法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

【Aさん】東大ロー入試 平成31年度 刑事系 再現答案 【66点】

※こちらは、平成31年度の東大ロー入試を受験した私の後輩の再現答案です。今後東大ローを受験される方の参考になれば幸いです。そして、再現答案を寄稿してくれた後輩には感謝しております。この場をお借りしてお礼申し上げます。以下の文章は後輩からいただいた文章を、手を加えず体裁のみを整えて記載しております。

www.law-ss.site

1.再現答案

(66点)

第一 設問1 Yの罪責について

1 YがAのバイクを盗み、これをXに引き渡した行為につき窃盗罪(刑法(以下略)235条)が成立しないか。

(1) YがXに引き渡したAのバイクは「他人の財物」にあたる。

(2) 「窃取」とは、他人の占有下にある占有物を、他人の意思に反して、自己又は第三者の占有下に移転させることをいうところ、YはA宅の隣接地にあるA所有のバイクをAの意思に反して、第三者たるXに引き渡し占有を移転させているため、「窃取」したといえる。

(3) そして、明文上規定はないが毀棄罪との区別のため、「不法領得の意思」が必要であり、その内容は①権利者の占有を排除する意思及び②経済的用法に従い目的物を利用処分する意思である。

YはAのバイクをXに引き渡す意思があったため、バイクに対するAの占有を排除する意思があったといえる(①充足)。また、盗んだバイクをXは売却するとYは考えており、売却行為は経済的用法に従った処分行為のひとつであるから、Yに経済的用法に従った利用処分意思が認められる(②充足)。

よって、Yに不法領得の意思が認められる。

(4) したがって、上記行為につき窃盗罪が成立する。そして、後述の通りXと共同正犯(60条)となる。

第二 設問1 Xの罪責について

1 まず、XがYを利用してAのバイクの窃盗行為をさせたことから、Xに窃盗罪の間接正犯が成立しないか。

(1) この点、間接正犯は明文上規定されていないが、他人の行為を利用して法益侵害の危険性のおそれを発生させることは可能であるから、間接正犯は認められる。そこで、①利用者の非利用者の行為支配性があり、②利用者に正犯意思が認められる場合は間接正犯が成立すると解する。

(2) 本件をみると、暴走族「甲」にはリーダーの命令に絶対服従する旨の取り決めがあり、命令に背けば他のメンバーから暴行等の制裁をうける恐れがあった。このような背景から、「甲」のリーダーたるXとはそのメンバーであるYの行為を支配できる関係にあり、YはXの本件バイクの窃盗の指示を了承せざるを得なかったため、XにYの行為支配性が認められるとも思える。

しかし、Aのバイクの所在場所はYが把握していたことや、Aのバイクの前輪につけてあったチェーンロックを破壊し手際よくバイクを盗んだことなどから、Yの自主的な判断に基づき本件窃盗が行われていたといえる。

よって、利用者XにYの行為支配性があったとはいえない(①不充足)。

(3) したがって、Xに窃盗罪の間接正犯は成立しない。

2 もっとも、Xは共謀共同正犯として、Aのバイクに対する窃盗罪の責任を負わないか、共謀共同正犯の成否と関連し問題となる。

(1) この点、実行行為を行っていない者であっても、相互利用補充関係に基づき犯行を行ったと評価することは可能であるため、共謀共同正犯は認められるべきである。

そこで、①共謀があり、②一部の者による実行行為、③正犯意思が認められる場合、共謀共同正犯が成立すると解する。

(2)ア 本件をみると、平成29年11月17日にXはYに対して「Aのバイクを盗んでこい」指示し、Yがこれに了承している以上、窃盗に関する意思連絡があり共謀があるといえる(①充足)。

イ また、Yはかかる共謀に基づき前述の行為に及んでいる(②充足)。

ウ そして正犯意思につき、XはAのバイクの毀棄を目的としてYに犯行の指示をしているため正犯意思が認められないとも思える。しかし、XがAのバイクを売却するつもりであるとYが考えていたことについてXは知っており、あえてこれを訂正しなかった以上、Aのバイクについて窃盗を行うという正犯意思が認められるといえる(③充足)。

