法律解釈の手筋

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京大ロー入試 平成30年度 行政法 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 訴えの利益とは、本案判決を求める必要性をいう。

2 税務署長は、差押財産を公売に付するときは、公告をしなければならず(国税徴収法95条1項)、公売財産の名称、数量、性質及び所在(同項1号)、公売の方法(同項2号)、公売の日時及び場所(同項3号)、売却決定の日時及び場所(同項4号)等、買受申込者に対し必要な事項を公告しなければならないとされる。そして、税務署長は不動産等を換価に付するときは、公売期日等から起算して7日を経過した日に最高価申込者に対して売却決定を行うこととされている(同法113条)。

以上にかんがみれば、公売とは、差押財産の換価において、買受希望者の自由競争に付すことで最高価額によって売却価額及び買受人を決定する手続である。そうだとすれば、公売公告の目的は、買受希望者をできるだけ多く集めて当該不動産を高価に売却するため,当該不動産についての需要を喚起し,高価有利な買受申込み(すなわち売買の申込みの意思表示)を誘引する点にあるところ、その効果は指定の期日において公売を決行するという法的効果を有す。そうだとすれば、遅くともその承諾の意思表示の性質を有する売却決定がされた段階では,その目的を達成してその法的効果を失っているといえる。

 3 したがって、本件において本案判決を求める必要性がなく、訴えの利益が認められない。

第2 設問2

 1 確かに、上記のように公売公告の法的効果が失われているとしても、X1は差押財産にかかる国税の滞納者であるところ、滞納者にはなお「回復すべき法律上の利益」があるといえる。

 2 国税徴収法113条は公売公告から7日を経過した日に売却決定を行うこととしており、売却決定は公売公告を前提としている。そうだとすれば、公売公告が違法であるとの判決が確定した場合、当該公売公告を前提としてなされた売却決定等の処分が同判決と整合しなくなるところ、判決の拘束力により、売却決定等の処分を取り消さなければならない。

 3 そうだとすると、滞納者は、公売公告を取り消す旨の判決を得ることにより、改めて適法な手続の下に売却決定に至る一連の手続が行われ、高額な売却決定により滞納者が納付すべき国税の額が減少することを期待し得る法的地位を回復することができる。

 4 したがって、滞納者たるX1には上記法的地位があり、「回復すべき法律上の利益を有するといえる」。

第3 設問3

 1 X2は差押え登記後に土地Bの所有者となった者であるが、

2 前述のとおり、公売公告を取り消す旨の判決の確定により、その後の売却決定が取り消されることになる。

 3 そうだとすれば、差押登記後に差押財産の所有者となった者であっても、売却決定が取り消され、差押不動産の所有権を買受人又は転得者から回復することを期待し得るという法的地位を有する[2]

 4 したがって、差押登記後の差押財産の所有者であるX2には「回復すべき法律上の利益」が認められる。

以上

 

[1] モデル判例として、東京高判平成28年1月14日参照。

なお、本問の訴えの利益を検討する際に参照すべき判例として、建築物の工事が完了した後の建築確認取消訴訟において、訴えの利益が認められないとした最判昭和59年10月26日参照。

[2] 前掲注(1)平成28年東京高判の第1審判決参照。しかし、高裁判決では、かかる理由は削除されている。高裁判決は「公売公告に移行する処分が取り消された場合には、当該不動産の差押え自体が取り消されない限りは、当該差押えに基づき、改めて、当該不動産についての公売公告を行うことになる」と判示していことから、公売公告を取り消しても差押処分まで取り消されるわけではない以上、差押登記後に差押財産を所有するに至った者については「回復すべき法律上の利益」が認められないという判断を前提にしているように思われる。