1.賃料債権に対する物上代位の可否-最高裁平成元年1月30日第二小法廷判決-
【結論】
肯定。
【理由】
(1)372条の準用する304条1項本文には「賃料」と規定されている。
(2)賃料債権に対する物上代位を認めても、抵当権設定者の使用収益権を自体を妨げることにはならない。
2.転貸賃料に対する物上代位の可否-最高裁平成12年4月14日第二小法廷決定-
【結論】
原則として否定。
もっとも、例外的に、「所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使すること」ができるとした。
【理由】
(1)賃借人(転貸人)は「債務者」(304条1項本文)にあたらない。
(2)所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはない。
3.保険金請求権に対する物上代位の可否-大審院連合部判決大正12年4月7日-
【結論】
肯定。
【理由】
保険金請求権は、抵当目的物の滅失・損傷を原因として設定者が取得する価値であり、経済的にみて抵当目的物の価値変形物である。
4.請負代金債権に対する物上代位の可否-最高裁平成10年12月18日第三小法廷判決-
【結論】
「原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる」とした。
(本件事案は先取特権の物上代位についての事案であることに注意)
5.買戻代金債権に対する物上代位の可否-最高裁平成11年11月30日第三小法廷判決-
【結論】
肯定。
【理由】
(1)「買戻特約の登記に後れて目的不動産に設定された抵当権は、買戻しによる目的不動産の所有権の買戻権者への復帰に伴って消滅するが、抵当権設定者である買主やその債権者等との関係においては、買戻権行使時まで抵当権が有効に存在していたことによって生じた法的効果までが買戻しによって覆滅されることはない」。
(2)「買戻代金は、実質的には買戻権の行使による目的不動産の所有権の復帰についての対価と見ることができ」る。
6.売却代金に対する物上代位の可否(判例なし)
【学説】
肯定説と否定説に分かれる(否定説が多数説)。
【理由】
(1)肯定説
304条1項本文に「売却」と規定されている。
買戻代金について「所有権復帰の対価」としての物上代位を肯定する判例からすれば、売却代金は「所有権取得の対価」として物上代位が認められる。
(2)否定説
抵当権には追及効がある以上、売却代金に物上代位を認める実益は乏しい。
抵当権付不動産の売買の場合、抵当権負担部分を考慮した売却代金が設定されるため、その売却代金に物上代位できるとするのは妥当でない。
売却代金に抵当権行使を認める方法として、代価弁済制度(378条)がある。