法律解釈の手筋

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東大ロー 入試過去問 平成30年度(平成29年11月/平成30年4月入学) 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1 (設問1では、刑法は法名略。)

 1 XがAに対し、「お前、このままで済むと思うなよ。腎臓でも売るか。何か金目のものを出せ」などと申し向け、本件カードを交付させた行為に恐喝罪(249条1項)が成立する。

 (1) XはAに対し債権を有しているが、Aの上記行為は「恐喝」にあたる。

   ア 「恐喝」とは、財物移転に向けられた、暴行又は脅迫により被害者を畏怖させることをいう。そして、債権者であっても、権利行使の方法が社会通念上一般に許容すべきものであると認められる場合でない限り、「恐喝」にあたる[1]

   イ 本件では、Xは「このままで済むと思うなよ。」などと言い、Aが金銭を交付しないと、Aに何かしらの危害が加えられるおそれがある旨の暗示があり、かつ、それはAを畏怖するに足りる。また、Xのかかる行為は、金融業者として社会通念上一般に許容されない権利行使の方法といえる。

   ウ したがって、「恐喝」にあたる。

 (2) Aは、実際に畏怖しており、それによって、本件カードたる「財物」をXに対し「交付」している。また、Xには、故意(38条1項)が認められる。

 (3) よって、Xの上記行為に恐喝罪が成立する。

 2 Xが、本件カードを給油機に挿入し、40リットルのガソリンを自車に給油した行為に窃盗罪(246条1項)が成立する。

 (1) Xの上記行為は、明示的な欺罔行為ではないが、「人を欺」く行為にあたる。

   ア 欺罔行為は、財物の主観性故に広がる処罰範囲限定の観点から、「人を欺」く行為とは、①財物移転に向けられた②財産交付の判断の基礎となる重要な事項を③偽る行為をいう。

   イ 本件では、Xはガソリンの給付を受けようとしており、上記行為は財物移転に向けられている(①充足)。XはA名義の本件カードを利用している。Aは瑕疵ある意思に基づいてXに本件カードを交付したにすぎず、Xが本件カードを利用することに同意していない。そうだとすれば、上記行為は、Xには代金支払意思がないにも関わらずそれがあると偽るものである。相手方に代金支払意思があるかどうかは取引行為において客観的に重要な事項であり、被害者が財産交付をするについて判断の基礎となる重要な事項にあたる(②充足)。また、クレジットカードの決済システムはカード名義人の信用によって成り立っている。会員規約上も、他人にクレジットカードを譲渡、貸与することが禁じられ、加盟店はカード名義人と利用者が同一であることの確認義務を負っている。そうだとすれば、カード利用者であるXがカード名義人であると偽る点についても、財産交付の基礎となる重要な事項にあたる[2](②充足)。本件ガソリンスタンドでは、給油機にクレジットカードを挿入し、従業員がモニターで利用状況を確認した上で給油確認ボタンを押すというシステムが採用されている。かかるシステムにかんがみれば、給油機にクレジットカードを挿入するという行為は、挙動によって上記欺罔をするものであり、偽る行為にあたる(③充足)。

   ウ したがって、Xの上記行為は「人を欺」く行為にあたる。

 (2) DはXが本件カードの名義人であると誤信し、それによって、「財物」たるガソリンの給付を許可し、「交付」したといえる。

 (3) もし仮にXが、本件カードの利用をAから許諾されており、Aに代金支払意思があると誤信していたとしても、カード名義を偽る点について故意が認められる以上、この点で故意は阻却されない[3]

もっとも、Xは本件ガソリンスタンドのシステムが、従業員が関与することなく給油機から自動的に給油がなされるものと誤信している。すなわち、Xの主観においては窃盗罪(235条)の故意であるため、詐欺の故意が認められない。

 (4) よって、Xの上記行為に詐欺罪は成立しない。

 (5) 次に、上記詐欺罪の客観的構成要件を充足する場合、窃盗罪の客観的構成要件を充足しないか。

   ア 当該犯罪の客観的構成要件が実現しており、他の犯罪の構成要件がそこに包摂されていると評価できる場合には、かかる犯罪の客観的構成要件も充足すると考える。そして、包摂されるか否かは①保護法益②行為態様の観点から決する[4]

   イ 本件では、前述のとおりXの上記行為は詐欺罪の客観的構成要件を充足する。詐欺罪も窃盗罪も占有ないし所有権を保護法益とする点で保護法益が共通である(①)。また、詐欺罪は被害者を利用した窃盗罪の間接正犯類型であるとも考えられるため、行為態様も共通であるといえる(②)。

     したがって、詐欺罪の客観的構成要件充足は、窃盗罪の客観的構成要件も充足していると評価できる。

   ウ よって、Xの上記行為は窃盗罪の客観的構成要件に該当する[5]

 (6) 前述のように、Xには窃盗罪の故意が認められる。

 (7) よって、Xの上記行為に窃盗罪が成立する。

 3 以上より、Xの一連の行為に①恐喝罪②窃盗罪が成立し、両者は保護法益が異なり別個の行為であるため、併合罪(45条1項)となり、Xはかかる罪責を負う。

第2 設問2 (設問2では、刑事訴訟法は法名略)

 1 Pの接見指定は、39条3項に反せず適法である。

 2 Pの接見指定は「捜査のため必要があるとき」(同項本文)にあたる。

 (1) 同項の趣旨は、弁護人依頼権(憲法34条)という憲法上の保障される権利に由来する重要な権利である接見交通権と、1つしかない被疑者の身体を利用した厳格な時間制限の下でなされる捜査の緊急の必要性との合理的調整を図る点にある。

    そこで、「捜査のため必要があるとき」とは、取調べの中断等により、捜査に顕著な支障が生じる場合をいうと考える[6]

 (2) 本件では、Xの取調べがなされており、ちょうど殺人事件について自白を始めたところであるため、かかる時点で接見を認めれば捜査に顕著な支障が生じたというべきである。

 (3) したがって、「捜査のために必要があるとき」にあたる。

 3 LはXの恐喝罪及び窃盗罪被疑事件についての弁護人であり、かかる事件についてはすでに起訴されているところ、「公訴の提起前」にあたらないとも思える。しかし、殺人事件の逮捕によって捜査の必要性が減退し接見指定を認める必要性がなくなったという前提状況が変化している。そうだとすれば、前述の接見指定の趣旨が妥当する。

   したがって、上記接見指定は、なお「公訴の提起前」であるといえる[7]

 4 Pの接見指定は、3時間後という近接した時間帯での接見を認めており、かつ、Lは前日もXと接見していたのであるから、3時間後の接見であっても不当とまではいえない。したがって、被疑者の「権利を不当に制限する」ものでもない(同項但し書)。

 5 よって、Pによる本件接見指定は適法である。

以上

 

[1] 最判昭和30年10月14日参照。

[2] 他人名義のクレジットカードの不正使用については、橋爪連載(各論)第8回・100頁参照。

[3] 最決平成16年2月9日参照。

[4] 橋爪連載(総論)第5回・99頁参照。

[5] 橋爪連載(総論)第5回・108頁参照。

[6] 最大判平成11年3月24日参照。

[7] 酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015年)210頁参照。