法律解釈の手筋

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東大ロー入試 平成29年度(平成28年11月/平成29年4月入学) 刑事系 解答例

 解答例

第1 設問1 (この設問では、刑法は法名略。)

 1 XがBの後頭部に回し蹴りをして1カ月の加療を要する傷害を負わせた行為に傷害罪(204条)が成立しないか。

 2 Xの上記行為は不法な有形力の行使であり、それによってBの生理機能に障害を加えている。

 3 もっとも、Xの上記行為に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性阻却されないか。

 (1) AはBから頭部を殴打されており、生命身体に対する法益侵害が現在しているため「急迫」の侵害がある。

 (2) もっとも、Bの頭部殴打行為にAに対する正当防衛が成立し、「不正」な侵害にあたらないのではないか。

   ア 「不正」とは一般に違法な行為をいう。

   イ 確かにBはAから胸を強く突かれ転倒させられているが、その時点でAからBへの法益侵害行為は終了しており、Bの頭部殴打行為時点では、すでに法益侵害が切迫ないし現在していたとはいえない。したがって、「急迫」の侵害がなく、正当防衛が成立せず違法性が阻却されないため、Bの上記行為は不法な行為といえる。

   ウ よって、「不法」な侵害にあたる。

 (3) Bの上記行為は「侵害」行為にあたる。また、XはAの身体という「他人の権利」を助けようと「防衛するため」に上記行為に及んでいる。

 (4) もっとも、AがBから頭部を殴打されたのは、先行するAのBに対する暴行が原因であるところ、自招侵害として、正当防衛状況に欠けるのではないか。

   ア 違法性の本質は社会的相当性の逸脱にある。そこで、①被害者の不正の行為が先行し②加害者の攻撃が被害者の先行行為と一連一体の事態といえ③加害者の暴行の態様が被害者の暴行の態様を大きく超えないような場合には、被害者は自ら侵害を招いたといえ、社会的相当性を欠き、正当防衛状況が否定されると考える。

   イ 本件では、AのBに対する暴行という不正行為が先行している(①充足)。また、BのAに対する暴行は、Aから暴行を受けたBが、即座に自転車で追いかけて100メートルほどでAに追いついて暴行を行っており、時間的場所的近接性の認められる、一連一体の事態といえる(②充足)。また、その暴行の態様も背後から頭部を殴打する行為及び腹部を殴打する行為であるところ、先行するAの、Bが転倒するほどに胸を強く突く行為の態様を大きく超えるものではない(③充足)。

   ウ したがって、Aの防衛行為は社会的相当性を欠き、正当防衛状況が否定される。

 (5) よって、Xの行為に正当防衛は成立せず、違法性は阻却されない。

 4 そうだとしても、XはAがBから一方的に殴打されていると誤信しているところ、責任故意(38条1項)が阻却されないか。

 (1) 故意責任の本質は、反規範的行為に対する道義的非難にあるところ、違法性阻却事由も規範にあたる。そこで、違法性阻却事由があると誤信していた場合も、規範的障害を克服したとはいえず、責任故意が阻却されると考える。

 (2) まず、XはAがBに対して暴行という先行行為を加えたことを認識していない。そうだとすれば、Xの主観において、本件で正当防衛状況が否定されることはない。

 (3) また、その他AがBから暴行を受けているという事実の認識については客観的事実とのズレはないため、前述のとおり正当防衛の要件を満たしている。

 (4) もっとも、Xは自らの上記行為が、「やむを得ずにした行為」と認識しているか。

   ア 「やむを得ずにした行為」とは、必要最小限度の行為をいうところ、Xは空手五段であり、とりわけ回し蹴りを得意としていた。そのようなXが素人のBに対し回し蹴りをしてBの暴行を止めるのはやりすぎであり、Xはもっと態様の弱い暴行行為でも目的達成はできたはずである。したがって、Xの上記行為は客観的に「やむを得ずにした行為」とはいえない。

   イ そして、Xも上記事実を認識していたといえるため、Xの認識においても「やむを得ずにした行為」とはいえない。

   ウ したがって、Xの認識においても正当防衛は成立せず、違法性阻却事由を基礎づける事実を誤信していたとはいえない。

 (5) よって、責任故意は阻却されない。

 (6) 以上より、Xの上記行為に傷害罪が成立する。

 (7) もっとも、Xに36条2項が準用され、任意的減免とならないか。

   ア 同項の趣旨は、正当防衛行為者の緊急状況における恐怖・驚愕などの心理的圧迫を根拠に責任が減少する点にある。

     そこで、行為者が緊急状況を誤信していた場合にも、同項が準用されると考える。

   イ したがって、Xにも36条2項が準用され、任意的減免となる。

第2 設問2 (この設問では、刑事訴訟法は法名略。)

 1 両書証は伝聞証拠(320条1項)にあたり、証拠能力が認められない結果、証拠として用いることが許されないのではないか。

 (1) 同項が証拠能力を否定する趣旨は、伝聞供述には知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが介在するにも関わらず、反対尋問等によってその内容の真実性を吟味できない点にある。そこで、伝聞証拠とは①公判廷外供述で②要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるものをいう。

 (2) 本件について検討する。

   ア まず、K作成の捜査報告書による要証事実は「XがBに対して回し蹴りをしていない事実」であると考えられるところ、要証事実と同じ内容について供述したBの供述を録取した同書証は、その内容の真実性が問題となる。

   イ また、C作成の手紙については、その要証事実は「やむを得ずにした行為」(刑法36条1項)という違法性阻却事由を基礎づける「XはBの手を掴んだ事実」であると考えられるところ、その内容の真実性が問題となる。

 (3) したがって、上記要証事実との関係では、両書証とも伝聞証拠にあたる。

 2 もっとも、かかる証拠は、弾劾証拠(328条)として証拠能力が認められないか。

 (1) 同条の趣旨は、自己矛盾供述を弾劾証拠として用いる場合には、その証言の存在自体が要証事実となるため、伝聞証拠にあたらない旨を確認した点にある。そこで、「供述」とは、自己矛盾供述、及び、自己の供述を弾劾する証拠を弾劾しその証明力を回復するための自己一致供述をいうと考える。

 (2) 本件について検討する。

   ア まず、K作成の捜査報告書はBが公判廷でした「Xは私に対して回し蹴りをした」との証言と矛盾するものであり、かかる証言の証明力を減殺するための弾劾証拠としても用いることができる。この観点からは、要証事実は「Xの自己矛盾供述の存在自体」となり、その内容の真実性は問題とならない。

     しかし、同書証は、KがBの供述を録取した書面であるにもかかわらず、Bの署名・押印(321条1項柱書)がない。したがって、Kの伝聞性を排除することができていないため、かかる点で伝聞証拠にあたる。

   イ 次に、C作成の手紙については、「XはBの手を掴んだだけである」とのCの公判廷供述が、CがAから30万円をもらったという証拠によって弾劾されたのに対して、30万円の利益供与がなされる前にした自己一致供述によって回復しようとするものである。この観点からは、要証事実は「30万円の利益供与前におけるCの自己一致供述の存在自体」となり、その内容の真実性は問題とならない。

 (3) よって、上記要証事実との関係では、C作成の手紙については伝聞証拠にはあたらない。

 3 以上より、C作成の手紙のみ証拠として用いることが許される。

以上