法律解釈の手筋

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東大ロー入試 平成28年度(平成27年11月/平成28年4月入学) 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 Yの罪責

 (1) Yが、後述のXの暴行を黙認した行為に、傷害致死罪の幇助犯(62条1項、205条)が成立しないか。

   ア Yの上記行為は期待された行為をしない不作為であるが、「幇助」にあたるか。

   (ア) 幇助とは、実行行為以外の方法で、実行行為を容易又は促進する行為をいう。

また、実行行為とは、法益侵害惹起の現実的危険を有する行為をいい、不作為も実行行為たりうる。もっとも、いかなる不作為も実行行為となると自由保障機能を害する。そこで、作為との構成要件的同価値性すなわち①作為義務が認められ、その違反がないこと②その前提としての作為の容易性可能性が認められれば、実行行為性が認められると考える。

   (イ) 本件では、Yの自宅には行為者XとYしかおらず、結果防止に向けた一定

の措置を講ずるに当たり、Y以外の者にその措置を期待することが困難である。また、YはAの母であり、監護義務(民法820条)を負うところ、YにはXを説得して暴行を止めさせる義務があるといえる。それにも関わらず、Yはかかる義務を怠った(①)。また、かかる義務は可能かつ容易であった(②)。

   (ウ) したがって、Yの上記行為は「幇助」にあたる。

   イ 後述のとおり、Xの実行行為は行われ、上記行為によってXの傷害致死罪の犯行は容易になったといえる。もっとも、Yの行為は重要な役割を果たしたとまではいえないため、正犯性に欠ける。

   ウ よって、Yの上記行為に傷害致死罪の幇助犯が成立する。

 (2) Yが、Aが死ぬかもしれないと思いながら、自宅に放置した行為に殺人罪(199条)が成立しないか。

   ア Yの上記行為は期待された行為をしない不作為であるところ、実行行為性が認められるか。前述の基準により判断する。

   (ア) 本件では、確かにYはAに対して生命を侵害する直接的危険創出行為をしていない。しかし、Yは、Aの生命侵害を惹起したXのAに対する傷害致死罪の幇助が認められ、Xと共に危険を創出したといえる。また、YはAの親であり監護義務(民法820条)を負う。そして、本件不作為時、自宅にはA及びYしかおらず、Aの生命はYに排他的に依存していたといえる。以上にかんがみれば、YはAを病院に連れて行く義務が認められ、それにも関わらず、Yはかかる義務を怠った(①)。そして、病院に連れていくことは、通常困難なものではなく、また、救急車の要請によっても義務履行が可能である(②)。

   (イ) したがって、実行行為性が認められる。

   イ Aは死んだ。

   ウ もっとも、Aの死とYの不作為に因果関係が認められるか。

   (ア) 法的因果関係は、当該行為者に結果責任を問うことができるかという問題であるところ、条件関係を前提に、行為の危険性が結果へと現実化した場合には、因果関係が認められる。そして、不作為犯の場合には仮定的追加条件による条件関係によらなければならず、期待された行為をすれば救命することが合理的疑いを超える程度に確実といえる場合には、条件関係が認められる。

   (イ) 本件では、Yが直ちに救急車を要請していればAの救命の可能性は高かったが、確実とまではいえなかった。

   (ウ) したがって、因果関係は認められない。

エ Yの上記行為に殺人罪は成立しない。

 (3) もっとも、結果回避可能性がなかったとしても、本件ではAの救命可能性は高かったのだから、結果回避の一定の蓋然性があるといえる。したがって、Yの上記行為に殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。

 2 Xの罪責

 (1) XがAを押し倒し、足蹴にするなどして死亡させた行為に傷害致死罪(205条)が成立しないか。

 (2) Xは男性で通常力が強く、他方、暴行を受けたAは3歳と幼く、足蹴等の態様の強い暴行から身を守るすべがないことに鑑みれば、Xの上記行為は、Aの生命侵害惹起の現実的危険性を有するといえる。

(3) Aは死んだ。

 (4) もっとも、本件では、Yの不作為という介在事情が存在するところ、Xの上記行為とAの死亡との間に因果関係が認められないのではないか。前述の基準により判断する。

   ア 確かに、Yの不作為という故意行為が介在しており、その危険性は大きいと思える。しかし、Yの行為時には、既にAの救命可能性は確実とまではいえず、その因果的寄与は大きいとはいえない。他方、Xの上記行為は作為によってAの死因を形成するものであり、その行為の危険性は極めて大きい。そうだとすれば、本件では、仮に介在事情がなかったとしても、死亡結果に実質的な相違はなかったといえ、Xの行為の危険が直接実現したといえる。

   イ したがって、因果関係が認められる。

 (5) よって、Xの上記行為に傷害致死罪が成立する。

第2 設問2

 1 本件両調書はいずれも不任意自白(319条1項)にあたるとして、証拠能力が否定され、証拠として用いることができないのではないか。

 2 自白法則の趣旨は、かかる自白は類型的に虚偽のおそれが高いため、誤判防止の観点から一律に証拠能力を認めない点にあるところ、不任意自白とは、類型的に虚偽のおそれのある自白をいう。

 3 本件について検討する。

 (1) (1)について

  ア 警察官という取調べ権限のあるBによる偽計は、共犯者とされるYが犯行を自白したという内容のものであるところ、かかる内容は他の共犯者にとってこれ以上争っても無駄であるとの心理的強制を与えるものである。否認を続けていたXが自白に転じていることからも、捜査官の偽計と自白の間には因果関係が認められる。確かに、調書における自白は、捜査官の偽計によって自白をした3日後のものである。しかし、一度心理的強制を与えられた者が自白を撤回して否認をすることは通常困難であるところ、捜査官がその心理的強制を解消する積極的措置を採らない限り、反復自白も不任意自白にあたると考える。そして、本件ではそのような事情はない。

  イ したがって、Xの自白調書に証拠能力はない。

 (2) (2)について

  ア 確かに、捜査官には、偽計の意図はなく、結果的に虚偽の報告をしていたにすぎない。しかし、類型的に虚偽のおそれがあるかどうかは、被疑者にとって心理的強制が加えられるおそれのあうものかどうかが重要である。本件では、鑑定という信用性の高く、かつ、かかる証拠だけで犯罪を認定できるような直接証拠がでたという虚偽の報告がされている。被疑者としては、このような報告も、これ以上争っても無駄であるとの心理的強制を与えられるといえる。

    そして、Yもかかる報告まで一貫して否認していたところ、本件偽計によって自白をしたといえる。

  イ したがって、Yの自白調書についても証拠能力はない。

 4 以上より、両調書ともに証拠能力が認められず、証拠として用いることができない。

以上

 

[1] 類似の問題として、『刑法事例演習教材[第2版]』問題3「ヒモ生活の果てに」参照。