法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題24 「警部補のおねだり」 解答例

解答例

第1 甲の罪責

 1 甲は、平成23年10月12日から平成25年2月20日までは警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第4課で、同月21日から翌年末までは警視庁A警察署地域課で、それぞれ犯罪の捜査等に関わり、告発を受理し、刑事事件の被害者から相談を受けて助言を与え、あるいは、その加害行為を制止するなどの職務に従事していたものの、甲は、平成25年3月16日、丙から、自己の警察官としての職務に関し、丙がFを被告訴人とする名誉・毀損信用棄損の告訴状を提出した事件(以下、「本件告訴事件」という。)について、告訴状の検討、助言、捜査情報の提供、捜査関係者への働きかけなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、100万円の小切手を収受した行為に、収賄罪(197条1項)は成立しない。

 (1) 甲は、「公務員」(7条1項)にあたる。

 (2) 甲はA警察署で働く者であるが、B警察署所管の事件に関する、告訴状の検討、助言、捜査情報の提供、捜査関係者への働きかけ行為も甲の「職務に関」するものといえる。

   ア 「職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務[1]をいう。賄賂罪の保護法益は、職務の公正さとそれに対する社会の信頼にあるところ、当該公務員の一般的職務権限に属するものも「職務」にあたると考える。

   イ 本件では、警視庁の警察化の職務権限は、同庁の管轄区域である東京都の全域に及ぶところ(警察法64条)、甲はB警察署所管の事件に職務権限を有する。次に、(ⅰ)告発状の検討、助言、(ⅱ)操作情報の提供、(ⅲ)捜査関係者への働きかけが、「職務」にあたるかである。(ⅰ)については、本件捜査に関連する職務である。また、(ⅱ)については、警察官は捜査上知り得た事実について守秘義務を負うと考えられるため、秘密の漏示も「職務」にあたる。(ⅲ)については、捜査関係者間での意見交換は本来的職務の1つといえるため、「職務」にあたる。

   ウ したがって、甲の上記甲行為は甲の「職務に関」するものといえる。

 (3) 甲は、丙から100万円の小切手という、公務員の職務行為の対価として収受等される不正な利益[2]たる「賄賂」を「収受」している。

 (4) もっとも、甲は丙のために動くつもりは全くなかったのであるから、職務執行意思に欠け、故意(38条1項)が認められない[3]

 (4) よって、甲の上記行為に収賄罪は成立しない。

 2 甲は、丙のために動くつもりは全くなかったにもかかわらず、金員を得る目的で、甲に「動くのには少し金がかかる」などと申し向け、100万円の小切手を交付させた行為に詐欺罪(246条1項)が成立する。

 (1) 甲の上記行為は、賄賂に基づき職務執行をすることを欺罔しているが、なお「人を欺」く行為にあたる。

   ア 「人を欺」く行為とは、財物の主観性故に広がる処罰範囲限定の観点から、被害者の財産交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいう。

   イ 本件では、甲は賄賂という違法な金員に基づいて職務を行うという反対給付を行うかのような言動をしている。相手方の100万円の小切手の交付は、不法原因給付(民法708条)として返還請求権が認められない結果、財産的損害が認められないため重要事項性が認められないとも思える。しかし、瑕疵ある反対給付に基づき財産を交付することを保護するものである以上、不法原因給付であることを理由に実行行為性が否定されるわけではない。本件では、丙の給付は甲にFのD社に対する営業妨害事件について便宜を図ってもらいたいという点にあるところ、甲は、かかる反対給付の中核を偽るものであるため、丙の財産交付の重要な事項を偽るものである。

   ウ したがって、甲の上記行為は、「人を欺」く行為にあたる。

 (2) 丙は、甲の上記行為によって錯誤に陥り、よって小切手を交付している。

 (3) よって、甲の上記行為に詐欺罪が成立する。

 3 甲が、丙に対し、「逮捕されたくなければ、100万円くらいが覚悟して頂かないといけませんね」などと電話で申し向け、よって100万円を交付させた行為に、恐喝罪(249条1項)が成立する。

