法律解釈の手筋

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「ケースで考える債権法改正 第3回 相殺——「前の原因」による相殺の拡張」(法学教室464号、2019年6月号・83頁)

解答例

第1 設問1

1 差押えの場合[1]

(1) Bは、Aに対し、2020年3月1日に、弁済期を同年10月1日と合意して、150万円を貸し付けた。2020年10月1日は到来した。

   また、Bはα1債権を受動債権、β1債権を自働債権として相殺する旨の意思表示をしている。

(2) Cのα1債権の差押えの効力が生じたのは、2020年9月2日であるところ(民執法145条4項)、β1債権は、「差押え前に取得した債権」(511条1項後段)である。

(3) よって、Bの相殺は認められる。

2 債権譲渡の場合(設問5)

 (1) BはAに対し、前述のとおり2020年3月1日にβ1債権を取得している。これに対し、Cが債権譲渡の債務者権利行使要件を具備したのは同年9月2日である。

    したがって、β1債権は、「対抗要件具備時より前に取得した」(469条1項)債権であり、Bは相殺の抗弁を債権譲受人Cに対して対抗できる。

 (2) よって、Bの相殺は認められる。

第2 設問2[2]

 1 差押えの場合

 (1) β1債権について511条1項後段により相殺が認められることは前述のとおりである。

 (2) それでは、β2債権について、相殺が認められるか。

   ア α1債権の差押えは前述のとおり同年9月2日にその効力が生じているのに対し、β2債権は、2020年9月10日に発生しているため、同債権は「差押え後に取得した債権」(511条2項)にあたる。

   イ それでは、同債権は「差押え前の原因に基づいて生じた」といえるか。

   (ア) 同項の趣旨は、すでに自働債権の発生原因事実が存在する場合には相殺の合理的期待があるといえることから、相互性の要件の時的範囲を緩やかにした点にある。そこで、「差押え前の原因」は、主たる発生原因が差押え前に備わっていれば足りると考える。

   (イ) 本件では、β2債権の主たる発生原因である売買契約は2020年8月10日に行われており、同年9月2日になされた差押えよりも前である。

   (ウ) したがって、「差押え前の原因」にあたる。

 (3) よって、Bの相殺はβ1債権β2債権ともに認められる。

 2 債権譲渡の場合(設問5)

 (1) 設問1のとおり、469条1項によりβ1債権の相殺は認められる。

 (2)  α1債権の差押えは前述のとおり同年9月2日にその効力が生じているのに対し、β2債権は、2020年9月10日に発生しているため、同債権は「差押え後に取得した債権」(469条2項)にあたる。もっとも、β2債権の主たる発生原因事実は2020年8月10日であるところ、「差押え前の原因」(469条2項1号)にあたる。

 (3) よって、Bの相殺は認められる。

第3 設問3

 1 差押えの場合

 (1) β1債権について、511条1項後段により相殺が認められることは設問1及び設問2と同様である。

 (2) そして、β2債権についても、設問2と同様に、2020年8月10日の売買契約締結事実が同年9月2日になされた「差押え前の原因」にあたる。

    確かに、設問3は設問2と異なり、自働債権であるβ2債権は、受働債権であるα2債権とは牽連性ないし密接関連性の認められない債権である。しかし、511条2項は、「前の原因」とするのみで、自働債権と受働債権の牽連性ないし密接関連性を要求していない。また、自働債権の主たる発生原因事実が存在するのであれば、牽連性ないし密接関連性がなくても、相殺への期待は合理性を有するといえるため、牽連性を別途要求することは不要であると考える。

 (3) よって、Bの相殺は認められる。

 2 債権譲渡の場合(設問5)

 (1) β1債権について、469条1項により相殺が認められることは、設問1及び設問2と同様である。

 (2) また、β2債権について、469条2項1号により相殺が認められることも設問2と同様である。

 (3) よって、Bの相殺は認められる。

第4 設問4[3]

 1 差押えの場合

 (1)  α1債権の差押えは前述のとおり同年9月2日にその効力が生じているのに対し、β3債権である事後求償権は、2020年9月5日にDへの弁済によって発生しているため(462条1項、459条の2第1項)、同債権は「差押え後に取得した債権」(511条2項)にあたる。

