法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… 

一橋ロー入試 平成29年度 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 第1に、Yは更新拒絶の正当事由を認める旨主張しているが、自白が成立し、弁論主義第2テーゼ(審判排除効)によって、裁判所は正当事由の存在があることを判決の基礎としなければならないのではないか[1]

(1) 弁論主義第2テーゼとは、裁判所は当事者に争いのない事実は判決の基礎としなければならないこと[2]をいう。そして、「事実」とは主要事実に限られる。なぜなら、少なくとも主要事実に審判排除効を認めておけば最低限の不意打ち防止にはなるし、間接事実にまで審判排除効を認めるとすれば、自由心証主義を過度に制約することになり妥当でないからである。

(2) 本件では、「正当の事由」(借地借家法6条)の存在についてXYで争いがない。しかし、正当事由はその要件から具体的事実のイメージがわきにくい規範的要件であるため、かかる要件を基礎づける具体的事実が主要事実になると考える。したがって、本件では、正当事由は主要事実にあたらず、自白は成立しない。

(3) したがって、裁判所はかかる点において拘束されない。

2 第2に、そうだとしても、正当事由という規範的要件について争いがない以上、権利自白の成否が問題となるとも思える。しかし、規範的要件の該当性についての主張を認める旨の陳述は権利自白にあたらないと考える。なぜなら、構成要件へのあてはめについては、中間確認の訴えでの請求の認諾による当事者の処分権主義とのバランス論が妥当しないからである。

  したがって、本件は権利自白の対象にならない[3]

3 第3に、裁判所は1000万円の立退料との支払いとの引換えであれば正当事由を具備するとの心証に至っているため、引換え給付判決を出すことが考えられるが、かかる質的一部認容判決は処分権主義(246条)に反し許されないのではないか。

(1) 処分権主義とは、訴訟の開始、審判対象の特定訴訟の終了を当事者の自由な処分に委ねる原則をいう。その趣旨は私的自治の訴訟法的反映にあり、その機能は被告への不意打ち防止にある。

  そこで①原告の合理的意思に反せず、②被告への不意打ち防止とならない場合には、処分権主義に反せず許されると考える。

(2) 本件では、無条件の土地明渡し請求に対して立退料との引換え給付判決をしようとしている。しかし、訴訟物は同一であって、原告としては合理的な金額である限り請求棄却よりは判決による解決を望むと考えられ合理的意思に反しない(①充足)。また、被告としても無条件明渡しよりは立退料がもらえる以上有利であり、不意打ちともならない(②充足)。

(3) したがって、本件では、処分権主義に反しない[4]

4 第4に、そうだとしても、立退料の申し出について当事者からの主張がない以上、裁判所がかかる点を判決の基礎とすることは弁論主義第1テーゼに反し、許されないのではないか。

(1) 弁論主義第1テーゼとは、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないことをいう。

  「事実」とは、前述と同様の理由から主要事実に限られる。また、弁論主義は裁判所と当事者の役割分担の規律であるため「当事者」とは両当事者をいう。そして、「主張」とは、訴訟資料と証拠資料の峻別から、弁論手続において陳述のなされることをいう。

(2) 本件では、XのYに対する賃貸借契約終了に基づく土地明渡し請求が問題になっているところ、その主要事実たる請求原因事実には「正当の事由」(借地借家法6条)を基礎づける具体的事実が含まれる(不特定概念の主要事実については前述のとおりである)。

裁判所は正当事由を基礎づける立退料の存在を認定して引換え給付判決をしている。立退料の存在は正当事由を基礎づける主要事実にあたる。それにも関わらず、両当事者XYからはその主張が弁論手続になされていない。

 (3) したがって、本件では弁論主義第1テーゼに反するため、立退料の支払いを判決の基礎とすることはできない。

 5 以上より、裁判所としては、請求棄却判決をすべきである。もっとも、裁判所としては、釈明権(149条)を行使して、当事者に立退料の支払いの主張を求めるのが望ましい。

第2 設問2

 1 裁判所としては、賃料相当額が50万円であるとの心証に至っているため、請求認容判決をすることが考えられるが、かかる判決は既判力(114条1項)に反し許されないのではないか。

