法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題6 「カネ・カネ・キンコ」 解答例

解答例

第1 乙の罪責

 1 乙が、Dに対し、エアーガンを突きつけ「カネ、カネ、キンコ」と3回繰り返し、よってD子の犯行を抑圧し、35万円の現金の交付をさせた行為に強盗罪(236条1項)が成立する。

 (1) 乙の上記行為は、甲に命じられたものであるが、なお「暴行」にあたる。

ア 「暴行」とは、①財産移転に向けられた②相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力行使をいう。また、実行行為性が認められるためには、③正犯性を障害する事情のないことが必要である。

   イ 本件では、甲はスナックCにおいてCの財産処分権を有する店長D子に対し「カネ、カネ、キンコ」と3回繰り返しているところ、「金を出せ」ということを意味するものとみえ、財産移転に向けられている(①充足)。また、乙は目だし帽とエアーガンという一見して明らかに強盗犯に見える格好をしているところ、被害者D子としてはエアーガンが本物の拳銃と誤信し、反抗すれば拳銃によって殺されると思い込み、反抗が抑圧される危険性があるといえる(②充足)。

     確かに、乙は甲から本件犯行を命じられている。甲の外見は一見して誰でも暴力団員であるかかつてそうであった者ないしそれに類似するものであったという。また、乙は甲に万引きの事実を握られている。そうだとすれば、甲は、もし本件犯行を行わなければ、万引きの事態が発覚し、自らも半殺しの目にあうかもしれず、さらには両親がゆすられることになるのではないかと思い、仕方なく実行を承諾したのであり、乙の意思は抑圧されていたといえ、自己の犯罪として遂行する正犯意思に欠けていたとも思える。

     しかし、乙は強盗罪の実行行為という重要な役割を果たしている。また、乙は、Cの外のシャッターを自らの判断で下ろして閉店したかのように見せかけ、客がはいってこないようにしている。さらに、乙は、D子が警察に訴えないように、D子に対し強制性交をも自らの判断で行っている。以上にかんがみれば、臨機応変に対処して本件強盗を完遂しているといえ、正犯意思が推認される。そして、乙は本件犯行の報酬として3万円という中学生にとっては高額な金銭を甲から受け取っている点にかんがみても、正犯意思が推認される。したがって、乙には正犯性が認められる(③充足)。

   ウ よって、甲の上記行為は「暴行」にあたる。

 (2) D子は、乙の上記行為によって実際に抵抗の意思をなくし、乙に対し35万円を交付しているところ、乙はCの現金という「他人の財物」を自己の占有に移転し「強取」している。

 (3) よって、乙の上記行為に、強盗罪が成立する。

 2 乙が、D子に対し、性交に及んだ行為に強盗・強制性交罪(241条1項)が成立する。

 (1) 乙は、抵抗の意思がなくなったD子に対し、着衣を脱がしているところ、抵抗の意思がなくなっていることを利用してD子の反抗を著しく困難にする有形力行使といえ「暴行」にあたる。

 (2) 乙は、上記行為の直前に、D子に対し「強盗の罪」を犯している。

 (3) よって、乙の上記行為に、強盗強制性交罪が成立する。

 3 乙が、Eに対し、エアーガンでEの身体の中心部をめがけて3発発射し、よってEをその場に仰向けに倒れさせ、3週間の打撲傷を負わせた行為に、強盗致傷罪(240条)が成立する。

 (1) 乙は「強盗」にあたる。

 (2) 乙の上記行為は、強盗致傷罪の実行行為にあたる。

   ア 同条の趣旨は、強盗の機会に死傷結果の生ずることが刑事学上顕著であることにかんがみ政策的に設けられた点にある。

     そこで、同条の実行行為は強盗の機会に行われたものであることが必要である。

   イ 本件では、上記強盗行為終了後、直ちにEが追跡を開始し、Cから30メートル先の路上で乙の上記行為が行われているところ、強盗行為との時間的場所的近接性が認められる。また、かかる行為はEの追跡から免れるためになされており、強盗行為の完遂に向けられたものである。以上にかんがみれば、強盗の機会に行われたものであるといえる。

   ウ したがって、乙の上記行為は、強盗致傷罪の実行行為にあたる。

 (3) Eの打撲傷は仰向けに倒れた際に負ったものであるが、乙の上記行為との間に因果関係が認められる。

   ア 法的因果関係は、当該行為者に結果責任を問うことができるかという問題であるところ、当該行為の危険性が結果へと現実化した場合には因果関係が認められると考える。

   イ 本件では、乙の行為はエアーガンの発射行為であり、それ自体によってEが負傷する危険性はない。しかし、乙は強盗犯として追われている者であり、エアーガンが本物の拳銃と誤信される可能性が非常に高い。もし仮に本物の拳銃によって発射された場合、発射されたことによるショックでその場に倒れ込む危険性はあるといえる。そうだとすれば、乙の上記行為はEにショックを与え、路上に転倒させる危険性が含まれていたといえ、Eの転倒という介在事情は乙の上記行為に誘発されたといえる。また、上記介在事情に異常性も認められない。以上にかんがみれば、乙の上記行為の危険性がEの打撲傷という結果に現実化したといえる。

