法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… 

早稲田ロー入試 2019年度('18年9月/'19年4月入学) 民事訴訟法 解答例

解答例

 

第1 設問前段 (以下、民事訴訟法は法名略。)[1]

 1 Yの「甲建物は自分が所有している」との主張は、既判力(114条1項)により遮断されないか。

 (1) まず、前訴既判力が後訴に及ぶか。

ア 既判力とは、確定した判決の主文に表された判断の通有性[2]をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

     そして、前訴既判力が後訴に及ぶかどうかは、前訴後訴の訴訟物が①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にある場合と考える。

   イ 本件前訴訴訟物は、XのYに対する所有権に基づく返還請求権としての甲建物明渡請求権である。これに対して、本件後訴訴訟物はYの甲建物所有権である。まず、前訴後訴訴訟物は同一でないことは明らかであるし(①不充足)、前訴訴訟物が後訴訴訟物との関係で実体法上論理的前提をなすわけでもないので、先決関係にもない(②不充足)。また、前訴訴訟物においてXが甲建物の所有権を有するかどうかは判決理由中の判断であり、既判力が生じない以上、一物一権主義を媒介にしたとしても、前訴訴訟物と後訴訴訟物が実体法上非両立の関係とならず、矛盾関係にあるともいえない(③不充足)。

   ウ したがって、本件後訴に前訴既判力は及ばない。

 (2) よって、Yの上記主張は既判力に遮断されない。

 2 もっとも、前訴で判決理由中の判断である甲建物はXの所有であると裁判所が認定した点について争点効が生じ、Yの上記主張は遮断されないか。

(1)  争点効とは、前訴において当事者が主要な争点として争い、かつ裁判所がこれを審理して示した当該争点についての判断に生じる通用力で、同一の争点を主要な先決問題とした異別の後訴請求の審理において、その判断に反する主張立証を許さず、これと矛盾する判断を禁止する効力である。かかる争点効は、認められるか。

(2) 確かに、争点効を認める明文の規定はない。しかし、判例は信義則による後訴遮断を認めており、争点効は信義則を制度として明確化したものともいい得る。否定説は、前訴の審理が重くなるというが、主要な争点として当事者真剣に争った点のみを事後的に遮断するのであり、当事者が後訴遮断を嫌って、前訴で真剣に争わなければならないという事態は生じない。また、中間確認の訴え(145条1項)によって、争点効の必要性を否定する見解があるが、中間確認訴訟は法律関係レベルで既判力が生じるのに対し、争点効は主要事実レベルで効力が生じる以上、守備範囲が異なる。したがって、かかる批判もあたらない。

    そこで、①前訴後訴の両請求の当否の判断過程において主要な争点となっている事項であること②当事者が前訴においてその争点につき主張・立証を尽くしたこと③裁判所がその争点につき実質的な判断を下していること④前訴と後訴の係争利益がほぼ同等であること⑤後訴で当事者が援用すること、という5要件を充足した場合には、争点効が認められると考える。

 (3) 本件でも、上記要件をすべて充足するような場合には、Xが甲建物を所有するという点に争点効が認められると考える。そうだとすれば、Yの上記主張は、Xが甲建物を所有するという認定と一物一権主義を媒介にすると矛盾抵触するため、争点効により遮断される。

 (4) 以上より、Yの上記主張は争点効により遮断され得、認められない可能性がある。

第2 設問後段

 1 Yの「甲建物の所有権が自己に帰属する」との主張は、前訴既判力により遮断されないか。

 (1) 前訴既判力が後訴に及ぶか。前述の基準により判断する。

   ア まず、前訴訴訟物と後訴訴訟物が同一でないことは、前述のとおりである。もっとも、本件ではXの甲建物所有権確認訴訟が先に提起されている。後訴2の、XのYに対する甲建物明渡請求権の要件事実は、①X甲建物所有②Y甲建物占有であるところ、Xの甲建物所有権という前訴訴訟物は、後訴の要件事実①であり、後訴訴訟物との関係で実体法上論理的前提をなしている。以上にかんがみれば、前訴後訴訴訟物は先決関係にあるといえる(②充足)。

   イ したがって、前訴既判力は後訴に及ぶ。

 (2) それでは、前訴既判力により、Yの上記主張は遮断されるか。

   ア 既判力とは、裁判所は前訴既判力を後訴の判決の基礎としなければならないという積極的作用と、裁判所は前訴既判力に矛盾抵触する当事者の主張を排斥しなければならないという消極的作用(遮断効)を有する。

   イ まず、前訴既判力の生じる範囲が問題となる。

     審理の簡易化・弾力化の観点から、物的範囲(「主文に包含するもの」)は訴訟物にのみ生じる。また、既判力の正当化根拠から、時的範囲は当事者の手続保障の及ぶ事実審口頭弁論終結時に生じる(民事執行法35条2項参照)。そして、同様に、人的範囲も手続保障の及んでいた当事者間にのみ及ぶのが原則である(相対効原則 115条1項1号)。

     本件では、XY間で、前訴2の口頭弁論終結時に、Xが甲建物所有権を有することに既判力が生じる。

   ウ Yの上記主張は、前訴既判力と一物一権主義を媒介にすると、矛盾抵触する。したがって、Yの上記主張は消極的作用により遮断される。

 2 以上より、Yの上記主張は既判力により遮断されるため、認められない。

以上

 

[1] 関連する問題として、司法試験予備試験平成24年度、『ロースクール演習民事訴訟法[第2版]』問題6及び問題8等を参照。なお、勅使川原和彦『読解民事訴訟法』Unit7及びUnit8は必読である。本解答例は、早稲田ローの教授が勅使川原教授であることも考慮し、勅使川原説に依拠して解答を作成している。

[2] 高橋概論251頁参照。