法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題48 「父と子の逃避行」 解答例

解答例

第1 乙の罪責

 1 乙が、Cに対し虚偽の事実を告げてBの引き渡しを求め、Bを甲宅に連れて行った行為に、未成年者誘拐罪(224条)が成立する。

 (1) Bは「未成年」である。

(2) 「誘拐」とは、①欺罔又は誘惑を手段として②人をその生活環境から離脱させ、③自己または第三者の実力支配下に移すこと[1]をいう。

    本件では、乙はCに対し「Bのお祖父さんが危篤なので、すぐに連れて行きたい」などと欺罔を用いている(①充足)。Bは現在別居中の甲宅に連れて行かれようとしており、生活環境から離脱させられようとしている(②充足)。かかる行為によって、Bは甲という第三者の実力支配下に移る(③充足)。

    したがって、「誘拐」にあたる。

 (2) よって、乙の上記行為に未成年者誘拐罪が成立する。後述のとおり、甲丙と共同正犯(60条)となる。

 2 乙が、甲から50万円の謝礼を受け取ることを目的に上記行為を行った点について、営利目的誘拐罪(225条)が成立する。

 (1) 「営利の目的」とは、広く誘拐に対する報酬を得る目的も含まれる[2]と考えるところ、乙が甲から約束された報酬50万円はBの誘拐に対する報酬であるところ、乙には「営利の目的」が認められる。

 (2) よって、乙の上記行為に営利目的誘拐罪が成立する。後述のとおり、甲丙と共同正犯(60条)となる。

 3 以上より、乙の行為に①未成年者誘拐罪②営利目的誘拐罪が成立する。①は②に吸収され、乙はかかる罪責を負う。

第2 丙の罪責

 1 甲乙丙が共謀の上、乙が上記行為を行った点について、丙に未成年者誘拐罪の共同正犯(60条、224条)が成立する。

 (1) 丙は、未成年者誘拐罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 一部実行全部責任の処罰根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。そこで、①各共犯者間の共謀と②共謀に基づく実行行為が認められる場合は、共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   イ 本件では、甲は、乙丙にBを小学校から連れ出してくるように頼まれており、乙丙はこれを承諾している。また、丙は実行行為者乙を車でAの実家の近くまで運転するなど重要な役割をしている上、謝礼50万円のために本件犯行に及んでいるところ、正犯意思も認められる。したがって、甲乙丙には未成年者誘拐罪の共謀が認められるとも思える。しかし、丙はその後「それならお前一人で勝手にやれ、おれには関係ないからな」と言って、乙を車から降ろし、乙の実行行為前に立ち去っている。かかる時点で、共謀関係が解消されたといえるのではないか。

   (ア) 共犯の処罰根拠は正犯者を介して法益侵害を惹起する点にあるところ、共犯者が実行行為以前に因果性を遮断したといえる場合には、実行行為時点の特定の犯罪共同遂行合意たる共謀関係が解消されたといえ、共謀が認められないと考える。そして、実行行為以前においては㋐共謀からの離脱の意思表示と㋑共犯者の承諾が必要であると考える。

   (イ) 本件では、確かに乙は「おれには関係ないからな」などと言って、共謀からの離脱の意思表示をしている(㋐充足)。しかし、これに対して乙はなんの承諾もしていないどころか、むしろ丙に対して強く翻意を促していた(㋑不充足)。以上にかんがみれば、なお丙は前期共謀によって形成された心理的因果性を遮断したとはいえない。

   (ウ) したがって、共謀関係が解消されたとはいえず、丙には甲乙間との共謀が認められる(①充足)。

ウ 乙は、かかる共謀に基づいて未成年者誘拐罪の上記行為に及んでいる(②充足)。

   エ したがって、丙は未成年者誘拐罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) 丙は、未成年者誘拐罪の故意(38条1項)を有する。

 (3) よって、丙に未成年者誘拐罪の共同正犯が成立する。

 2 甲乙丙が共謀の上、乙が上記行為を行った点について、丙に営利目的誘拐罪の共同正犯(60条、224条)が成立する。

 (1) まず、丙は営利目的誘拐罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 甲乙丙には、前述のとおり共謀が認められる(①充足)。そして、かかる共謀に基づいて乙は上記実行行為にでているが、かかる実行行為は第1、2のとおり、営利目的誘拐罪の実行行為にもあたる(②充足)。

   イ したがって、丙は営利目的誘拐罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) 丙は営利目的誘拐罪の故意(38条1項)を有する。また、丙も甲から謝礼として50万円を受け取る約束をしており、「営利の目的」を有する。

