法律解釈の手筋

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「ケースで考える債権法改正 第4回 売買契約の解除」 (法学教室466号、2019年7月号・73頁)

解答例

 

第1 小問1

 1 Aは、催告解除(541条)の意思表示によって甲の売買契約(以下「本件契約」という。)を解除することができる。

 2 AはBと本件契約を締結している。本件契約に際し、Bの甲引渡債務(以下「本件債務」という。)の履行期は6月1日と合意している。そして、6月1日は経過している。

 3 したがって、Aは、Bに履行の催告をし[1]、Bが相当の期間内に履行をしないとき[2]は、本件契約を解除することができる。

第2 小問2

 1 Aは、催告解除(541条)の意思表示をすることが考えられるが、原則としてかかる解除は認められない。

 2 AはBと本件契約を締結している。本件契約に際し、Bの甲引渡債務とそれに付随する債務の履行期は6月1日と合意しており、かつ、同日は経過している。したがって、AはBに履行の催告をし、Bが相当の期間内に履行をしないときは、本件契約の解除をすることが考えられる。

 3 もっとも、これに対して、Bは、本件契約の履行遅滞は社会通念上「軽微」なものであるため、Aの解除は認められないと反論することが考えられる。

 (1) 債務不履行解除の趣旨は、債権者を反対債務から解放し、もって契約目的不達成から救済する点にある。そこで、「軽微」とは、契約目的達成が可能か否かという観点から判断すると考える[3]

 (2) 本件では甲の取扱説明書についての交付がなされないという債務不履行がある。しかし、甲の使用について、取扱説明書がなければ使用方法が分からず使用できないといった事情は見受けられない。通常、取扱説明書がなくとも機械の操作は大体できるため、取扱説明書を交付する債務については、甲を使用するために購入するという本件契約目的達成に必須的でない付随的債務であるといえる。

 (3) したがって、取扱説明書を交付するという債務の不履行は「軽微」である。

 4 よって、取扱説明書がなければ甲を使用することができないといった事情が認められない限り、Aの解除は認められない。

第3 小問3

 1 Aは、無催告解除(542条1項)の意思表示によって、本件契約を解除することができる。

 2 AはBと本件契約を締結している。そして、5月25日の豪雨によりBの工場は壊滅的な被害を受け、復旧の見込みがない。そのため、Bの本件債務の履行は社会通念上「不能」(同項1号)となっている。

 3 よって、Aは本件契約を解除することができる。

第4 小問4

 1 第1に、Aは催告解除(542条)の意思表示によって本件契約を解除することができる。

 (1) AはBと本件契約を締結している。Bは本件債務の履行期に甲の引渡しをしているが、引き渡した甲は1分間に70カンのシャリをつくることができるという契約内容の性質を有しておらず、1分間に40カンのシャリをつくることしかできないため、本件債務は不完全な履行にとどまる。

 (2) したがって、Aは、Bに履行の催告をし 、Bが相当の期間内に履行をしないとき は、本件契約を解除することができる。

(3) なお、AはBに修補請求をしているところ、かかる請求を解除の催告とみなし、6月8日時点で催告解除をすることができないかが問題となる。

  ア 催告は意思の通知であり、修補請求権とはその法的性質が異なるため、修補請求によって催告もあったとすることは、債務者に不意打ちを与えることになり、妥当でない。債権者は修補請求と同時に催告もしておけばよいだけであるし、後述のとおり、修補請求に応じないことを理由に無催告解除をしていくこともできるため、不都合もない。

    そこで、修補請求によって解除の催告があったとすることはできないと考える。

  イ 本件では、Aは6月1日時点では修補請求をしたにすぎず、解除の催告はしていない。

  ウ したがって、Aは6月8日時点で催告解除をすることはできない。

 2 第2に、Aは無催告解除(542条1項)の意思表示によって本件契約を解除することができる。

(1) 前述のとおり、Bは契約内容どおりの甲を引き渡しておらず、本件債務を「履行しない」(542条1項5号)。

(2) また、Aは6月1日に、Bに対し修補請求をしているにも関わらず、Bはこれに応じない。したがって、Aが催告をしたとしてもBによって本件債務を「履行される見込みがないことが明らか」であるといえる。

