法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題39 「渡る世間は金ばかり」 解答例

解答例

第1 乙の罪責

 1 乙が、B信用金庫C支店職員をして、C支店の幸楽株式会社代表取締役甲名義の預金口座に1000万円を入金する処理を行わせた行為に背任罪(248条)が成立せず、何らの犯罪も成立しない。

 (1) 乙は、C支店の支店長であり、支店長は5000万円を限度として、自己の判断で融資を決定する権限を有していたのであるから、雇用による信任関係に基づいて「他人のために」他人「の事務を処理する」者にあたる。

 (2) 乙は、無担保で1000万円の入金処理を行わせているところ、通常多額の融資をする場合には担保を設定することが求められるであろうから、乙の行為は誠実な事務処理者としてなすべきものと法的に期待されるところに反する行為[1]として「任務に背く行為」(任務違背行為)にあたる。

 (3) 背任罪の全体財産に対する罪であるため財産的損害が要求されるところ、無担保で多額の融資をした場合、貸金債権を有していたとしてもその回収が困難となるため、財産上の損害が認められる[2]。また、かかる時点で認められなくとも、少なくとも幸楽の経営が逼迫している平成25年2月14日の時点で財産的損害が認められ、既遂に達する。

 (4) 乙には故意(38条1項)が認められる。

 (5) もっとも、乙が上記融資を実行した主たる動機はB信用金庫の信用等を守ろうとする意図であるため、本人の利益を図る目的が認められるところ、「自己若しくは……加える目的」(図利加害目的)が認められない。

 (6) よって、乙の上記行為に背任罪が成立する。

 2 乙がB信用金庫C支店職員をして、C支店の幸楽株式会社代表取締役甲名義の預金口座に5000万円を入金する処理を行わせた行為に背任罪(248条)が成立する。

 (1) 乙は前述のとおりB信用金庫C支店の事務処理者である。

 (2) 乙は、5000万円の融資に際して、3000万円の価値しかない土地Dのみに抵当権を設定して融資を実行しており、任務違背行為にあたる。

 (3) また、前述と同様に、経営が逼迫している甲に担保割れの状態で5000万円を貸し付けることは債権回収が不能又は困難となるため財産的損害が認められる。

 (4) 乙には故意(38条1項)が認められる。また、本件行為時の主たる動機は自己の責任が問われることを懸念した点にあるところ、本人図利目的が認められ、図利加害目的にあたる。

 (5) よって、乙の上記行為に背任罪が成立する。

 3 以上より、乙の一連の行為には背任罪が成立し、乙はかかる罪責を負う。

第2 甲の罪責

 1 甲が、乙に対し、「俺をなめちゃいけねえぞ、ガキの使いじゃないんだ」「1000万ほど貸してくれ、担保なんか後だ」などと脅し、よって乙に1000万円の融資を実行させた行為に2項恐喝罪(249条2項)が成立する。

 (1) 「恐喝」とは、財産上の利益の移転に向けられた暴行又は脅迫により被害者を畏怖させること[3]いう。本件では、甲の上記行為は融資を実行させ、利益を得るためになされた相手を畏怖させるに足りる害悪の告知であり、脅迫行為にあたる。したがって、「恐喝」にあたる。

 (2) 乙は上記行為によって畏怖し、B信用金庫C支店の甲名義の口座に1000万円の融資をしており、甲は預金債権という「財産上不法の利益」を得ている[4]

 (3) よって、甲の上記行為に恐喝罪が成立する。

 2 甲が、乙と共謀の上、第1の2の行為を行った点について、背任罪の共同正犯(60条、247条)が成立する。

 (1) 甲は共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 共同正犯の処罰根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。そこで、①共謀②共謀に基づく実行行為 が認められる場合には共同正犯の客観的構成要件を充足する。なお、背任罪については、自己の経済的利益の追求が妨げられることを防止するため②要件について、㋐事務処理者と経済的利益が共通であることや㋑事務処理者に対する働きかけが著しく不相当な場合に限って因果性が認められるという見解が存在する。しかし、事務処理者の行為が任務違背行為であるにもかかわらず、不正融資の申込みが自己の経済的利益の追求の枠内にあることはあり得ない。そうだとすれば、上記限定要件はそもそもかかる場合にしか不正融資が実行されないという事実を示すものにすぎず、かかる限定は不要であると考える。判例[5]もこの点について何らかの限定を施す趣旨ではないと読むべきである。