(3) したがって、XはYとの窃盗罪の共謀共同正犯として罪責を負う。

第三 設問2

1 裁判所はWの供述録取書(以下「本件書面」)を証拠として採用できるか。本件書面が伝聞証拠として伝聞法則(刑事訴訟法(以下「刑訴法」)320条1項)により証拠能力が認められないのではないか、伝聞証拠の意義と関連して問題となる。

(1) 伝聞法則の趣旨は、供述証拠が知覚・記憶・叙述の過程で誤りが入る恐れがあるため、これを反対尋問等でチェックすることにある。

そこで、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠で、その内容の真実性が問題となる証拠のことをいうと解する。そして、内容の真実性が問題となるか否かは要証事実との関係で相関的に判断する。

(2) 本件をみると、検察官の立証趣旨は「XY間に共謀があったことである」から、本件書面における要証事実はXY間に窃盗に関する共謀があったことであるといえる。とすれば、XがYにAのバイクの窃盗を指示しYがこれを了承したか否かについて、Wの公判廷外供述の内容の真実性が問題となるといえる。

よって、本件書面は伝聞証拠に当たるといえる。

2 本件書面が伝聞証拠であるから、伝聞例外として証拠能力が認められるか以下検討する。

(1) まず、本件書面は検面調書であるから、321条1項2号に該当し証拠能力が認められないか。

ア 本件書面は「被告人以外の者」であるWの「供述を録取した書面」であるから、Wの「署名若しくは押印」が必要である(321条1項柱書)ところ、本問題文から署名・押印をWがしたか否かは不明である。

イ 本件書面の供述は「前の供述」である。そして、「実質的に異なった供述」とは他の証拠と相まって異なる事実認定を導くような供述をいうところ、証人尋問におけるWの供述はXYの共謀を詳細に述べておらず、共謀を肯定する本件書面の供述と「実質的に異なった供述」といえる。

ウ そして、同号の要件として相対的特信情況が必要であるところ、Wの証人尋問における供述より本件書面の供述を信用すべき特信情況が存在するかは不明である。

エ よって、Wの署名・押印があり、相対的特信情況があれば伝聞例外として本件書面の証拠能力が認められる。

(2) また、弾劾証拠としてこれを用いることができないか(328条)。

ア 同条は別の機会における自己矛盾供述により公判期日の供述の信用性を弾劾することを許したものであり、証拠能力のない証拠を安易に採用すると伝聞法則を没却してしまうため、「証拠」とは自己矛盾供述のことをいう。本件書面の供述はWの公判廷供述と矛盾する内容である。

イ よって、本件書面に署名・押印がある限り、328条により証拠として採用することができる。

以上

 

2.受験雑感

設問1

 短めの問題文であったが、結論を窃盗教唆にすべきか結構迷った。特に問題文中のXの主観面に関する事情をどう評価するかがわからず、厳しい時間的制約の中メチャメチャ焦った。刑訴も控えていたから、とりあえず共謀共同正犯を成立させた

設問2

 伝聞は自信がなく、不安だった。321条1項2号の話を書かせるような問題文だったので、伝聞にあたる→例外検討という流れにした。 「ふつう問題文に署名押印はしていた旨を書くはず」と思い、場合分けのような感じで書きはしたが、こういう書き方をしていいか結構不安だった。

 弾劾証拠は5分で書いたから、くそテキトーに書いた記憶がある。また、解答用紙の最後の行ギリギリだったのでこれが限界だった。正直不要かとも思ったが、設問の問い方的に触れるべきかと思い、書いた。

 「署名押印」の条文引用を(321条1項柱書)とせず、(321条1項2号)と間違って書いていたなどしょうもないミスに嘆いていた。

 

結果は66点であった。一般的に刑事系の出来が合否に直結するという話があり、できれば8割、最低7割くらいの予定の受験生も多いはず。そのため、66点は悪い点数だと思う。しかし、平均点がわからないため、案外中間くらいの成績であった可能性もあるかも。