法律解釈の手筋

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東大ロー入試 平成27年度(平成26年11月/平成27年4月入学) 民事系 解答例

解答例

第1 設問1

 1 第1に、Aは乙に対し、会社法22条1項に基づく損害賠償請求をすることが考えられる[1]

 (1) 乙は甲の「事業」を「譲り受けた会社」である。

 (2) 乙が甲の「桜設備株式会社」との「商号」を「引き続き使用」していたといえるか。乙の商号は「株式会社さくら住宅設備」であり、完全な一致ではないため、その同一性が認められるか。

   ア 同項の趣旨は権利外観法理にあるところ、その同一性は、取引通念上、譲受会社が譲渡会社と同一の事業主体であると譲渡会社の債権者が誤解する程度の類似性があれば足りると考える。

   イ 本件では、甲の商号「桜設備株式会社」と、乙の商号「株式会社さくら住宅設備」とは、その主要かつ最も特徴的な部分である「桜」ないし「さくら」の部分で読みを共通にしており、会社の種類「株式会社」も共通で、後者は「住宅」を除くと「株式会社」の表示を後ろから前に移したのみである。このうち、「住宅」の点については,甲の営業目的が住宅関連機器の製造販売を行う会社であることからすれば,これが甲の商号にないとしても,甲の商号と乙の商号とが画然と区別されるとは認められない。そして,譲受会社である乙の商号にさくら設備との関連性が遮断されていることを想起させるべき字句は用いられていない。以上に鑑みれば、その類似性は債権者を誤解するに足る程度のものといえる。

   ウ したがって、乙は甲の商号を「引き続き使用」していたといえる。

 (3) また、商号という商人にとって最も重要な対外的信用の徴表を続用する者には、悪意の債権者に対しても、会社法22条2項の手続をとらない限り特別の責任を課したものと考えられるため、債権者Aの認識は問題とならない。

 (4) よって、Aのかかる請求は認められる。

 2 第2に、Aは乙に対し、会社法23条の2第1項に基づく履行請求をすることが考えられる。

 (1) 甲は乙に「事業を譲渡」している。

 (2) また、乙は多額の債務のため既に経営が立ちゆかなくなっており、無資力であるといえ、債権保全の必要性がある。

 (3) 甲の乙への授業譲渡は甲の住宅関連機器の製造・販売にかかる財産を乙に譲渡するものであり、責任財産を減少させるものであり詐害性が認められる。

 (4) 乙は甲の代表取締役Bが設立したものであるところ、「債権者を害することを知って」いたといえる。

 (5) よって、Aのかかる請求は認められる。

 3 第3に、Aは甲に対する損害賠償債権を被保全債権として民法424条に基づいて事業譲渡を取り消して、事業譲渡にかかる財産引渡請求をすることが考えられる。

 (1) 同条の要件は会社法23条の2第1項とかわらないため、前述のとおり、要件をすべて充足する。

 (2) もっとも、Aは財産の自己への引渡しを請求することができるか。

   ア この点について、自己への引渡しを認めないと債務者が受益者からその物又は金銭を自発的に受け取らない場合に、責任財産の保全という目的が達成されないことになるため、自己への引渡しが認められると考える。

   イ したがって、Aは自己への引渡しを請求できる。

 (3) そうだとしても、包括承継である事業譲渡においては、価額賠償請求にすべきでないか。

   ア この点、企業再編においては債権債務の包括承継がおこなわれることになるところ、現物返還を認めることは取引実体に即さない。そこで、包括的な権利移転の場合には、価額賠償請求を原則とすべきであると考える。

   イ したがって、Aは現物返還ではなく、それに代わる価額賠償請求をすることができると考える。

 (4) よって、Aのかかる請求は価額賠償の限度で認められる。

 4 第4に、Aは法人格否認の法理を理由に、甲に対する損害賠償請求を乙に対してすることが考えられる。

 (1) 法人格が濫用されているといえるためには、権利濫用(民法1条3項)といえるような場合、すなわち、①法人格が株主により意のままに道具として支配されていること及び②支配者に不当な目的があることが必要であると考える。

 (2) 本件では、乙会社の代表取締役はDとなっているが、実質的な経営は甲の代表取締役Bが行っており、甲会社の株主が乙を支配しているといえる。また、Bは甲会社の債務を免れる目的で乙会社を設立しているうえ、その債務というのは不法行為という悪質性のある債務である。以上にかんがみれば、Bには乙会社の設立について不当な目的があるといえる。

 (3) したがって、法人格否認の法理が認められ、Aの請求は認められる。

第2 設問2[2]

 1 Aは民事執行法26条1項に基づいて、乙会社に対する執行分の付与の申立てをすることが考えられるが、かかる申立てが認められるか。Aの甲に対する「債務名義により強制執行することができる」(同法26条1項)、すなわち、「口頭弁論終結後の承継人」(同法23条1項3号、22条1号)にあたるか。

 (1) 判決効は、手続保障充足に基づく自己責任という正当化根拠から、当事者間にのみ及ぶのが原則(同法23条1項1号)である。しかし、例外的に、「承継人」に拡張したのは、紛争解決の実効性確保にあるところ、「承継人」とは紛争の主体たる地位を取得した者をいう。

(2) 本件では、乙は甲から事業を譲り受けているが、甲のAに対する損害賠償債務を承継した訳ではないところ、甲から乙に事件適格が移転したとはいえない。

 (3) したがって、紛争の主体たる地位が移転したとはいえず、「承継人」には当たらない。また、かかる事業譲渡は控訴審たる事実審の「口頭弁論終結」前になされているため、この点からも認められない。

2 もっとも、Aは法人格否認の法理によって、例外的に執行力が甲から乙に拡張されると主張することが考えられるが、かかる法理を認める明文の規定は存在しないし、法的安定性を害することにもなる。また、執行裁判所の迅速な執行という趣旨にもそぐわないため、かかる主張は認められないと考える。

3 よって、執行文付与の申立ては認められない。

以上

 

[1] モデル判例は、宇都宮地裁平22・3・15。なお、平成27年度司法試験予備試験民法参照。また、伊藤靖史ほか『事例で考える会社法』(2015年、有斐閣)の事例⑲も参照。

[2] モデル判例は、最判昭53・9・14参照。