法律解釈の手筋

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【Aさん】東大ロー入試 平成31年度 公法系 再現答案【71.5点】

※こちらは、平成31年度の東大ロー入試を受験した私の後輩の再現答案です。今後東大ローを受験される方の参考になれば幸いです。そして、再現答案を寄稿してくれた後輩には感謝しております。この場をお借りしてお礼申し上げます。以下の文章は後輩からいただいた文章を、手を加えず体裁のみを整えて記載しております。

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1.再現答案

(71.5点)

第一 問1

1 本件旅券返還命令を発することは、Aの海外旅行の自由を侵害し、憲法(以下略)22条1項に反し違憲とならないか。

(1) 同条における「移転」には、国外に移転する自由も含まれると解されることから、海外旅行の自由は22条1項より保障されている。そのため、AがC国及びB国に渡航する自由も同条により保障されているといえる。

(2) そして、本件旅券返還命令によって、Aは旅券を有することができず出国審査を経て適法に出国することができなくなる(出入国管理及び難民認定法60条参照)から、Aの海外旅行の自由は制約されている。

(3) Aとしては、海外渡航の自由はジャーナリストとして取材するために必要不可欠な自由であり自己実現の価値を有するだけでなく、憲法21条の精神に照らして十分に尊重される取材の自由と密接な自由であり重要な権利であること、および本件旅券返還命令はAの上記自由に対する強度な処分であることを理由に、旅券法(以下「法」)19条1項4号における「名義人の生命・・の保護のために渡航を中止させる必要」の判断は厳格にすべきと主張することが考えられる。

2 では、Aに対する本件旅券返還命令は正当化されないか。

(1) この点、国会議員の旅券返納処分について問題となった帆足計事件の最高裁判決によれば、海外渡航の自由は公共の福祉による合理的な制限に服するものであって、旅券の返納については、外交に関する事項であり高度の政治性を有する事項であり、外務大臣に旅券返納処分について広範な裁量権が認められるから、かかる裁量権の行使が著しく合理性を欠く場合は違憲となる判断している。

(2) 本件においても同様に、法19条の「旅券を返納させる必要があると認めるとき」や「返納を命ずることができる」などの文言やその必要性の判断には専門的知見を要するその処分の性質から、旅券返納命令について外務大臣の裁量を認めているといえるため、法19条1項4号該当事由の有無については外務大臣の判断を尊重するべきである。そこで、本件旅券返納命令をすることが、外務大臣の裁量権の行使として著しく合理性を欠く場合は、Aの海外渡航の自由への合理的な制限といえず、違憲となると解する。

(3) 本件をみると、Aの渡航予定であるB国は内戦状態にあり外務省は退避勧告を発出しており、入国する者の生命・身体等に危険を生じさせる可能性が高い国であった。また、事前の電話でもAは身の安全は十分配慮するとは述べているが、何ら具体的対策について述べていなかった。そのためB国への渡航はAの身体・生命に危険を生じさせる可能性が極めて高かったといえる。

さらに事前の電話によりAのB・C国への渡航を思いとどまるよう説得を試みたが、Aは取材のための渡航をする意思は変わらなかったため、旅券を有していればB国へ渡航することが予想されていた。そのため、Aの生命・身体の保護のために旅券を返納させる必要性が高かった。

また、事前の電話・聴聞手続を経たうえで、旅券の返納命令を行っており、外務大臣は段階的審査を経て本件旅券返納命令を行っており、本件旅券返納命令は相当性が認められる処分といえる。

上記事実を鑑みれば、外務大臣がAのB国への渡航は、Aの生命または身体を保護するため、19条1項4号をAに適用し本件旅券返納命令を行うことは、裁量権の行使として著しく合理性を欠くとはいえない。

3 したがって、本件旅券返納命令を行うことは合憲である。

第二 問2

1 本件旅券返納命令における違法事由として、理由付記の違法が認められないか(行政手続法(以下「行手法」)8条1項)。理由付記の程度が問題となる。

2 判例によれば、理由呈示の趣旨は、行政庁の恣意的判断を抑制し、国民の不服申し立ての便宜を図ることにある。そして、かかる趣旨を全うするため、理由付記の程度として、いかなる事実につきいかなる法律が適用されているのかについて、その記載自体から了知し得るものであることが必要であるとしている。

3 本件をみると、外務大臣は本件旅券返納命令の通知として理由を付した書面を送っている(法19条4項)ところ、理由として「旅券法19条1項4号該当のため。」とのみ記載されているのみであった。かかる記載からは、いかなる事実が同法19条1項4号に該当するか明らかではなく、その記載自体から了知し得えない。

4 したがって、理由付記の違法があり、本件旅券返納命令は取り消されるべきだというAの主張が認められる。

第三 問3

1 Aによる執行停止の申立て(行政事件訴訟法(以下「行訴法」)25条)は認められるか。

(1) まず本件訴えという「処分の取消しの訴えの提起」がなされており、本案訴訟が係属している。

(2) 次に、「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」か否かは、行訴法25条3項の各事情を考慮して、国民の受ける損害と追及する公益との比較考量によって判断する。

確かに、本件旅券命令処分には国民のAの生命等の保護という目的がある。もっとも、かかる処分により、AはB国だけでなく他の諸外国に行くことが不可能となり、Aの海外渡航の自由に大きな制約が加わる。また、フリージャーナリストとしての取材の機会が制限され、取材を通した自己実現も十分に図ることができなくなる。さらに、半年以上前より計画していた渡航計画が頓挫するため、現地ガイド等の準備が無駄となることから、Aに経済的な損失が発生する。そしてかかる計画は約2週間後に始動する予定であり、執行停止をする緊急の必要性があったといえる。

よって、「重大な損害・・・必要がある」といえる。

2 しかし、本件旅券返納命令の執行停止によって、AがB国へ渡航すればAの生命・身体に対する危険が生じる。Aに危険が生じた場合単なる個人的な問題にとどまらず、外交や政治問題に発展する可能性があるため、「公共の福祉への重大な影響を及ぼすおそれ」があるといえる。

3 したがって、Aの執行停止は認められない。

以上

 

2.受験雑感

問1

海外渡航の自由は正直ノーマークでありストックも不十分だったため、かなり面食らった(22条1項説か22条2項説かで迷い、間違って1項説で書いてしまったレベル)。権利の性質について全然触れることができずヤバイと感じていた。

そして、何より帆足計事件の正確な判断枠組みを覚えておらず、結論しか知らなかったため、高度の政治性とか裁量権とか完全な誤りを含む判例紹介をしてしまい、撃沈したと休み時間に落ち込んだ。

 また、適用違憲を論じることはあまり慣れてなく書きづらかった。そのため、事実をたくさん拾って評価することを丁寧にやろうということだけ考えていた。

 個人的にかなり悩んだのが、どこまで表現の自由や取材の自由に絡めて論じるのかの線引きであった。設題の主張が海外渡航の自由をメインとするものであったために、すごく困った記憶がある。

問2

理由付記はばっちり論証を書けた。しかし、問題文からAが処分理由を知っていた可能性があったために、例外的に適法とするかでかなり悩んだ。結果的に通知内容しか触れなかったが、結論はどうであれ事案の特殊性に気づいてますよアピールすればよかったかなと試験後思った。

問3

執行停止もノーマーク。とりあえずあてはめ命って感じだった。かなり時間がきつかったが最後まで書ききれる程度で、あてはめしまくった。

 

全体の分量として裏面3分の2くらいまで書いた。

判例内容間違えるなどの大きなミスがあったが70点代で最も点数の高い科目であったのが意外ではあった。