 (3) したがって、Aは6月8日時点で、無催告解除をすることができる。

第5 小問5

 1 Aは無催告解除(542条1項)の意思表示によって本件契約を解除することができる。

 2 AはBと本件契約を締結している。Bは本件債務の履行期に甲の引渡しをしているが、引き渡した甲は1分間に70カンのシャリをつくることができるようになるオプションの加速ユニットをつけるという契約内容の性質を有しておらず、1分間に50カンのシャリをつくることしかできないため、本件債務は不完全な履行にとどまる。したがって、Bは本件債務を「履行しない」(同項5号)。

 3 そして、オプションは生産終了となり、入手不能となってしまった。したがって、70カンの甲を購入するという契約の目的を達成する「履行がされる見込みがないことが明らか」であるといえる。

 4 したがって、Aは無催告解除をすることができる。

第6 小問6

 1 まず、Aは、無催告解除(542条1項)の意思表示をすることが考えられるが、かかる解除は認められない。

 (1) AはBと本件契約を締結している。Bは本件債務の履行期に甲の引渡しをしているが、引き渡した甲は1分間に70カンのシャリをつくることができるという契約内容の性質を有しておらず、1分間に63カンのシャリをつくることしかできないため、本件債務は不完全な履行にとどまる。したがって、Bは本件債務を「履行」していない(542条1項5号)。

 (2) もっとも、甲が1分間に63カンのシャリしかつくれないとしても、人件費抑制という契約目的は達成できるため、「契約をした目的を達する……見込みがない」とはいえない。

 (3) したがって、Aは無催告解除をすることができない。

 2 次に、Aは催告解除(541条)の意思表示をすることが考えられるが、かかる解除も認められない。

 (1) 前述のとおり、Aは本件契約目的を達成することが可能である。したがって、前述のとおり、債務不履行の内容が「軽微」(541条ただし書)であるといえる。

 (2) したがって、Aは催告解除をすることもできない[4]

以上

 

[1] 相当期間を定める必要はない。また、相当期間に至らない短期間を定めた催告であっても、客観的に相当期間が経過すれば解除権が発生する。

[2] 相当の期間とは、履行をするために必要な期間をいう(履行の準備に必要な期間は含まれない)。

[3] 「軽微」性の判断と無催告解除の契約目的達成要件を統一的に考える見解。もっとも、最判昭和36年11月21日は契約目的に必須でない付随的義務の履行を怠ったにすぎない場合であっても「特段の事情」があれば契約解除を認める旨判示しているため、「軽微」性の判断は契約目的不達成とは異なる概念であると捉えることも可能であるのかもしれない(私見)。もっとも、特段の事情についてどのような事情を想定しているかが明らかでないし、後述のとおり、契約目的達成要件と「軽微」性を二元的に解する必要があるかについては、疑問がある。

[4] 本連載解説では、契約目的不達成と「軽微」性を異なる概念として、催告解除を認める見解に立つ。しかし、このように考える場合、いかなる範囲であれば軽微であるのかについて(1分間につくれるシャリの数が64カンであればどうか、それでも軽微でないなら65カンは、66カンは…など)明確な基準を提供できるように思われない。そもそも、本問では契約の目的を人件費の抑制と問題文に書いていることから契約目的達成を認定することができるものの、実際にこのような契約目的を認定することは困難であると思われる(確かに、通常契約書には目的条項がある。しかし、目的条項に「Aは、人件費抑制を目的として、本契約を締結する。」などとは書かないであろう。仮に、実際に書かれていたとしても、目的条項は基本的に解釈に影響を与えるとは考えられていないため、これを当事者の意思解釈に用いるのが妥当かについては疑問がある(目的条項に意味を与えるのであれば、今後、目的条項について慎重に検討していく必要がある)。したがって、実際上、契約目的は目的物の内容、性質売買代金等の契約内容から認定していくしかないのであって、小問5のような場合には、人件費の抑制というよりは、作業の効率化という契約目的が認定され、契約目的不達成といえる場合がほとんどであるように思われる)。そうだとすれば、契約目的不達成と軽微性概念を別異に解する必要性があるかについては、疑問なしとしない。