法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題25 「報復と仲間割れ」 解答例

解答例

第1 ②の傷害について[1]

 1 甲乙Aが共同して、Dの顔面、頭部等を足蹴にし、その頭部を手拳で殴るなどの暴行を加え、よって上顎左右中切歯亜脱臼を負わせた行為について、傷害罪の共同正犯(60条、204条)が成立する。

 (1) A甲乙は上記行為を共同実行しているところ、共同実行正犯の客観的構成要件に該当する。

   ア 一部実行全部責任の根拠は、各行為者が作業分担を通じて、犯罪実現のために本質的な役割ないし重要な寄与を果たした点にある。そこで、共同正犯が成立するには、①共謀②共謀に基づく実行行為が必要であると考える。

   イ 共謀

     本件では、AはDに暴力を振るって制裁を加えたい上、同人に慰謝料を支払わせるべきだとの提案をしており、甲はこれに了承している。また、その後ワゴン車においてもAから同様の説明を受けた乙はこれに了承しているところ、意思の連絡が認められる。また、甲乙Aはそれぞれ上記実行行為を分担しており、重要な役割を果たしており、かつ正犯意思が認められる。以上にかんがみれば、甲乙A間にはDに対する傷害罪及び恐喝罪の共同遂行合意たる共謀が認められる(①充足)。

  ウ 甲乙Aは上記共謀に基づいて第1暴行を行っている(②充足)。

 エ したがって、甲乙Aは、共同実行正犯の客観的構成要件を充足する。

 (2) よって、甲乙Aに②の傷害について、傷害罪の共同正犯が認められる。

第2 ①の傷害について

 1 AがDに対し第1暴行及び第2暴行を加え、よって顔面挫傷及び左頭頂部切傷の傷害を負わせた点について、傷害罪が成立する。

 (1) 顔面挫傷及び左頭頂部切傷については、第1暴行第2暴行いずれから生じたかが不明であるところ、どちらの行為との関係でも、Aに帰責されなければならない。Aは第2暴行を単独で行っているため、当該行為と上記結果との間に因果関係が認められる。第1暴行についても、前述のとおり甲乙との共同正犯が認められ因果性が拡張される結果、第1暴行と上記傷害結果との間の因果性も認められる。

 (2) よって、Aに①の傷害について、傷害罪が成立する。なお、後述のとおり甲乙と共同正犯(60条)となる。

 2 甲に、①の傷害を負わせた点について、傷害罪の共同正犯が認められる。

 (1) 第1暴行から①の傷害が発生した場合、A甲乙は共同正犯であるため、甲に当該結果発生が帰責される。

 (2) また、第2暴行から①の傷害が発生した場合でも、甲は実行行為者Aと共同正犯が成立するため、甲にAの行為から生じた当該結果発生について帰責される。

ア 前述のとおり、甲A間には共謀が認められる(①充足)。

イ 第2暴行より前に甲は「おれ帰る」とだけ言って帰宅しているものの、共犯関係が解消されたとはいえず、第2暴行は上記共謀に基づく実行行為といえる。

(ア) 共犯が処罰される根拠は、共犯者が正犯者を介して法益侵害を惹起した点にある(因果的共犯論)。そこで、実行の着手後に因果性が遮断されたといえるような事情がある場合には共犯関係が解消されたといえ、それ以降の行為は共謀に基づく実行行為にあたらないと考える。

(イ) まず、甲はAに対し、共謀により心理的因果性を及ぼしているところ、かかる因果性排除のために、ⓐ共謀からの離脱の意思表示及びⓑ相手方の承諾が必要である。また、本件では、実行の着手後における共謀の離脱である。実行の着手後においては、共謀内容の一部が結果へと現実化している以上、客観的状況を前提に犯行が継続される可能性を排除する必要がある。そこで、ⓒ結果発生の積極的防止措置が必要となる。甲は共謀の離脱の意思表示をしている。

本件では、甲はAに対し「おれ帰る」と、離脱の意思表示をしている(ⓐ充足)。しかし、Aはこれに対し、承諾をしていない(ⓑ不充足)。また、甲は、AがDに対しさらに暴行を加えないようにする積極的防止措置を講じていない(ⓒ不充足)。

