法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… 

東大ロー入試 平成27年度(平成26年11月/平成27年4月入学) 刑事系 解答例

解答例

設問1[1] (この設問では刑法は法名略。)

第1 Xの罪責

 1 Xが「正当な理由」なくB店という「建造物」に管理権者の意思に反して立ち入り「侵入」した行為に建造物侵入罪(130条)が成立する。

 2 XがBの金庫という「他人の物」をバールでその効用を害し「損壊」した行為に器物損壊罪(261条)が成立する。

 3 XがAに対して椅子を投げつけて失神させた行為に強盗傷人罪(240条)が成立しないか。

 (1) Xが「強盗」にあたるか。238条の成否を検討する。

   ア XはBの売上金という「他人の財物」をBの意思に反して自己の上着ポケットに入れ占有を移転し「窃取」しているため、「窃盗」にあたる。

   イ Xの上記行為が「暴行」にあたるか。

   (ア) 「暴行」とは、事後強盗という犯罪類型及び強盗罪との均衡の観点から、①窃盗の機会に②相手方の反抗を抑圧するに足りる不法の有形力行使をいうと考える。

   (イ) 本件では、Xの窃盗直後に本件行為に及んでおり、窃盗直後における対立状況は存在しているといえ、窃盗の機会にあたる(①充足)。また、Xの上記行為は、椅子という硬くて重いものをAに対して直接投げつけるものであり、それによって相手方は打撲ではすまない大けがをする危険性もあるし、そのまま倒れこんで失神するという危険性もある。したがって、相手方の反抗を抑圧するに足りるものといえる(②)。

   (ウ) したがって、「暴行」にあたる。

   ウ また、Xは「逮捕を免れ」る目的を有していた。

(2) AはXの上記行為に「よって」「負傷」している。

(3) よって、Xの上記行為に強盗傷人罪が成立する。

4 以上より、Xの一連の行為に①建造物侵入罪②器物損壊罪③強盗傷人罪が成立し、①②及び①③が牽連犯となり、かすがい現象により全体が科刑上一罪となる。

第2 Yの罪責

 1 Yに、Xと共謀の上、XがBに侵入した点について建造物侵入罪の共同正犯が成立する。

 2 Yに、Xと共謀の上、XがBの金庫を損壊した点について器物損壊罪の共同正犯(60条、261条)が成立しないか。

 (1) Yが共同正犯の客観的構成要件を充足するか。

   ア 一部実行全部責任の処罰根拠は、各犯罪者が犯罪達成のためにそれぞれ重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にあるところ、①共犯者との共謀及び②共謀に基づく実行行為があれば共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

   イ 本件では、XYは相談して犯行計画を立てており、犯罪の中核部分に対する意思の連絡が存在する。また、Yは見張り役というXの犯行が見つからないようにする重要な役割を担っていたし、また、当初から犯行計画に加わっており自己の犯罪として遂行する正犯意思も有する。以上にかんがみれば、YはXの実行行為時において犯罪の共同遂行の合意があったといえる(①充足)。

   ウ もっとも、共謀に「基づく」実行行為があったといえるか。その後Yは「俺は帰るからな。」とXの犯行の途中で共犯から離脱しているところ、共犯関係の解消が認められないか。

   (ア) 共犯の処罰根拠は共犯者が正犯者を介して法益侵害の現実的危険を惹起した点にあるところ、共犯関係が解消したかどうかは因果性の遮断を基準に考える。

   (イ) 本件では、まだ器物損壊罪の実行の着手には至っていないものであるが、既にBの建造物には侵入しており、既に器物損壊に及ぶ危険性もかなり高まっているということができ、実行の着手に準ずる危険性がある。そうだとすればYには①離脱の意思表示と相手方の了承に加えて②かかる危険を除去する積極的措置も必要であるといえる。それにもかかわらず、Yは電話で離脱の意思表示をしたにすぎず、かかる積極的措置をなんら講じていない。したがって、Xの結果惹起とXYの共謀との間の因果性は遮断されたとはいえない。

      したがって、共犯関係の解消は認められない。

   (ウ) よって共謀に基づく実行行為もあった(②充足)。

 (2) そして、Yには器物損壊罪の故意(38条1項)もある。

 (3) よって、Yの上記点について器物損壊罪の共同正犯(60条、261条が成立する)。

 3 Yに、Xと共謀の上、XがAに椅子を投げて失神させた点について、強盗傷人罪の共同正犯(60条、240条)が成立しないか。

 (1) まず、共同正犯の客観的構成要件を充足するか。

   ア 共犯者Yとの共謀があることは前述のとおりである(①充足)。

   イ もっとも、XY共謀はBでの窃盗であるのに対して、実際に起きた犯罪は強盗傷人罪であるところ、共謀の射程外の行為として共謀に「基づく」実行行為といえないのではないとも思える。しかし、窃盗にはいった建造物に人がいるという事態は通常起こり得るものであり、犯人が犯罪達成のためにそのもの危害を加えることも、捕まってしまえば一巻の終わりという犯人の心理上当然の行動ともいえる。