 (1) 既判力とは、前訴確定判決の後訴での通用性ないしは基準性をいう。その趣旨は紛争の一回的解決にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

  そして、既判力の物的範囲(「主文に包含するもの」)は、審理の簡易化・弾力化の観点から訴訟物に生じると考える。そこで、前訴既判力と後訴訴訟物が同一・先決・矛盾のいずれかの関係にある場合には、既判力が後訴に及ぶと考える。

 (2) 前訴既判力と後訴訴訟物は、いかなる関係にたつか。

 ア 確かに、前訴既判力はXのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求権30万円の存在について生じており、後訴訴訟物もXのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求権であって、訴訟物は同一の関係にあるとも思える。

   しかし、そのように解すると、Xは後訴において30万円の請求認容に矛盾する賃料相当額が50万円であるとの主張が排斥されることになり、酷である。

 イ そもそも、原告の処分権主義と被告の副次応訴の負担の調和の観点から、明示的一部請求については、明示部分のみが訴訟物になり、残部請求は前訴既判力に抵触しないと考える。明示の機能は、明示がない場合には、被告の合理的期待を保護するため、信義則上、前訴既判力と後訴訴訟物を同一関係と捉えることで、後訴を遮断するものである。

   そこで、事実上の明示がない場合でも、例外的に信義則に反しない特段の事情が認められる場合には、回顧的にみて一部請求であるとの「明示」があったとの評価をすることができると考える[5]

 ウ 本件では、将来給付判決について、前訴の口頭弁論終結後に地価が高騰するという事情の変動が認められる。地価の高騰は前訴判決の確定から3年経過しており、原告が前訴の時点でかかる事情を主張立証することは不可能であり、これを請求から除外する趣旨であったといえる。また、判決もそのような趣旨のもとにおいて前訴の判断をしたものである。

   以上にかんがみれば、明示をしないことが禁反言ないし信義則に反するとはいえない特段の事情が認められると考える。

エ したがって、前訴訴訟物は不法行為に基づく損害賠償請求の50万円のうちの30万              

 円の一部請求に帰する。そうだとすれば、後訴訴訟物とは同一の関係にたたず、また先決・矛盾の関係にもない。

(3) よって、後訴に前訴既判力は作用せず、裁判所は心証通り請求認容判をすべきである。                                  以上

 

[1] 試験時間との関係で考えた場合、弁論主義第2テーゼは丸々飛ばして、権利自白から書くべきと思われる。しかし、一応問題にはなり得るので、参考答案には記載した。

[2] 自白が問題となるが、審判排除効(弁論主義第2テーゼ)に関わる自白なので「自己に不利益な」事実である必要はない。不利益要件が問題になるのは当事者拘束力(不可撤回効)との関係でのみである。

[3] なお、東京地判49年3月1日は、「過失」について争わない旨の被告の主張について「被告が本件事故の状況につき、詳細且つ周到に事前調査を行つて事実を認識し、その事実につき正しく法的評価をなし得る能力を有し、もとより陳述の内容を正当に理解しており、自衛隊機二機の有過失という結論のみを裁判の基礎となすべき意味において前記陳述をなしたものと認められる本件においては、前記陳述は事実の自白に該当し、裁判上の自白の拘束力を有するものと判断する」とし、審判排除効を認めている。法律関係を十分に理解した上でそれを争わない意思が明らかであれば権利自白として効力を認める有力説に親和的との評価がされている。しかし、通説とまではいえないので、この裁判例を採用することに疑問なしとしない。

[4] 反対説も有力。しかし、そもそも弁論主義第1テーゼにより違反が認められるため、処分権主義の議論をする意義は薄い。試験時間との関係では、弁論主義第2テーゼの次に省略ないし簡略化するとすれば、ここである。

[5] 最判昭和61年7月17日参照。

後発後遺症・拡大損害を一部請求理論によって解決する判例法理からの論述例。この他に、「標準事後の事由」にあたり既判力の時的範囲の問題として処理する見解、期待可能性の観点から既判力を縮小する見解、117条類推適用を認める見解等があるが、他の見解にも論難があるため、判例理論で論述すべきと思われる。