法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成29年度(平成28年9月/平成29年4月入学) 刑事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1 (以下、刑事訴訟法は法名略。)[1]

 1 現行犯逮捕(憲法33条、刑訴法213条・212条1項2項)は令状なくして逮捕できる。通常逮捕における令状主義の趣旨は、あらかじめ令状裁判官に逮捕の理由・必要性を審査させることにより、被疑者の人権を保障する点にある。現行犯逮捕が令状主義の例外とされているのは、現行犯人は犯罪の犯人であることが逮捕者に明白で誤認逮捕のおそれがなく令状審査を経る必要性が乏しいこと、直ちに身体を拘束する高度の必要性・緊急性が認められることにある。

 2 狭義の現行犯逮捕(212条1項)の要件は、「現に罪を行」う者か「現に罪を行い終った者」のいずれかにあたることである。「現に罪を行」う者とは、特定の犯罪の実行行為を行いつつある者をいい、「現に罪を行い終った者」とは、特定の犯罪の実行行為を行い終った直後の者をいう[2]。「現に罪を行い終った者」かどうかは、時間的段階に相応する犯罪の生々しい痕跡を残した客観的状況[3]が存在するかどうか[4]によって決する。

 3 準現行犯逮捕(212条2項)の要件は、①212条2項各号のいずれかに該当することと②「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められること」にあたることが必要である。「罪を行い~認められること」とは、犯人・犯罪の明白性をいう。

 4 また、いずれの現行犯逮捕の場合も、上記令状主義の例外の趣旨から、逮捕の必要性も要件となると考える。

第2 設問2

 1 下線部①について

 (1) まず、Kが店主Vから通報のあった居酒屋にかけつけたときに従業員Wら3人と甲がもみ合っていた。しかし、Kが「警察だ。何をしている。」と叫ぶと、甲はその場に座り込んでしまったため、もみ合っている状況では何の犯罪が行われているかが特定できず、また甲が座り込んだ状況では現に特定の犯罪の実行行為が行われているということもできないため、「現に罪を行」う者にはあたらない。

 (2) 次に、「現に罪を行い終った者」にあたるか。

    本件では、Kが逮捕した場所はVから通報のあった居酒屋であり、かつその時間も通報があってから20分後のことであり、時間的場所的接着性が認められる。また、現場の状況は、テーブルや椅子の配置が乱れており、何かしらの犯行のあったことが推認される。さらに、居酒屋の床には鮮血のついたナイフが落ちていること、Vの手のひらや腕に切り傷があり出血していたこと、甲と従業員のWがもみ合っていたこと、Vの衣服には真新しい血痕が付いていたことからすると、甲がVをナイフで襲い、その際に甲の服にVの返り血が付いたこと、店主を守ろうと従業員のWらが甲に抵抗していたことが推認される。また、かかる状況はVの通報内容とも一致するため、甲は強盗目的で本件居酒屋に襲いにかかったということが推認される。

    以上にかんがみれば、甲による強盗致傷罪という犯罪の痕跡の客観的状況が存在するといえる。したがって、甲は、強盗罪という犯罪の実行行為を行い終った直後の者といえ、「現に罪を行い終った者」にあたる。また、甲に逮捕の必要性がないとはいえない。

 (3) よって、下線部①の現行犯逮捕は適法である。

 2 下線部②について

 (1) まず、下線部②の男は強盗致傷罪の実行行為を現に行いつつある者にはあたらないため、「現に罪を行」う者にはあたらない。

 (2) 次に、「現に罪を行い終った者」にあたるかであるが、上記現行犯逮捕が令状主義の例外として許される趣旨からすれば、逮捕者が、被逮捕者が「罪を行い終った」といい得る客観的状況を直接覚知しなければならない。本件では、逮捕現場は居酒屋から500メートル離れ、かつ、通報から1時間20分も経過しているところ、逮捕現場に犯罪の生々しい痕跡の客観的状況は存在しない。また、被逮捕者の男を追跡していたという事情もなく、犯人とそれ以外の者との混同が生じている。以上にかんがみれば、被逮捕者が居酒屋に対する強盗致傷罪の実行行為を行い終ったといい得る客観的状況をLが覚知できたとはいえない。Wの供述や犯人の風格と被逮捕者の風格が似ていることのみでは、犯人・犯罪の明白性を客観的に担保できない。

    したがって、「現に罪を行い終った者」にもあたらない。

 (3) 最後に、準現行犯逮捕が認められるかであるが、本件では212条2項各号該当事由が存在しないため、準現行犯逮捕も認められない[5]

 (4) よって、下線部②の逮捕は現行犯逮捕の要件を欠き、違法である。

以上

 

[1] 類似の問題を扱うものとして、平成25年度司法試験設問1、平成29年度司法試験予備試験設問1参照。

[2] 大澤裕「被疑者の身体拘束―概説(2)」(有斐閣、法学教室444号)113頁参照。

[3] 考慮要素としては、時間的・場所的接着性のほかに、現場の状況、被害者の挙動等、逮捕時における犯人の挙動等、被害者・目撃者と犯人の接触状況(継続的な追尾の有無)等がある。

[4] 大澤・前掲注(2)118頁参照。①犯人・犯罪の明白性と②時間的場所的接着性の2要件を要求しない見解。この場合、時間的接着性は「生々しい痕跡」の考慮要素の1つということになる。

[5] 「警察です。ちょっとお話を。こんな時間に何をしているのですか。」と声をかけたのに対して、その男は無視して立ち去ろうとしている。ここから、「誰何されて逃走しようとするとき」(同項4号)にあたるといえなくのないかもしれない。しかし、「逃走」という文言からすれば、ただ立ち去るのみでは犯人の明白性を担保できていないように思われる。