   イ 本件では、甲は乙に対して追加融資を求めている。これに対して乙は甲の申出に応じているのであるから、意思連絡が認められる。また、甲は乙の背任罪による融資の実行先であり利益が帰属するのであるから、正犯意思が認められる。さらに、甲は不正融資を申し込み、融資契約を締結した者であるため、重要な役割も認められる。以上にかんがみれば、甲乙間には背任罪の共同遂行合意たる共謀が認められる(①充足)。乙はかかる共謀に基づき第1の2の行為に出ている(②充足)。

   ウ したがって、甲は共同正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) 甲は、本家入試が明らかに不自然なものであり、通常では融資を受けられない状況にあること及び乙の本人図利目的について十分に認識していたにもかかわらず、あえて共謀に及んでいるところ、背任罪に対する認識認容があり、故意(38条1項)が認められる。

 (3) 甲は事務処理者という身分を有していないところ、65条1項により背任罪が成立する。

   ア 文言通り、65条1項は構成的身分犯の成立と科刑、64条2項は加減的身分犯の成立と科刑を定めたものであると考える。

   イ 本件について、背任罪の事務処理者という身分は、それがなければ何らの犯罪も成立しないため構成的身分犯にあたり、65条1項が適用される。

   ウ したがって、甲には背任罪の共同正犯が成立する。

 3 甲が土地DをE社に売却して登記を具備させた行為に、乙に対する背任罪(248条)が成立する。

 (1) 甲は、乙のために土地Dについて抵当権を設定している。担保権はその交換価値を把握するものであるところ、担保権設定者は担保権者のために、担保権者の担保価値保全事務に代わる担保価値維持義務を負う。したがって、甲は乙のために事務を処理する者であり、「他人のためにその事務を処理する者」にあたる[6]

 (2) 甲の上記行為は、担保権を消滅させる行為であるため、任務違背行為である。また、責任財産が消滅しているため、財産的損害も認められる。

 (3) 甲には故意が認められ、かつ、幸楽の経営が逼迫していたため、資金調達をしているところ、本人図利目的が認められる。

 (4) よって、甲の上記行為に背任罪が成立する。

 4 甲の上記行為に、詐欺罪(246条1項)は成立しない。

 (1) 「人を欺」く行為とは、財物の主観性故に広がる処罰範囲限定の必要性から、①財産交付の判断の基礎となる重要な事項を②偽る行為[7]をいう。本件では、甲は土地Dに抵当権が設定されていることをFに秘して売却行為に及んでいる。もし仮に抵当権が設定されていることを知っていればFは売買契約を締結しなかったであろうから、甲の上記行為は挙動による欺罔行為にあたる(②充足)。もっとも、二重譲渡は自由競争原理の観点から登記の先後で対抗関係を決するところ、抵当権設定登記の付されていない土地を売却する行為も許される結果、財産交付の判断にとって重要な事項とはいえない。また、本件では、第1譲受人と第2譲受人との間に何らかの取引関係があり、紛争に発展することによる財産的損害が生じるというような事情もない。したがって、重要事項性は認められない[8](①不充足)。

(2) よって、甲の上記行為に詐欺罪は成立しない。

5 以上より、甲の一連の行為に①恐喝罪②背任罪の共同正犯③背任罪が成立し、それぞれ併合罪(45条)となる。

以上

 

[1] 山口青本・345頁参照。

[2] 最判昭和37年2月13日参照。

[3] 山口青本・324頁参照。

[4] なお、振り込め詐欺については1項詐欺罪が成立するというのが実務の運用である。これとパラレルに考えるのであれば、1項恐喝罪が成立するという見解の方が整合的であるかもしれない。もっとも、振り込め詐欺を1項詐欺罪と構成するのが特殊であることからすれば、2項恐喝罪にしておく方が穏当だとも思われる。振り込め詐欺については橋爪連載(各論)・第12回108頁参照。

[5] 最判平成15年2月18日、最判平成20年5月19日参照。

[6] 最判昭和31年12月7日参照。なお、かかる判例は非常に疑問が多い。登記をしなかった懈怠責任は自由競争原理からすれば担保権者が負担するものであるのに関わらず、担保権設定者に背任罪が成立するというのは妥当でないからである。実は、昭和31年判決では、被告人が担保権者の抵当権設定登記の具備を妨げ、「登記をしないで欲しい」などと依頼していたという事情がある。本事例で背任罪が成立したのは、このような事情が背後にあったからではないかと推測される。

[7] 最決平成22年7月29日参照。

[8] 橋爪連載(各論)・第10回86頁参照。この論点については、『刑法事例演習教材[第2版]』問題27も参照。本件と事案が異なるため、詐欺罪の成否が分けられる。