法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級憲法 '18年度 再現答案 【評価:B】

 再現答案

第1 弁護士の主張

 1 弁護士としては、XをA県迷惑防止条例(以下、「本条例」という。)15条1項で逮捕することは、Xの取材の自由を侵害し、憲法21条1項に反すると主張することが考えられる。具体的には、Xの行為の憲法上の意義がCの法益侵害の程度に比して大きいため、「正当な理由」(本条例10条本文)が認められ違法性が阻却されると主張することが考えられる。

 (1) 本条例10条本文の「正当な理由」とは、住居侵入罪(刑法130条)と同様に違法性阻却事由を意味すると考える。そして、逮捕によって制約される憲法上の意義と当該行為によって侵害される被害者の利益を比較考量し、前者が後者に優越する場合には、違法性が阻却されると考える。立川ビラ配り判決の判旨もそのように理解すべきであり、そうでないと憲法上の議論の場が失われるからである。

 (2) 本件では、逮捕によってXのCに対する取材の自由が制約されている、憲法21条1項は表現の自由の一つとして政治活動の自由を保障しており、その前提として取材の自由も保障していると考える。したがって、Xの上記自由は憲法21条1項の保障が及ぶ。

 (3) そして、上記自由の制約は正当化されない。

    本件では、強豪校であるB大学での傷害事件が起こっており、201*年2月にテレビ・新聞の報道は過熱し、C及びB大学に比して厳しい批判が繰り広げられていた。このように上記事件は世間の注目を集めており、その報道は国民の知る自由によって欠かせない重要なものである。そうだとすれば、Xがかかる事件についてCに取材をすることは社会的価値の高いものといえ、権利の重要性がある。特に、Cは一回のみしか記者会見を行っておらず、しかもその会見には事前に指定された大手のテレビ局と新聞社に限られていたのである。そうだとすれば、Xとしては、もはやCに直接取材するしか方法はなく、B大学への取材の申込みも断られた以上、Cの自宅付近でCを直接つかまえて取材するしか後はなかったのである。以上にかんがみれば、Xの行為は憲法上重要な意義を有している。

    他方、Xの上記行為によって侵害される利益は何か。それは自宅付近を付きまとわれることによる不快感のみであり、住居侵入(「罪」を書き忘れ)(刑法130条)に比べてもその侵害利益は低い。かかる点で、立川ビラ配り事件判決(以下、「平成20年判例」とする。)の射程が及ばない。

    以上によれば、Xの憲法上の権利は、Cの被侵害利益に比して大きく、正当化される。

 (4) よって、Xの行為の違法性が阻却され、本件逮捕は許されない。

 2 次に、仮に上記主張が通らないとしても、本件逮捕はXのみを狙い撃ちにした逮捕であって、このような逮捕は憲法14条1項、21条1項に反し許されないと主張することが考えられる。

 (1) Cは記者会見において、会見会場に入ることができる者を指定した上、Cは「このような場所を設けた以上、今後は私の自宅付近でうろうろしないでほしい。人権侵害も甚だしい。」と述べている。かかる事実からすれば、Cは形だけでもマスコミの取材に応じることで自宅付近での張り込み取材を牽制しようとしたものと推認することができる。そして、本件においてXが逮捕されたのはX(「C」の間違い)の通報によるものであったのであり、これはXのみを不当に処罰しようとしてなされたものであり、Xを狙い撃ちしたとの推認ができる。

 (2) したがって、このような狙い撃ちによる逮捕は、他のマスコミと不当に差別する点で14条に反し、Xの取材の自由のみを侵害する点で21条1項に反する。

    よって、本件逮捕は本条例の適用において違憲である。

第2 私見

 1 Xの逮捕が狙い撃ちであるとの点について

 (1) まず、法令について何らの違憲な部分がないとしても、その規定を個人の人権を侵害するような形で適用された場合には、その適用は違憲であると考える(処分違憲)。したがって、弁護士の主張は失当とならないと考える。

    そこで、以下本件適用が違憲かを検討する。

 (2) 弁護士は、Cの会見でのマスコミの指定、質問時間終了後の発言、Cの通報等をもって、Xの狙い撃ちであるとの主張をしている。しかし、Cの人権が制限されたのは、逮捕という公権力によるのであり、Cの行為によるのではない。そうだとすれば、Cの人権を侵害するかどうかは公権力の行為をもって判断すべきと考える。

    そして、警察官はCの通報に基づいてXを逮捕しているにすぎず、何らかの不当な目的をもってXを逮捕しようとしたということはできない。また、Xのみが逮捕されたのも、逮捕された当日にCの自宅付近にいたのは、Xだけであったからにすぎず、他のマスコミを逮捕せず、Xのみを逮捕したというような事情もうかがわれないのであるから、この点からもXの逮捕が狙い撃ちであったとはいえない。

 (3) 以上より、Xを逮捕したことがXの人権を不当に侵害する形で本条例が適用されたということはできず、その適用が憲法14条1項又は21条1項に反するとはいえない。