 (1) 「恐喝」とは、暴行又は脅迫により被害者を畏怖させること[4]をいう。そして、脅迫とは、相手を畏怖させるに足る害悪の告知[5]をいう。

本件では、甲は、後述する丙の乙に対する贈賄罪(198条)の告発の口止め料として100万円の交付を求めているものであるが、逮捕されるかどうかは通常相手方にとって重大な不利益であるため、畏怖させるに足りるといえる。

したがって、「恐喝」にあたる。

 (2) 丙は、甲の上記行為によって畏怖し、よって甲に100万円を交付している。

 (3) よって、甲の上記行為に恐喝罪が成立する。

 4 甲が、丙から、自己の警察官としての職務に関し、丙の逮捕について有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、100万円の現金書留を収受した行為は、職務執行意思に欠けるため、前述のとおり収賄罪(197条1項)は成立しない。

 5 以上より、甲の一連の行為に、①詐欺罪②恐喝罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。甲はかかる罪責を負う。

第2 乙の罪責

1 乙は、平成24年4月1日から平成25年2月末日まで警視庁B警察署地域課で勤務した後、同年3月1日からC氏教育委員会職員として少年非行やモンスターペアレントの対応にあたるなどの職務に従事していたものの、乙は、平成25年3月23日、丙から、自己の過去の警察としての職務に関し、Fを被告訴人とする名誉毀損・信用毀損罪の告訴状の提出の際、非常に懇切な助言・指導をしたことに対するお礼の趣旨としての供与であることを知りながら、料亭「秋月」において10万円分の供応を受けた行為について、収賄罪(197条1項)が成立する。

(1) 乙は「公務員」にあたる。

(2) 乙が供与を受けたのは、過去に勤務していた警視庁B警察署地域課での職務に関するものであるが、なお「職務」にあたる。

  ア 確かに、乙は現在C市教育委員会に勤務しており、B警察署地域課とは一般的職務権限も異なる職務に従事している。しかし、現に公務員である者に対して過去の職務に対して金員を供与することは、職務の不可買収に対する信頼を害することになる。したがって、一般的職務権限の異なる過去の職務も「職務」にあたる。そして、乙は過去に丙の告訴状提出について、警察官の職務に基づき助言・指導している。

  イ したがって、「職務」にあたる。

(3) 乙は、10万円分という非常に高額な供用を受けており、社会儀礼を超える利益を収受しているため、「賄賂」を「収受」したといえる。

(4) よって、乙の上記行為に収賄罪(197条1項)が成立する。

2 以上より、乙の行為に収賄罪が成立し、乙はかかる罪責を負う。

第3 丙の罪責

 1 丙が、平成25年3月16日、甲に対し、甲の警察官としての職務に関し、告訴事件について、告訴状の検討、助言、捜査情報の提供、捜査関係者への働きかけなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに100万円の小切手を供与した行為に贈賄罪(198条)は成立しない。

 (1) 贈賄罪のうち供与罪と収受罪は必要的共犯であるところ、甲は職務執行意思がなく収賄罪が成立しないため、このような者との間に賄賂の「供与」及び「約束」は認められない。

 (2) 丙には、賄賂の「申込み」行為も認められない。

 (3) よって、丙の上記行為に贈賄罪は認められない。

2 丙が、甲の警察官としての職務に関し、丙の逮捕について有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに現金書留で100万円を供与した行為についても、1と同様に、「供与」にはあたらないため、贈賄罪(198条)は成立しない。

3 丙が、平成25年3月23日、乙に対し、乙の過去の警察としての職務に関し、Fを被告訴人とする名誉毀損・信用毀損罪の告訴状の提出の際、非常に懇切な助言・指導をしたことに対するお礼の趣旨として10万円分の供応をした行為に、贈賄罪(198条)が成立する。

4 以上より、丙の一連の行為に贈賄罪(198条)が成立し、丙はかかる罪責を負う。

以上

 

[1] 山口青本(3)・481頁。

[2] 山口青本(3)・484頁。

[3] なお、大半昭和15年4月22日は収賄罪と詐欺罪との観念的競合を認めているため、職務執行意思がなくとも収賄罪を成立させることを前提にしているのであろうか。

[4] 山口青本(3)・324頁。

[5] 山口青本・324頁。