   ウ したがって、乙の上記行為とEの結果との間に因果関係が認められる。

 (4) よって、乙の上記行為に強盗致傷罪が成立する。

 4 乙が、Eに対し、睨みつけながら「文句はないな」と申し向け、現金2万円を奪った行為に、2万円の点について強盗罪(236条1項)が成立する。

 (1) 乙の3の行為は、財産移転に向けられていないため、「暴行」にはあたらない。しかし、乙の上記行為は、「脅迫」にあたる。

   ア 「脅迫」とは①財産移転に向けられた②相手方の反抗を抑圧するに足りる害悪の告知をいう。

   イ 乙は、「文句はないな」といいながら財布をEの胸ポケットから奪う行為にでているところ、「金を奪っても文句はないな」という意味といえ、財産移転に向けられている(①充足)。また、乙の3の行為のショックでEは路上に転倒し負傷している状況にあるところ、かかる状況下で同人から睨みつけられながら「文句はないな」と申し向けられることはEの反抗を抑圧するに足りるといえる(②充足)。

   ウ したがって、乙の上記行為は「脅迫」にあたる。

 (2) 乙は、Eの2万円という「他人の財物」をEの意思に反して自己の占有に移転し「強取」したといえる。

 (3) よって、乙の上記行為に強盗罪が成立する。

 5 乙はEの財布を捨てた行為に、器物損壊罪(261条)が成立する。

 (1) 乙がEの胸ポケットから財布を奪った行為について、不法領得の意思が認められないため、窃盗罪(235条)が成立しない。

   ア 利益窃盗及び毀棄隠匿罪との区別の観点から権利者を排除して、他人の財物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思たる不法領得の意思が必要であると考える。

   イ 本件では、乙は財布については帰宅後ただちにごみ箱に捨てるつもりであったのであるから、自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思がない。

   ウ したがって、不法領得の意思がなく窃盗罪が成立しない以上、共罰的事後行為として器物損壊罪が成立しないことにはならない。

 (2) Eの財布たる「他人の財物」について、乙は最寄りのごみ箱に捨てその効用を害し「損壊」している。

 (3) よって、乙の上記行為に器物損壊罪が成立する。

 6 以上より、乙の一連の行為に、①強盗罪②強盗・強制性交罪③強盗致傷罪④強盗罪⑤器物損壊罪が成立し、①は②に吸収され、④と⑤は時間的場所的に近接した行為で、かつ、Eの所有権を侵害するものであるため包括一罪となる。②③④について、併合罪(45条1項)となり、乙はかかる罪責を負う。なお、②について強盗罪の限度で甲と共同正犯となる。③についても甲と共同正犯となる。

第2 甲の罪責

 1 甲が、乙と共謀の上、乙は第1・1及び2の行為をした点について、強盗罪の共同正犯(60条、236条1項)が成立する。

 (1) 乙は、前述のとおり道具として利用されていない以上、甲について間接正犯は成立しない。

 (2) 甲は共謀共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 共犯の処罰根拠は正犯者を介して法益侵害を惹起した点にある。また、全部実行一部責任の処罰根拠は、各犯罪者がそれぞれ犯罪の目的達成のために、重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

     そこで、①共犯者間の共謀②共謀に基づく実行行為が認められる場合に共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   イ 甲は乙に対し、本件犯行計画を伝え、乙がこれに承諾しているところ、意思の連絡が認められる。また、甲は本件犯罪の首謀者であり、かつ、目出し帽やエアーガンなどの反抗道具も用意しているところ、重要な役割を果たしている。そして、甲はCで使った30万円を取り戻すために本件犯行を計画しており、かつ、実際に奪った35万円の内32万円を自己に帰属させている点で、自己の犯罪として遂行する正犯意思もある。

     そうだとすれば、甲乙間には、実行行為時点における特定の犯罪遂行合意たる共謀がみとめられる(①充足)。

   ウ 本件では、強盗のほかに乙は強制性交罪にも及んでいるところ、共謀に基づくものといえるかが問題となる。

     確かに、本件共謀はCにおいて強盗をする合意であるところ、強制性交罪については、共謀に基づくものとはいえないとも思える。しかし、乙は強盗の事実が警察にばれないようにするため性交に及んでおり、強盗の完遂に向けられているところ、強盗行為と動機の同一性が認められる。そうだとすれば、上記共謀に内在する危険性が本件性交行為に現実化したといえる。

     したがって、強制性交行為についても共謀に基づく実行行為といえる(②充足)。

 (3) もっとも、甲には強制性交罪の故意が認められない。したがって、甲には強盗罪の故意のみが認められ、それに対応する強盗罪の限度で客観的構成要件充足性が認められ、共同正犯が成立する。

 (4) よって、甲の上記点に強盗罪の共同正犯が成立する。

 2 以上より、甲の一連の行為に強盗罪の共同正犯が成立し、甲はかかる罪責を負う。

以上