法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題8 「トランク監禁の悲劇」 解答例

解答例

第1 甲がAの顔面を手拳で数回殴打した行為について

 1 第1の行為について、甲に暴行罪が成立する。

 2 乙は甲と第1の行為について意思連絡をしていないところ、共謀が認められず、暴行罪の共同正犯(208条、60条)は成立しない。また、乙には甲またはAと何らかの人的関係があるわけではないし、先行行為や危険の引き受けも認められず、何らの作為義務も認められない。したがって、乙には暴行罪の幇助犯(208条、62条1項)も成立しない。

第2 甲乙が共同して、Aを乙の自動車(以下「乙車両」という。)トランクに押し込んだ行為について

 1 甲乙に監禁致死罪の共同正犯(60条、221条)が成立する。

 (1) 甲乙は、監禁罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

ア 実行共同正犯が認められるためには①各共犯者が共謀をし「共同」して②「犯罪を実行」することが必要である。

イ 乙は上記行為時点では、甲に協力しようという気持ちになって一緒にAを追跡しているところ、甲乙間に意思連絡が認められる。また、後述のとおり、甲乙は共同して監禁罪の実行行為を行っているところ、それぞれ重要な役割を果たしている。また、甲はAに現金15万円を貸し、それを取り返そうという動機から上記行為にでているところ自己の犯罪として行う正犯意思が認めらえる。また、乙は甲に協力しようと積極的に関与しているため、乙にも正犯意思が認められる。以上から、甲乙間に現場共謀が認められる(①充足)。

   ウ 甲乙は、Aをトランクに監禁し、一定の場所からの脱出を困難にして、移動の自由を奪い[1]「監禁」している。

 (2) 人の死とは、呼吸停止、心停止、瞳孔散大の三徴候を持って決すると考えるところ、Aは3月12日午後5時40分ごろに心臓停止しており、死亡している。

 (3) 甲乙の上記第2行為とAの死との間には、丙の過失行為とAの人工呼吸器の取り外しという介在事情が認められるものの、なお因果関係が認められる。

   ア 法的因果関係とは、当該行為に結果発生を帰責できるかという問題であるところ、当該行為の危険性が結果へと現実化した場合には、因果関係が認められると考える。

   イ 本件では、Aに死因となった脳損傷が生じたのは、乙の自動車の後部に丙の自動車が時速60キロメートルで衝突したことによるところ、第2行為そのものによってAに死因となった脳損傷が生じたわけではない。しかし、乙車両と丙車両が衝突したのは、乙車両を片道1車線の車道に停止していたからであり、衝突行為は甲乙が誘発したといえる。確かに、丙の過失行為は重大な過失であり介在事情として異常性を有するため、因果関係が否定されるとも思える。しかし、車のトランクというのは人が中に入ることを想定しておらず、人を防護する機能を有していない。したがって、軽微な衝突事故でもAが死亡する可能性が高かったといえる。このように軽微な事故でも重大な事故でも被害者が死亡する危険性がある以上、衝突事故というかたちで抽象化されると考える。したがって、Aの脳損傷という死因となった傷害は甲乙の上記行為の危険性が結果へと間接的に現実化したといえる[2]

   ウ 次に、Aの心臓停止は、Fらの承諾に基づいてG医師が人工呼吸器を取り外したことによるものであるところ、第三者の故意行為は甲乙の第2の行為によって間接的に現実化したとはいえない。しかし、甲乙の第2の行為によって現実化した脳損傷が死因であり、死因の同一性が認められる上、既にAは脳死状態に陥っており実質的に死亡していると評価でき、また、いつ刑法上の死の結果が発生してもおかしくない状況であった。以上にかんがみれば、G医師の介在事情は、Aの死期を幾分早めたにすぎず、G医師の介在事情がなかったとしても、同一の結果が発生したといえる。したがって、Aの死亡は、甲乙の第2の行為によって生じた脳損傷による死の危険性が結果へと直接現実化したといえる[3]

   エ よって、甲乙の第2の行為とAの死との間に因果関係が認められる。

 (4) 甲乙の第2の行為に監禁致死罪の共同正犯が成立する。

 2 第2の行為の時点で甲乙はAを脅して15万円の返済を求めるという意思を有していなかったため、恐喝未遂罪の共同正犯(60条、250条、249条1項)は成立しない[4]

第3 丙が乙の自動車に衝突した行為について

 1 丙が第3の行為によってAを死亡させた点について、過失運転致死罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)は成立せず、何らの犯罪も成立しない。

 2 「自動車の運転上必要な注意を怠」った、すなわち、過失とは法益侵害の危険に対する予見可能性を前提とした結果回避義務違反を意味する[5]

   本件では、丙は前方不注意の状態で自動車を運転していた。自動車の走行中には前方の他の車両運転者や歩行者に死傷の結果が生じうることが予見可能である以上、それを回避するため、前方中止義務が課される。それにもかかわらず、丙はかかる義務に違反している。

   したがって、丙の上記行為は「自動車の運転上必要な注意を怠」ったといえる。

 3 もっとも、丙の上記行為とAの死傷結果との間に因果関係が認められない。

 (1) 法的因果関係とは、当該行為に結果発生を帰責できるかという問題であるところ、義務違反行為の危険性が結果へと現実化した場合に因果関係が認められると考える。そして、その危険性判断においては予見可能な因果経過に限られると考える。

 (2) 本件では、Aはトランクに監禁されていたために上記死傷結果が発生している。しかし、トランクは本来人が中に入ることを想定していないため、トランクの中にAがいたことについて一般人及び行為者丙において予見不可能であったといわざるを得ない。そうだとすれば、そもそも本件結果発生は予見不可能な因果経過であった以上、第3の行為の危険性が結果へと現実化したものとはいえない。

 (3) したがって、第3の行為とAの死傷結果との間に因果関係は認められない。なお、およそ予見不可能な被害者に対して過失犯を認めた平成元年決定[6]は、したがって不当である。

 4 よって、丙に何らの犯罪も成立しない。

以上

 

[1] 山口青本・233頁参照。

[2] いわゆる間接実現類型の亜型。トランク監禁事件判決(最決平成18年3月27日)参照。橋爪連載(総論)・第2回91頁参照。

[3] いわゆる直接実現類型。大阪南港事件判決(最決平成2年11月20日)参照。もっとも、ここは非常に苦しい議論である。脳死状態にあったとしても死亡結果がすぐに生じるわけではないからである。むしろ因果関係を肯定するのであれば間接実現類型で論じた方がまだ説得的であると思われる(もっとも、間接実現類型で考えたとしても、故意行為が介在している以上介在事情の異常性が高く、因果関係が認められないのではないだろうか。)。翻って考えてみると、このような場合に因果関係を肯定すると、被害者の遺族の意思によって行為者に致死罪まで帰責できるかどうかが左右されることになり、妥当でない。私見としては、端的に人の死期を脳死時点と解釈することを正面から認めた方がよいと考える。本解答例は同書解説に従って、直接実現類型から論じている。橋爪連載(総論)・第2回93頁参照。

[4] 同書解説ではクロロホルム事件(最決平成16年3月22日)の3要件から、未遂犯が成立するとしているが、本件では実行着手時点において恐喝ないし強盗の故意がない以上、客観的構成要件がクロロホルム事件から充足したとしても、主観的構成要件を充足せず、未遂罪は成立しないと思われる。この点で、同解説部分について疑問なしとしない。

[5] 新過失論からの立論。

[6] 最決平成元年3月14日参照。なお、前掲平成18年決定も参照。橋爪連載(総論)・第7回122頁参照。