(2) それでは、同債権は「差押え前の原因に基づいて生じた」といえるか。前述の基準により判断する。

   ア 本件では、β3債権の主たる発生原因事実である保証契約の締結は、2020年7月1日に行われており、同年9月2日になされた差押えよりも前である。

  イ したがって、「差押え前の原因」にあたる。

(3) そうだとすれば、Bの相殺は認められるように思える。

(4) しかし、以上のように解すると、債務者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しい。

  ア 無委託保証人が受働債権の差押後に保証債務を履行し、事後求償権を作り出してそれを自働債権としてする相殺は、債務者の意思に基づくことなく債権者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において、債権者に対して債務を負担する者が、差押後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似する。

    そこで、このような相殺は、511条2項但し書を類推適用すべきであると考える[4]

  イ 本件においても、Bは差押え後に無委託保証契約に基づく保証債務を履行して事後求償権を作り出している。

  ウ したがって、本件でも511条2項但し書類推適用が認められる。

(5) よって、Bの相殺は認められない。

 2 債権譲渡の場合(設問5)

 (1) 債権譲渡の場合においても、無委託保証の弁済による事後求償権を自働債権とする相殺は、他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似する点で変わりがない。

    したがって、469条2項柱書但し書が類推適用されると考える。

 (2) よって、Bの相殺は認められない。

以上

 

[1] 相殺の抗弁の要件事実は①自働債権の発生原因事実②相殺の意思表示をしたこと、である(類型別・32頁)。民法505条1項は、①及び②の他に、(ⅰ)対立する債権が同種の目的を有すること(ⅱ)双方の債務が弁済期にあることが必要であると規定する。(ⅰ)については、①の主張立証で足りるとされる。(ⅱ)については、売買型契約の場合は、①の主張立証で足りるが、貸借型契約の場合には弁済期の到来も主張立証することを要する。

 なお、潮見プラクティス・421頁によれば相殺適状の現存も要件事実とするが、相手方の抗弁事実になるものと思われる。また、債権の対立については、受働債権の発生原因事実について相手方請求原因として既に主張しているはずであるところ、請求原因事実と上記①事実で明らかになる。

[2] 本問4行目で「α1の支払をAから求められたBは」とあるが、正しくは「α1の支払をCから求められたBは」ではないかと思われる。

[3] 本問9行目で「α1の支払をAから求められたBは」とあるが、正しくは「α1の支払をCから求められたBは」であると思われる。

[4] 本問と同様の事案で破産手続の場面で、民法511条2項但し書に対応する破産法72条1項1号類推適用を認めたものとして、最判2012年(平成24年)5月28日民集66巻7号3123頁参照。もっとも、かかる判例には批判も強い。「破産者の意思に基づかない」債権者の交代は、債権譲渡登記による対抗要件具備を利用した債権譲渡の場合にも生じるところ、かかる場合には相殺が認められることとの平仄が合っていないとの指摘がある(山本ほか『倒産法演習ノート[第3版]』(弘文堂、2016年)82頁)。

なお、無委託保証人は事務管理たる性質を有するところ(459条の2第1項の事後求償権の範囲は、702条1項の事務管理の費用償還請求と同じ範囲である)、事務管理では「前の原因」は事務管理行為であることにかんがみれば、無委託保証人の事後求償権の「前の原因」は弁済行為となり、そもそも511条2項本文にあたらないとの見解がある(非破産債権であることを主張する見解として、伊藤眞『破産法・民事再生法[第4版]』(有斐閣、2018年)281頁参照)。一方、無委託保証の場合でも保証契約という「前の原因」がある以上、委託の有無に関係なく期待の合理性は肯定されてよいとする見解も存在する(潮見佳男「相殺の担保的機能をめぐる倒産法と民法の法理」『現代民事法の実務と理論』(金融財政事情、2013年)267頁参照)。私見としては、保証契約それ自体によって相殺の合理的期待は生じたとみれる以上、相殺を認める最後の見解に賛成する。