 2 Xの権利の重要性にかんがみ、違法性が阻却されるとの点について

 (1) まず、本条例10条本文の「正当な理由」が違法性阻却事由であるとの弁護士の主張には賛成である。

 (2) 次に、弁護士は、Xの憲法上の権利とCの被侵害利益を単純に比較考量することを主張する。確かに、平成20年判決は処罰することの許容性の判断についてほとんど検討しないまま処罰が許されるとしており、その適用に広範な裁量を認めているかのように思える。しかし、同判決は住居侵入罪という個人的法益を侵害する犯罪類型についての判示であり、不快感のような法益保護性の低い本条例の適用が問題となっている本件とは事案類型を異にする。そうだとすれば、本条例自体が合憲であるとしても、その処罰の許容性についても警察官に広範な裁量は認められると解すべきでなく、当該行為の憲法上の意義と被侵害利益を比較しつつ検討すべきである。

 (3) 以下、比較考量をする、

   ア Xの取材の自由

     弁護士は、上記自由を憲法21条1項の保障が及ぶとしている。博多駅フィルム事件判決によれば取材の自由は当然保護に値いする、と述べるにとどまり、保障が及ぶとはしていない。しかし、取材というのは、表現の自由によって保護される報道の自由に必要不可欠の前提を成すものであり、かかる一連の行為を保障しないとすることは、表現の自由の保障を弱めることになり、妥当でない。

     そこで、Xの上記自由が憲法21条1項によって保障されるとする弁護士の主張に賛成である。

   イ Xの権利の重要性

     弁護士の主張のとおり、Xを取材しようとした内容は世間が非常に注目していた内容であり、国民の知る自由に資する点で重要性がある。また、これに加えて、Xは教育問題を得意分野とするジャーナリストである。このようなXにとって、本件事件は自らの分野に直接かかわる事項であるところ、取材を遂行し、自らの人格的価値を高める自己統治の価値(「自己実現の価値」の間違い)も高い。そして、大手の新聞社から独立したXはCの開いた記者会見に参加することができず、B大学にも取材に応じてもらえなかった以上、Cを直接する(「取材」が抜けている)しか方法はなかった、という弁護士の主張はその通りである。

     もっとも、本件では既に記者会見が開かれ、国民の知る自由は充足されたこと、報道の沈静化により、世間的注目を集める事件ともならなくなったといえ、Xの取材の自由の重要性が落ちるとの反論が考えられるところである。しかし、記者会見の記者は似たような質問に終始するのみで、追及は深まることがなかったのである。そうだとすれば、これによって国民の知る自由が充足されたとはいえないし、むしろこのような中途半端な情報のみの収集にとどまってしまえば誤った情報が拡散するおそれも否定できず、国民の知る自由を害する結果にもなりかねない。また、報道の沈静化についても3月2日から一週間程度経過した時点であり、Xが逮捕された3月10日は沈静化して間もないころである。そうだとすれば、むしろ今すぐ取材し報道し、事件の核心にCが迫ることで世間が忘れないうちに再度注目を集める緊急性があるといえるのである。さらに、自宅付近にいたのがCのみであるという事情も、Cが本件事件を取材報道しなければ忘れ去られるという事態を示すものであるといえる。以上にかんがみれば、かかる事情はむしろXの権利の重要性を高めるものといえる。

     そして、本件逮捕はそのようなXの自由を直接制約する態様の強いものである。これに対し、本件制約は、上記取材の自由の制約を狙ったものではなく、ストーカー行為を制限した結果、制約されたにすぎないため、付随的制約にとどまるとの反論があり得る。しかし、かかる議論は法令審査においてのみ妥当するものであり、本件のような適用違憲については、適用行為がどのような行為に対してなされているかを観察すべきであり、かかる反論は妥当しないと考える。

   ウ Cの被侵害利益

     弁護士の主張どおり、Cの侵害される法益は、住居権のような個人的法益ではなく、ストーカー行為による不快感にとどまる。かかる点で、平成20年判例の事案と異なり、被侵害利益の程度は低い。また、本件行為は道路という公共の場でなされているところ、パブリック・フォーラムたる性質を有する場所については、人は何等かの制限を受けることは、他の者の自由を広く認めることの裏返しとしておこるのである。

 (5) よって、本件逮捕によって侵害されるXの自由の重要性は高く、他方、Cの侵害される利益の程度はそれに比して低いとして、違法性阻却が認められ、「正当な理由」がある。

    以上より、本件逮捕は、21条1項に反すること、弁護士の主張に賛成である。

以上

 

解答実感

・約4000字(思考時間10分/答案作成時間100分)

・とりあえず、立川ビラ配り事件判決との異同を論じればいいのかなー、とあっさり想起。それ以外は特に何も考えず、とにかく判例と本件事案を対比し続ける作業。小島先生の採点実感にも立川判決の言及があったから、間違っていないと思われる。

・答案の型は崩れがち、誤字脱字多くなりがち。

・少し反対利益たるCの利益について軽視しすぎか…? プライバシーの利益くらいは言及すべきだったかな…、けど、公道上のプライバシーだからそこまで保護に値するとも思えず、したがってそこまで痛手にはならないと予想。

・評価予想はA。