法律解釈の手筋

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2019年(令和元年) 司法試験 民法 解答例 

解答例

第1 設問1

 1 甲建物の所有権は誰に帰属するか。請負契約における完成建物の所有権が注文者・請負人のいずれに帰属するかが問題となる。

 (1) 246条1項によれば、材料の提供者に完成建物の所有権が原始的に帰属すると考えることが物権法理に整合するし、特約がある場合を除いて注文者に原始的に帰属する根拠に欠ける。

そこで、完成建物の所有権は原則として材料提供者たる請負人に帰属すると考える。もっとも、当事者の合理的意思の観点から、注文者が代金の全部又は大部分を支払い済みの場合には、特段の事情のない限り所有権を注文者に帰属させる「暗黙の合意」があったと考える。

 (2) 本件では、確かに請負人Bが甲建物の建築に必要な材料を全て自ら調達しているところ、平成30年6月1日時点において、Bが甲建物の所有権を原始的に取得したとも思える。しかし、注文者Aと請負人Bは、契約日に請負代金の10%、着工日に30%、棟上げ日に40%、引渡日に20%を支払うとされ、平成30年6月1日時点で、既にBはAから請負代金の80%である2億8800万円を受け取っている。また、引渡日まで請負人に所有権を留保するといった特約などもなく、特段の事情も見当たらない。以上にかんがみれば、甲建物完成時点である平成30年6月1日に、甲建物の所有権は注文者Aに原始的に帰属したと考える。

 (3) したがって、甲建物の所有者はAである。

 2 それでは、CはAに対し、所有者としての責任を追及して、本件事故による損害の賠償を請求することができるか。Cは、Aに対し、717条1項但し書に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。

 (1) 前述のとおり、Aは甲建物の「所有者」にあたる。

 (2) 本件事故は、直接的には震度5弱の地震によって生じたものであるところ、「瑕疵」が認められるか。

ア 「瑕疵」とは、目的物の通常有する性状を欠くことをいう。そして、自然災害等の不可抗力と競合する場合には、かかる不可抗力が予見できる以上可能な限りの安全性を備えておくべきであり、そのような不可抗力によって自己が発生したとしても、なお「瑕疵」が認められると考える。

イ 本件では甲建物にはその建築資材に欠陥が認められる。これに対して、本件事故の直接の原因である地震は、震度5弱という、日本では通常発生しない自然災害というほどのものではなく、起きても不自然ではない程度の自然災害といえる。そうだとすれば、かかる地震に耐えられない上記建築資材の欠陥は甲建物が通常有すべき性状を欠く「瑕疵」にあたると考える。

(3) Cは本件事故によって、治療費の支出という「損害」を被っており、甲建物の瑕疵とCの損害との間には、因果関係(416条)が認められる。

(4) もっとも、占有者たる請負人Bが「必要な注意をした」をしたといえるかであるが、建築資材の欠陥は、製造業者において検査漏れがあったことに基づくのであるため、Bがかかる欠陥に気付くことは困難であったといえる。そうだとすれば、Bとしては、損害の発生を防止するのに「必要な注意をした」といえる。

 (5) したがって、Cのかかる請求は認められる。なお、確かに、716条によれば、注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わないとされている。しかし、かかる規定は709条の過失がある場合にまで免責するのではないことを注意的に規定したものにすぎない。よって、注文者はなお717条1項但し書に基づく責任を負うことはあると考える。

第2 設問2

 1 Hの主張

 (1) Hは、乙建物の所有権の取得によって賃貸人たる地位がDからHに移転されて賃料債権が当然に承継され、登記たる第三者対抗要件を備えることによって賃料債権譲渡の第三者対抗要件も具備したといえるため、HはFに対し債権譲渡を対抗し、Eから賃料の支払いを受けることができると主張することが考えられる。

 (2) まず、HはEに対し賃貸借契約に基づく賃料請求をすることができるか。

    ア 賃借人は対抗力ある賃借権を有している場合には、不動産の賃貸借関係は、目的不動産の所有権と結合する状態債務であるため、かかる不動産の譲受人に不動産の賃貸人たる地位が当然承継されると考える。

    イ 本件では、EはHから乙建物の引渡しを受けており、賃借権の対抗力を有する(借地借家法31条)。そして、HはDから本件売買契約によって乙建物を譲受している。

    ウ したがって、Hは賃貸人たる地位を有し、Eに対し賃料請求をすることができる。

  (3) 次に、平成28年9月から12年間の賃料債権はDからFに債権譲渡されているところ、HはFに対抗することができるか。後述のとおり、本件譲渡契約は有効であるため、Hは賃貸人たる地位の移転による債権譲渡をFに対して対抗することができるか。Hは債券譲渡の第三者対抗要件(467条2項)は備えていないため、問題となる。