     したがって、Xの本件犯行はXYの共謀に内在する危険性が現実化したといえ、共謀の射程内といえ、「基づく」実行行為にあたる(②充足)。

 (2) もっとも、Yは窃盗の意図しか有していないところ、強盗傷人罪の故意が認められない(38条2項)。

 (3) よって、Xが売上金を上着ポケットに入れた行為に成立する窃盗罪の限度で、共同正犯(60条、235条)が成立する。

4 以上より、YのXとの共謀について、①建造物侵入罪の共同正犯②器物損壊罪の共同正犯③窃盗罪の共同正犯が成立し、①②と①③がそれぞれ牽連犯となり、全体として科刑上一罪となる。

第3 Zの罪責

 1 Zに、XYと共謀の上、XがBに侵入した点について建造物侵入罪の共同正犯(60条、130条)が成立しないか。

 (1) Zが共同正犯の客観的構成要件を充足するか。

   ア ZはXYから本件犯行の事情の説明を受け、合鍵の交付をしているところ、本件犯罪の中核部分についての意思連絡はあった。また、合鍵がなければBへの侵入という犯行を達することはほぼ不可能であったといえるため、重要な役割が認められるし、そのことを認識してXに交付している以上、Zには正犯意思があると推認される。したがって、X実行行為時に、ZとXYとの間で犯行の共同遂行の意思があったといえ、「共謀」が認められる(①充足)。

   イ もっとも、ZはXに対し合鍵の返却を迫っているところ、共犯関係の解消が認められないかが問題となるが、結局合鍵の返却をしてもらえていないところ、合鍵による建造物侵入が容易になったという物理的因果性が遮断されたとはいえない。

     したがって、共謀に基づく実行行為も認められる(②充足)。

 (2) Zには故意が認められる。

 (3) よって、Zの上記点について、建造物侵入罪の共同正犯が成立する。

 2 同様に、XがBの金庫を損壊した点について器物損壊罪の共同正犯(60条、261条)、XがBの売り上げを上着ポケットに入れた点について窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立する。

 3 以上より、ZのZYとの共謀について、①建造物侵入罪の共同正犯②器物損壊罪の共同正犯③窃盗罪の共同正犯が成立し、①②と①③がそれぞれ牽連犯となり、全体として科刑上一罪となる。

設問2 (この設問では、刑事訴訟法は法名略。)

第1 強制処分該当性

 1 強制処分にあたる場合、本件行為は令状主義ないし強制処分法定主義に反するため、問題となる。「強制の処分」(197条1項但し書)とは、科学捜査の発達及び、捜査の実効性の調和の観点から、相手方の意思を制圧し、身体財産住居等の重要な権利利益を実質的に侵害する処分をいうと考える。

 2 本件では、パチンコ店という公衆の場での撮影と、Xが自宅に入るまでの公道での撮影であるところ、その容貌等を他人に観察されること自体は受忍せざるを得ない場所における撮影であり、プライバシー保護に対する合理的期待は減少しているといえる。

   したがって、Xの重要な権利を侵害するものとはいえない。

 3 したがって、「強制の処分」(197条1項但し書)にはあたらない。

第2 任意捜査の許容性

 1 任意捜査も絶対無制約ではなく、捜査比例の原則(憲法31条)から、捜査の必要性緊急性等を考慮したうえ、具体的状況の下で相当といえる場合に許されると考える。

 2 本件では、強盗傷人罪という重大な犯罪についての捜査であるうえ、犯人の特定も検挙に向けて重要な捜査といえる。また、Xには犯人であるとの嫌疑も存在している。これに対して、C及びDの行為は撮影という有形力行使のようなものでなく、態様の弱いものである。また、Cの撮影行為はパチンコ店の許可も得て行われており、パチンコ店及びその他の人に対する配慮も相当程度なされている。そして、C及びDの撮影行為とも不当に長い期間にわたる撮影ではなく、1日でしかも数時間程度のものであり、具体的な権利侵害も軽微といえる。

   したがって、C及びDの撮影行為はどちらも具体的状況の下での法益権衡を有し、相当なものといえる。

 3 よって、C及びDの行為はどちらも任意捜査として適法である。

以上

 

[1] モデル判例は最決平成21・6・30。