 (3) よって、丙に、営利目的誘拐罪の共同正犯が成立する。

 3 以上より、丙に①未成年者誘拐罪の共同正犯②営利目的誘拐罪の共同正犯が成立し、①は②に吸収され、丙はかかる罪責を負う。

第3 甲の罪責

 1 甲乙丙が共謀の上、乙が上記行為を行った点について、未成年者誘拐罪の共同正犯(60条、225条)が成立する。

 (1) 甲乙丙に意思連絡が認められることは、前述のとおりである。また、甲は本件犯行を指示する背後者にすぎないが、「B小学校からBを連れ出して来てくれ。親戚の一大事だとか言えば出してくれるだろう。」などと具体的は犯行内容を指示しており、乙丙と一体性を認めるに足りる関与を認めることができる[3]。また、甲は犯罪の首謀者であり、本件犯行は、甲がBを養育したいという動機からなされたものである以上、重要な役割及び正犯意思も認められる。したがって、甲にも乙丙との共謀が認められる(①充足)。

 (2) 乙は、かかる共謀に基づいて未成年者誘拐罪の実行行為を行っている(①充足)。

 (3) 乙は、未成年者誘拐罪の故意(38条1項)を有する。

 (4)  なお、甲はBの父でありBに対する監護権を有するが、AもBの監護権を有し、乙の上記行為によってAの監護権が侵害される以上、違法性は阻却されない[4]

 (5) よって、乙に未成年者誘拐罪の共同正犯が成立する。

 2 甲乙丙が共謀の上、乙が上記行為を行った点について、甲に営利目的誘拐罪の共同正犯(60条、224条)が成立する。

 (1) 甲乙丙には共謀があり、かかる共謀に基づいて、乙は営利目的誘拐罪の実行行為を行っているため、営利目的誘拐罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) 甲は、乙丙に謝礼を渡す旨告げているところ、乙において営利目的誘拐罪が成立することを認識・認容しているといえ、営利目的誘拐罪の故意(38条1項)を有する。

 (3) 甲自身には、「営利の目的」がないが、65条1項により、身分犯が成立する。

   ア 同条の「共犯」には共同正犯も含まれ、文言通り、65条1項は真正身分犯を、65条2項は不真正身分犯を定めたものと考える。身分とは、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態[5]をいうところ、目的もかかる身分に含まれると考える。したがって、拐取罪における「営利の目的」が身分にあたらないという判例[6]は変更された。

   イ 本件では、実行行為者乙及び共犯者丙が「営利の目的」を有しており、身分を有する。225条は、同条に列挙された目的を有さないと何らの犯罪も成立しない真正身分であるところ、65条1項が適用される。

   ウ したがって、甲にも営利目的誘拐罪の共同正犯が成立する。

 3 以上より、甲に①未成年者誘拐罪の共同正犯②営利目的誘拐罪の共同正犯が成立し、①は②に吸収され、甲はかかる罪責を負う。

第4 丁の罪責

 1 丁が、甲にBを匿うために別荘を利用させた行為について、被略取者蔵匿罪(227条1項)が成立する。

 (1) 甲は「224条」及び「225条」の「罪を犯した者」にあたる。

 (2) 「蔵匿」とは、被略取者の発見を妨げるような場所を与えること[7]をいうところ、丁の上記行為は、沖縄という、田園調布にあるAの実家から無関係のかなり遠い場所にある丁の別荘を利用させるものであり、被略取者の発見を妨げるものである。したがって、丁の上記行為は「蔵匿」にあたる。

 (3) 丁は唯一の場後であるBが将来甲家の跡取りになることを強く望んでいたために上記行為に及んでいるところ、甲を「幇助する目的」を有する。

 (4) よって、丁の上記行為に被略取蔵匿罪が成立する。

 2 丁には、未成年者誘拐罪の共同正犯は成立しない。

 (1) 丁に未成年者誘拐罪が成立するためには、丁の関与行為時点で「誘拐」行為が継続している必要がある。しかし、継続版にあたるためには、構成要件該当行為が継続している必要があるものの、「誘拐」行為は構成要件該当行為が継続するものではない。

    したがって、丁の関与行為時点で未成年者誘拐罪は終了している。

 (2) よって、丁の上記行為に未成年者誘拐罪の共同正犯は成立しない。

 3 同様に、丁には営利目的誘拐罪の共同正犯も成立しない。

 4 以上より、丁の行為に被略取者蔵匿罪が成立し、かかる罪責を負う。

以上

 

[1] 同書解説246頁、山口青本・235頁参照。「誘拐」が欺罔又は誘惑を手段とするのに対し、「拐取」は暴行または脅迫を手段とする。

[2] 最判昭和37年11月21日参照。

[3] 犯行を指示するにすぎない背後者の場合、意思の共同性に欠け意思連絡が認められないのではないか、という点で教唆犯との区別が問題となる。この点については①実行分担者との一体性を認めるに足りる関与があること(具体的な犯行計画の指示・説明、凶器の準備・提供など)、又は②実行分担者が背後者に心理的に拘束されるような関係があること(このような場合には関与者の積極的な関与があったといえる)が必要である。橋爪連載(総論)・第11回102頁参照。

[4] 同書解説247頁参照。

[5] 最判昭和27年9月19日参照。

[6] 大判大正14年1月28日参照。

[7] 山口青本・242頁参照。