法律解釈の手筋

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京大ロー入試 平成30年度(平成29年11月/平成30年4月入学) 憲法 解答例

解答例

第1 第1問[1]

 1 監視カメラによるC本部入り口付近の撮影がなされた点について、Xのみだりにその容ぼう、姿態等を撮影されない自由を侵害し、憲法13条に反しないか。

 (1) みだりにその容ぼう、姿態等を撮影されない自由は、個人の私生活上の自由の一つとして憲法13条により保障される。

 (2) そして、上記行為によって、かかる自由は制約されている。

 (3) もっとも、上記制約が正当化されないか。

   ア 本件は、情報収集・利用場面における制約が問題となっている。ところで、個人情報の取得・利用それ自体によってはプライバシーが侵害されるわけではなく、かかる情報が開示・公表されることによりプライバシー侵害の危険性が生じるにすぎない。しかし、個人情報が取得されれば不適切な利用によってプライバシー侵害へと至る危険性があるのであるから、個人情報の取得・利用についても憲法13条の趣旨が及ぶと考える[2]

     そこで、①当該手段の目的が正当で②手段が相当性を有するものであるときは、憲法13条の趣旨に反せず正当化されると考える。

   イ 本件で監視カメラが設置されたB地区は日雇い労働者や路上生活者が多く住むところであり、観光客からこわい思いをしたといった声がよせられていた地区である。そこで、A市は正確な現状把握のために監視カメラを設置した。現状把握という目的は、犯罪などが発生しているかを確認するものであり、公益上の目的として正当性を有する(①充足)。本件で用いられている手段は、B地区への監視カメラの設置であり、問題となっている地区に限定されているところ、行動の継続的監視によって市民の趣味・趣向が明らかにされる危険は少ないし、これによって市民に委縮効果が生じ、移動の自由が侵害されるおそれも少ない。また、監視カメラの画像の保存期間は2週間と限定的であり、不適切な利用がなされるおそれについても配慮した限定的手段をとっている。確かに、本件監視カメラは多数設置されており、非常に性能の高いものであるところ、それによってXのプライバシーが侵害されているとも思える。しかし、前述したように、撮影それ自体がプライバシー侵害を基礎づけるわけではない。性能のよいカメラで情報を大量に集積されることで、不適切利用のおそれが高まることは否定できないが、正確な現状把握のためには上記手段は必要性を有しているといえる。以上にかんがみれば、本件手段は相当性を有する(②充足)。

   ウ したがって、上記点は憲法13条の趣旨に反せず正当化される。

 (4) よって、監視カメラによるC本部入り口付近の撮影は合憲である。

2 Dへの情報提供により、Xの上記自由が侵害し、憲法13条に反しないか。

(1) まず、Xの上記自由が保障されること及び、Dの情報提供によってXの容ぼう等が公表され上記自由が制約を受けることは明らかである。

(2) それでは、上記制約が正当化されるか。

  ア 確かに容ぼう等そのものは個人の私生活情報、内心に関する情報ではない。しかし、人の容ぼう等も万人不同性及び終生不変性を有する点で指紋と異なるところはなく、その利用方法姿態で個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性はある[3]。もっとも、容ぼう等の情報は秘匿性の高いものではない以上、慎重な取り扱いが認められれば、憲法13条に反せず正当化されると考える[4]

  イ 本件では、元々現状把握のために撮影されていた監視カメラの画像情報を、DがXがどのような人物であるかを知るために用いられており、目的外利用であるといわざるを得ない。また、かかる目的外利用は、XのDに対する猛烈な抗議に対してDが立腹したという個人的な感情によってDがXのことを調べたことに基づく。そうだとすれば、B地区の監視カメラを管轄する部局がDに対して漫然とXの情報を回答したことは、慎重な取り扱いとはいえず、違法な公権力行使であるといえる。

  ウ したがって、上記制約は正当化されない。

(3) よって、上記点は憲法13条に反し、違憲である。

第2 第2問

 1 小問1

 (1) 国籍法違憲判決

    旧国籍法3条1項が、準正が認められた子とそうでない子との間で日本国籍の取得の有無について別異取扱いをしていた。上記判例は、本件別異取扱いの立法目的について、準正によってわが国社会との密接な結びつきが生じ、日本国籍取得を認めるに足りる状況が生じるという目的を認定し、旧国籍法3条1項が設けられた当時においては合理性があったとした。しかし、その後家族生活や親子関係の意識について変化が生じ、かつ、出生数に占める非嫡出子の割合も増加するなど、社会状況が変化したことを理由に、立法目的の合理性が失われた、と判示している。

 (2) 非嫡出子相続分規定違憲決定

    旧民法900条4号が、嫡出子と非嫡出子との間で法定相続分について別異取扱いをしていた。上記判例は、平成7年の合憲決定が法律婚の尊重及び非嫡出子の保護という立法目的が合理的であるとしたことについて触れながらも、わが国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、これまでの最高裁判所における度重なる問題の指摘等から、合理的な根拠は失われた、とした。

 2 小問2[5]

 (1) 立法事実の変化を理由とする違憲判断の手法の意義

   第1に、立法者に対する敬譲という意義が認められる。制定当時には合憲であった、と明示的に述べることによって、立法府の面子を立てることができる。第2に、過去の判例に対する敬譲という意義が認められる。立法事実の変化を理由とすることによって、従来合憲判断をしてきた判例と矛盾抵触することなく違憲判断を導くことができるため、過去の判例の面子を立てることができる。

 (2) その問題点

    第1に、変化として指摘する事実が実証性に乏しく、説得力がないという問題がある。例えば、国籍法違憲判決は出生数に占める非嫡出子の割合の増加を理由とするが、国籍法改正時の約1パーセントから約2パーセントに増加しているにすぎない。非嫡出子相続分規定違憲決定では、国民の意識の変化という印象論をあげている点で説得力がない。第2に、国会は立法事実の雄健的認定権を裁判所に奪われているという問題がある。立法事実の変化を国民の意識の変化もあわせて認定されてしまえば、国会の立法裁量が奪われ、三権分立に反するのではないかという問題が生じる。

以上

 

[1] モデル判例として大阪地判平成6年4月27日参照。

[2] プライバシーについては、①情報の収集②情報の管理③情報の開示・公表という3つに区別することができ、判例は③の場面こそ憲法13条の保障場面であると捉えていると考えるのが、近時の有力説。横大道聡・編『憲法判例の射程』(弘文堂、2017年)49頁以下(横大道聡執筆)、大林啓吾・柴田憲司[編]『憲法判例のエニグマ』(成文堂、2018年)267頁以下(高橋和広執筆)参照

[3] 指紋押捺拒否事件判決(最判平成7年12月15日)参照。

[4] 前科照会事件判決(最判昭和56年4月14日)、早稲田大学江沢民後援会名簿提出事件判決(最判平成15年9月12日)参照。

[5] 解答作成にあたっては、大林啓吾・柴田憲司[編]『憲法判例のエニグマ』(成文堂、2018年)141頁以下(櫻井智章執筆)参照。