法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 2019年度('18年9月/'19年4月入学) 民事訴訟法 解答例

解答例

 

第1 設問1

 1 裁判所がBによる売買代金の弁済の事実を認定してXの請求を棄却することは、弁論主義第1テーゼに反し許されないのではないか。

2 弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の提出を当事者の権能および責任とする建前をいう[1]。その趣旨は、私的自治の訴訟法的反映に基づく自律的水平空間確保にあり、その機能は当事者への不意打ち防止にある。

かかる弁論主義から、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないという弁論主義第1テーゼが導かれる。

   「事実」とは、最低限の不意打ち防止の観点から、勝敗に直結する主要事実に限る。また、当事者とは自律的水平空間の確保という趣旨から両当事者のうちいずれか一方で足りる。そして、「主張」は、訴訟資料と証拠資料の峻別から、弁論期日になされることを要する。

 3 本件における訴訟物は、XのYに対するAB間の売買契約に基づく代金支払請求権である。そうだとすると、請求原因事実は①AB間売買契約締結事実②A死亡③XがAの子であること④B死亡⑤YがBの子であること、となる。これに対して、裁判所はBがAに対し700万円を支払い、かつそれが本件代金債務に対してなされたものであることを認定している。かかる認定は、上記請求原因と両立し、かつ、代金支払い請求権を消滅させる弁済の抗弁の事実であり、主要事実である。したがって、「事実」にあたる。それにも関わらず、XY両「当事者」は弁論期日において、かかる事実を「主張」していない。裁判所はX提出の証拠によってかかる事実を認定しているが、弁論期日に主張がなされているわけではないため、かかる点をもって「主張」があったということはできない。

 4 よって、裁判所の上記判決は弁論主義第1テーゼに反し、許されない。

第2 設問2

 1 裁判所は、前訴既判力は後訴に作用するとして、YのBによる相殺の事実の主張を排斥し、請求棄却判決をすべきではないか。

2 第1に、前訴既判力は後訴に作用するか。

(1) 既判力とは、確定された判決の主文に表された判断の通有性[2]をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

そして、前訴既判力が後訴に作用する場合とは、前訴既判力と後訴の訴訟物が①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にある場合であると考える。

 (2) 前訴既判力はいかなる範囲に生じるか。

ア  既判力の物的範囲(「主文に包含するもの」114条1項)は、審理の簡易化・弾力化の観点から、訴訟物にのみ及ぶ。また、時的範囲は、当事者に手続保障が与えられていたといえる時点、すなわち事実審口頭弁論終結時に生じる(民事執行法35条2項参照)。そして、人的範囲は、原則として手続保障の及んでいた当事者にのみ及ぶ(相対効原則 115条1項1号)。

   イ 本件では、前訴の事実審口頭弁論終結時にXのYに対するAB間の売買契約に基づく代金支払請求権が存在することについて、XY間に既判力が生じる。

 (3) 後訴訴訟物は、YのXに対する不当利得に基づく金銭返還請求権である。かかる訴訟物の請求原因は①Y損失②X利得③①と②との間の因果関係④②に法律上の原因がないこと、である。そして、④においては、XのYに対するAB間の売買契約に基づく代金支払請求権の存在は法律上の原因がないことと実体法上両立しないところ、本件前訴既判力と後訴訴訟物は矛盾関係にある(③)。

    したがって、前訴既判力が後訴に作用する。

 3 第2に、既判力は本件後訴にどのように作用するか。

 (1) 既判力は、裁判所は前訴既判力と矛盾抵触する当事者の主張を排斥しなければならないという消極的作用(遮断効)と、裁判所は前訴既判力を判決の基礎としなければならないという積極的作用を有する。

 (2) 本件では、YのBによる相殺の事実の主張は、XのYに対する代金支払請求権が存在するという前訴既判力と矛盾抵触するため、消極的作用により遮断される[3]。また、XのYに対するAB間の売買契約に基づく代金支払請求権が存在するという前訴既判力は、後訴の請求原因における法律上の原因があることを導く。したがって、裁判所は、積極的作用により法律上の原因があることを判決の基礎としなければならず、したがって本件後訴の請求に理由がないことを認定しなければならない。

 4 よって、裁判所は、本件後訴について請求棄却判決をすべきである。

以上

 

[1] 高橋・重点講義(上)404頁参照。

[2] 高橋概論・251頁

[3] 本問は、前訴既判力の基準時後に相殺権を行使したという事例ではないため、いわゆる相殺の抗弁と既判力の論点は問題とならないと思われる。もっとも、時的範囲の期待可能性説から、Yが前訴基準時までに当該証拠を見つけることは期待できなかったために既判力を縮減するという構成があり得なくはない。しかし、かかる点については期待可能性説からでも期待可能性があったという認定が自然と思われる。そもそも、Yとしては、Bが自働債権に供した債権を訴訟物に据えて訴訟提起することができ、この場合前訴既判力が作用しない。また、かかる請求に対して仮にXが相殺の事実を主張した場合、今度はかかる主張が既判力ないし信義則により遮断されると思われる。このように、Yは不当利得返還請求訴訟でなく売買代金支払請求訴訟によって目的を達成できるため、本件後訴について、無理矢理既判力が作用しないと構成する必要性は乏しいように思われる。