解答例
1 Bの供述録取書(以下、「本件書面」という。)は、伝聞証拠(320条1項)であり、裁判所は証拠調べ請求(298条1項)を却下決定すべきでないか(刑事訴訟規則190条1項)。
(1) 伝聞証拠とは、公判廷外供述を内容とする証拠で、内容の真実性が問題となるものをいう。なぜなら、伝聞法則の趣旨は、知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが介在するにも関わらず、反対尋問等によって内容の正確性を担保できないところ、誤判防止の観点から証拠能力を否定する点にあるからである。
そこで、内容の真実性が問題となるかどうかは、要証事実との関係で決すると考える。
(2) 本件書面は、Bの公判廷外供述を内容とする証拠である(①充足)。また、本件では、事故当時Xの運転する車両の対面信号が何色だったのかが争点となっている。Bの供述録取書は「Xの側の信号は赤だったと思う」旨のBの供述を録取した調書であるところ、Bの供述録取書から対面信号が赤であったことを直接証明しようとしていると考えられる。以上にかんがみれば、本件要証事実は、「事故当時Xの運転する車両の対面信号が赤色であったこと」となり、本件書面は、上記要証事実との関係で内容の真実性が問題となる(②充足)。
(3) したがって、本件書面は伝聞証拠にあたる。
2 もっとも、伝聞例外(321条以下)の要件を充足し、例外的に証拠能力が認められる結果、証拠調べ請求を認めるべきではないか。
(1) 第1に、被告人がかかる証拠調べ請求に「同意」している場合には、326条によって例外的に証拠能力が認められ得る。
(2) 第2に、本件書面はBという「被告人以外」の供述録取書であるところ、321条1項3号の伝聞例外の要件を充足する場合には、例外的に証拠能力が認められる。具体的には、①供述者の署名又は押印があること②供述者Bの供述不能③犯罪事実の証明への不可欠性④絶対的特信情況が必要である。
(3) 第3に、328条の証明力を争う書面として、例外的に証拠能力が認められないか。「証明力を争う」証拠に、他者矛盾供述が含まれるか。
ア 他者矛盾供述を「証明力を争うため」にだけ用いるとしても、その内容が真実であることを前提としない限り、それが存在しているという事実だけで信用性を減殺することはできない以上、第三者供述の内容たる事実が裁判官の心証上では認められ、実質証拠として機能することになってしまう。これによって、伝聞法則が骨抜きになるおそれがある。
そこで、328条によって許容される証拠は自己矛盾供述に限られると考える。
イ Bの供述録取書は、Aの証人尋問における「事故が起きたとき、Xの側の信号は青でした」という証言の信用性を減殺するために証拠調べ請求されており、他者矛盾供述である。
ウ したがって、本件書面は、328条によって許容されない。
3 以上より、326条又は321条1項3号の伝聞例外の要件を充足する場合には、裁判所は証拠調べをする旨の決定をすべきである。
以上