫不正の侵害に直面した緊急事態においては多少の過剰行為は非難可能性が減少するからである[1]

   そこで、誤想過剰防衛にも、36条2項が準用されると考える。もっとも、急迫不正の侵害が存在しなかった以上違法性は減少しないため、任意的減軽にとどまると考える。

2 甲がBを上記行為によって傷害を負わせた点に、傷害罪(204条)が成立しないか。

(1) 甲の上記行為はAに向けられたものである。しかし、AはBと抱きついているのだから、Aをワインボトルで殴りAが転倒すること等によって、Bにも転倒等何らかの危険な影響がでることが客観的に認められるため、人の生理的機能を障害する現実的危険を有する行為といえ、実行行為性が認められる。

(2) また、上記行為によって、Bは両手首骨折という「傷害」を負った。

(3) もっとも、甲にAを傷害する意図はなかったため、故意(38条1項)が認められないのではないか。

 ア 故意責任の本質は、前述のとおりである。

   そこで、主観的に認識していた事実と客観的に発生した事実が構成要件の範囲内で符合している限り、故意が認められると考える。また、故意を抽象的に捉える以上その個数は問題になり得ず、また、観念的競合(54条1項前段)として処理できるため不都合もない。

イ 本件では、客観的にはBの傷害罪が発生しており、甲の主観ではAの傷害罪を認識しているところ、およそ人を傷害するという点で同一構成要件内での重なり合いが認められる。

ウ したがって、故意が認められる。

(4) よって、甲の上記行為にBに対する傷害罪が成立する。

3 以上より、甲の行為に①傷害致死罪②傷害罪が成立し、観念的競合(54条1項)となる。

 

[1] 違法責任減少説。