    ア 賃貸人たる地位が移転されれば、それに係る賃料債権も当然に譲渡する。そして、賃貸人たる地位の移転が公示されていれば、かかる債権譲渡についても公示がされたといえるため、その後に賃料債権を譲り受けた者が不測の損害を被るおそれはない。そうだとすれば、賃貸建物の登記(177条)を具備すれば、賃料債権の譲渡についても第三者に対抗することができると考える。

    イ 本件では、Hは乙建物の登記を具備している。

    ウ したがって、Hは賃乙建物の賃料債権譲渡をFに対して対抗できる。

 2 Fの主張

 (1) Fは、本件譲渡契約によって賃料債権を譲り受けた以上、Eから賃料の支払いを受けることができると主張することが考えられる。Hの主張に対しては、Hは債権譲渡の第三者対抗要件を具備していないため、自己に対抗できない、また、Hは本件譲渡契約の存在を知っていた以上、それをFに対抗することは権利の濫用である(1条3項)と主張することが考えられる。

 (2) まず、本件譲渡契約が有効であるかについてであるが、本件譲渡契約は、本件賃貸借契約に係る平成28年9月から平成40年8月までの賃料債権という形で特定されており、識別可能性を有する。また、その期間も12年間という不当に長期間ともいえないため、公序良俗にも反しない。

    したがって、本件譲渡契約は有効である。

 (3) 次に、Hは本件譲渡契約の存在を知っていたにも関わらず、あえて本件売買契約をした以上、権利の濫用であり許されない。

 3 検討

 (1) まず、Hは確かに債権譲渡の第三者対抗要件を具備していない(467条2項)。しかし、賃貸人たる地位の移転の場合にもこれを要するとすると、賃貸不動産の譲受人は確定日付による通知をしなければならないことになる。また、かかる債権は将来の賃料というレベルでしか特定しえず、識別可能性を充たさない。そうだとすれば、Hの主張のとおり、賃貸建物の登記の具備によって、債権譲渡についても第三者に対抗できると考える。

(2) 次に、Hの賃料請求が権利の濫用にあたるかどうかであるが、これはあたらないと考える。なぜなら、Fは本件譲渡契約に際して第三者対抗要件(467条2項)を備えることが可能であったのであり、Fに対し対抗要件不具備の懈怠という帰責性を問うことができるからである。そうだとすれば、Hが背信的悪意者でない限り、Hは債権譲渡をFに対して対抗できる。そして、Hに背信性を基礎づける事情はない。

 (3) よって、Hの主張が正当である。

第3 設問3

 1 Hは、乙建物の賃料を受け取ることができると考えていたにも関わらず、これが受け取れないのであるから、錯誤取消し(95条1項)を主張することが考えられる。

 2 まず、Hは、DのGに対する6000万円の債務を引き受ける意思をもって本件債務引受契約をしている以上、「意思表意に対応する意思がない」とはいえず表示錯誤にはあたらない。

 3 次に、Hは、本件債務引受契約をしたのは、HDG間でなされた一連の契約の一つである本件売買契約によって、賃料収益を得ることができると考えていたからである。それにもかかわらず、Hはかかる賃料を得ることができないため、「基礎とした事情」に錯誤」(基礎事情錯誤)が認められる。

 4 それでは、上記錯誤は法律行為の基礎とされていることが「表示」されていたか。

 (1)  「表示」の意義は、新たな合意主義の観点から、表示がされただけでなく、当事者間において法律行為の内容とされたことが必要であると考える。

 (2) 本件では、本件債務引受に係る債務は6000万円という非常に高額なものである。それにもかかわらず、Hがこれを引き受けたのは、乙建物による賃料収益をあてにしていたからであると推認される。また、HDG間の合意④において、Hは毎月20万円を支払う旨を合意している。これは、乙建物の賃料が25万円であることから、かかる賃料収益をあてにしていることが推認される。そうだとすれば、本件債務引受契約において、上記錯誤が表示されていたといえる。Gは「乙建物を売りに出せば,買主は長期の安定した賃料収入を見込めることもあり相当な価格で容易に売れるのではないか」と述べ、その売却によって得られる代金から本件債務を弁済するように求めている。以上にかんがみれば、本件債務引受契約においては、本件売買契約によってHが賃料収益を得ることができるために同契約を締結することが法律行為の内容になっていたといえる。

 (3) したがって、「表示」が認められる。

 5 3000万円という賃料収益を債務の引き当てにできるかどうかは、その額の高額さからみても、「社会通念に照らして重要」といえる。

 6 Hが錯誤に陥ったことについて「重大な過失」(95条3項柱書)が認められるかであるが、Hが平成28年2月から平成4年8月までの賃料を得ることができないかどうかは前述第2のとおり法律解釈上争いがあり、どちらの解釈も合理性が認められる以上、この点について錯誤していたとしても「重大な過失」は認められないと考える。

 7 よって、Hの錯誤取消しの主張をすることができる。

以上