法律解釈の手筋

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抵当権の物上代位と第三者の競合の手筋

1.304条1項但し書(「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」)の趣旨

(1)判例-最高裁平成10年1月30日第2小法廷判決-

「右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点」にあるとした(第三債務者保護説)

(2)学説

ア優先権保全説

イ特定性維持説

ウ折衷説

 

2.物上代位と第三債務者による弁済の優劣

【結論】

「払渡し」に当然にあたるため、物上代位権者は弁済がなされる前に差押えをしなければ、物上代位権を行使することはできない。

 

3.物上代位と債権譲渡の優劣-前掲最判平10・1・30-

【結論】

債権譲渡は「払渡し又は引渡し」にあたらない。したがって、債権譲渡の第三者対抗要件具備後においても、物上代位権者は当該債権について差押えをすることによって、物上代位権を行使することができる。

【具体的帰結】

1.物上代位権者が差押えする前の債権譲渡で、その後物上代位権者が差押えをした場合

(1)抵当権設定登記前の債権譲渡

物上代位の差押えがあっても、物上代位権者に対抗できる。譲受人に抵当権を対抗できない以上、当然である。

(2)抵当権設定登記後の債権譲渡(判例の判旨はこの部分について)

物上代位の差押えがあった場合、物上代位権者に対抗できない。もっとも、差押え前に第三債務者が債権譲受人に弁済等した場合は、弁済等の行為が「払渡し又は引渡し」にあたるため、物上代位権者に対抗できる。

2.物上代位権者が差押えをした後の債権譲渡

差押えがなされた以上、債権譲渡は認められない。

【理由】

「(一) 民法三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(二) 物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(三) 抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(四) 対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害する」。

理論的根拠としては、第三債務者保護説に立った場合(二)が導かれるといえる。また、実質的考慮としては、(四)が働いている。

 

4.物上代位と相殺の優劣-最高裁平成13年3月13日判決-

【結論】

「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない」。

【具体的帰結】

1.物上代位権者が差押えをする前に相殺し、その後物上代位権者が差押えをした場合

第三債務者は自由に相殺でき、その後に物上代位の差押えがあっても、相殺権者は相殺を対抗できる。相殺が「払渡し又は引渡し」にあたる以上、当然である。

2.物上代位権者が差押えをした後に相殺した場合(判例の判旨はこの部分について)

(1)自働債権の取得が抵当権設定登記前である場合

相殺によって対抗ができる。

(2)自働債権の取得が抵当権設定登記後である場合

相殺によって対抗はできない(差押えと相殺における、いわゆる無制限説と異なる点)。

【理由】

「物上代位権の行使としての差押えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが、上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はない」。

 

5.物上代位と転付命令の優劣-最高裁平成14年3月12日第3小法廷判決-

【結論】

「転付命令に係る金銭債権(以下「被転付債権」という。)が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においても、転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付の命令の効力を妨げることはでき」ない。

【具体的帰結】

1.物上代位権者が差押えをする前に転付命令の送達があり、その後物上代位権者が差押えをした場合(判旨はこの部分)

物上代位に対して、一般債権者は転付命令の送達を対抗できる。

2.物上代位権者が差押えをした後に転付命令の送達があった場合

物上代位に対して、一般債権者は転付命令の送達を対抗できない。

【理由】

「転付命令は、金銭債権の実現のために差し押さえられた債権を換価するための一方法として、被転付債権を差押債権者に移転させるという法形式を採用したものであって、転付命令が第三債務者に送達された時に他の債権者が民事執行法一五九条三項に規定する差押等をしていないことを条件として、差押債権者に独占的満足を与えるものであり(民事執行法一五九条三項、一六〇条)、他方、抵当権者が物上代位により被転付債権に対し抵当権の効力を及ぼすためには、自ら被転付債権を差し押さえることを要し(最高裁平成一三年(受)第九一号同年一〇月二五日第一小法廷判決・民集五五巻六号九七五頁)、この差押えは債権執行における差押えと同様の規律に服すべきものであり(同法一九三条一項後段、二項、一九四条)、同法一五九条三項に規定する差押えに物上代位による差押えが含まれることは文理上明らかであることに照らせば、抵当権の物上代位としての差押えについて強制執行における差押えと異なる取扱いをすべき理由はなく、これを反対に解するときは、転付命令を規定した趣旨に反することになる」。