   (ウ) したがって、甲は共犯関係を解消したとはいえず、第2暴行も、なお上記共謀に基づく実行行為にあたる(②充足)。

   ウ よって、甲に①の傷害についても傷害罪の共同正犯が成立する。また、後述のとおり、Aだけでなく乙との間でも共同正犯となる。

 3 乙に、①の傷害を負わせた点について、甲Aとの傷害罪の共同正犯が成立する。

 (1) 第1暴行から①の傷害が発生した場合については、前述と同様に、乙にも帰責される。

 (2) 第2暴行から①の傷害が発生した場合も、乙は実行行為者Aと共同正犯が成立し、Aの行為から発生した当該傷害結果発生について帰責される。

   ア 前述のとおり、乙A間には共謀が認められる(①充足)。

   イ 次に、乙は、第2暴行より前にAから顔面を殴打されて転倒し、気を失っているものの、なお乙A間の共犯関係の解消が認められず、Aの第2暴行が共謀に基づく実行行為にあたる。

(ア) 前述と同様に、乙に共犯関係の解消が認められるためには、ⓐ共謀からの離脱の意思表示ⓑ相手方の承諾ⓒ結果発生の積極的防止措置が必要である。

(イ) 本件では、乙はAから殴られて、一方的に犯行から排除されている。したがって、排除された以降においては、乙はAに対し何らの心理的因果性も及ぼしていない。もっとも、乙A間では、すでに共謀がなされており、かかる心理的因果性はAに及んでいる。そこで、かかる心理的因果性を遮断する必要が認められる。しかし、乙は一方的に犯行から排除されているにすぎず、離脱の意思表示等をしているわけでもないため、乙がAに与えた心理的影響がなくなったとはいえない(ⓐⓑ不充足)。

(ウ) したがって、乙はAとの共犯関係を解消したとはいえず、第2暴行も、なお上記共謀に基づく実行行為にあたる(②充足)。

ウ よって、乙に①の傷害についても、甲Aとの傷害罪の共同正犯が成立する。

第3 AがDに対し慰謝料の支払いを求めた点について

 1 AがDに対し慰謝料の支払いを求めた行為に、恐喝罪(249条1項)が成立する。

 (1) AはDに対し債権を有しているが、Aの上記行為は「恐喝」にあたる。

   ア 「恐喝」とは、財物移転に向けられた、暴行又は脅迫により被害者を畏怖させること[2]をいう。恐喝罪は交付罪であるため、暴行又は脅迫は相手方の反抗を抑圧する程度に至らないものであることが必要である。

   イ 本件では、Aは、Dに対し第1暴行及び第2暴行を加えている。Aは犯行計画時点でDから慰謝料を支払わせようと考えているところ、財産移転に向けられている。

   ウ したがって、「恐喝」にあたる。

(2) Dは、実際に畏怖しており、それによって、現金30万円たる「財物」をAに対し「交付」している。また、Xには、故意(38条1項)が認められる。

(3) Aは、CがDに対して有しているであろう慰謝料30万円を権利行使したものであるが、違法性は阻却されない。

   ア 違法性の実質は、社会的相当性を逸脱した点にある。そこで、債権者であっても、権利行使の方法が社会通念上一般に許容すべきものであると認められる場合でない限り、違法性は阻却されない[3]

イ 本件では、甲は、第1暴行及び第2暴行を、場所を変えて連続的に行っている。また、その態様も顔面や頭部に加療2週間を要する傷害を負わせる程度の悪性の高いものである。以上にかんがみれば、Aの権利行使の方法は社会通念上一般に許容すべきものとはいえない。

   ウ よって、甲の上記行為は、違法性が阻却されない。

 (4) よって、Aの上記行為に恐喝罪が成立する。なお、後述のとおり、甲乙と共同正犯(60条)となる。

 2 甲乙は、第1暴行及び第2暴行によって、Dが慰謝料30万円を支払った点について、恐喝罪の共同正犯(249条1項)が成立する。

 (1) 甲乙Aは、前述のとおりDに対する恐喝罪の共謀をしている(①充足)。また、かかる共謀に基づいて甲乙Aが共同して第1暴行を、Aが単独で第2暴行を行っている(②充足)。なお、甲乙はそれぞれ第2暴行より前に共犯からの離脱をしているものの、前述のとおり、なお共犯関係が解消したとはいえないため、第2暴行も共謀に基づく実行行為にあたる(②充足)。

 (2) よって、甲乙は、上記点について恐喝罪(249条1項)が成立する。

第4 罪数

甲乙Aは、共に①傷害罪②傷害罪③恐喝罪が成立し、①と②は時間的に接着し侵害が共通のため包括一罪となり、①②と③は併合罪(45条)となる。甲乙Aはそれぞれかかる罪責を負う。

以上

 

[1] 本問題では、人ごとではなく行為ごとにナンバリングを分けた方が書きやすいように思われたため、本解答例は行為ごとに論述している。

[2] 山口青本。324頁参照。

[3] 最判昭和30年10月14日参照。