本ブログを読んでいただいている受験生の中には、おそらく疑問を持つ方もおられると思うので、あまり議論にならない見出しの論点について、少し書き留めておく。
これは、自分自身の立場を明確にしておくと共に、今後、CBT方式の採用に伴って、この議論がもっと盛んになるのではないかと予想し、記事にしてみる次第である。
「司法試験・予備試験の答案において、結論を先に書くべきか」という論点について、僕の現状の結論としては、「書けるのであれば、先に書くべきである」ということになる(なので、この論稿も結論を先出ししてみた。予測可能性が高まって読みやすいのではないでしょうか。笑)。
そのようなこともあって、最近本ブログに投稿する答案は、結論を先出しにした答案が多くなっていると思う。結論から先に書く答案に慣れていない方にとっては読みづらくなっている可能性もあり大変恐縮ではあるが、ぜひ「このような答案もあるんだな」というような参考にしていただければ幸いである。
そもそも結論から書く答案を見たことがない、という受験生の方もおられると思うので、本ブログで結論から書いている一部の答案を以下に掲載しておく。
「結論から書く」というのは、刑法の答案を例にすれば、「○○罪が成立する。」というように、問いの結論はもちろんの他、各構成要件についても、「実行行為性が認められる。」だとか、「責任故意が認められる」といったように、結論から書くことを意味する。
元々「結論を先出しにすべきである」と明示的に主張をされた最近の論稿としては、田中嘉寿子「結論から書く司法試験答案 : 実務教育としてのリーダー・フレンドリーな答案の書き方」法セミ59巻9号(2014年)32頁がある。
同論文は、結論から書くことを主張する以外の部分についても刑法の理解を深めるのに有意義な内容となっているので、受験生の方にはぜひ一読していただきたい。が、それはさておくとして、同論文の結論から先に書くべきであると主張する理由としては、まとめると概ね以下のとおりである。
①読み手の予測可能性を高める。
②実務家登用試験である以上、判決文に倣って書くべきである。
これに対して、「結論を後にすべき」という主張を明示的にしている論者は見たことがなく、議論の対立をさせることはできない。
そうだとすれば、なぜこの世の多くの司法試験答案は結論を後から書いているのだろうか。一番の原因は、他でもなく、予備校答案が慣例上結論を後出ししているので、予備校で学習した受験生の慣習として残り続けているということなのだと思われる。もっとも、それだけの理由なのだとすれば、もう少し結論から先に書く答案が散見されてもよいはずであるが、僕がネットにある再現答案や受験講師・弁護士先生の解答例を拝見する限りでも、結論から書く答案というのは滅多に見ることがない。これにはおそらく、結論から書く答案には、以下にあげるようなデメリットがあり、かつ、このデメリットが受験生の立場としてはあまりに大きいことから、結論の後出しがずっと残り続けているように思われる。
そのデメリットは、以下のとおりである。
①結論から先に書くには、答案を書き始める際に結論を決めておかなければならず、それは、答案構成段階において、すべての論点をクリアしておく必要があること。
②①に関連するが、答案を書き始めた後から答案の方向性を修正するのが困難になること
③結論から書くとしても、末尾も必ず結論で締めなければならず、「結論→規範→あてはめ→結論」となり、結論を二度書かないといけないという手間が増える。
④そもそも書き方を真似できるほどの参考答案がこの世に少ない。
いずれも自分自身が受験生であることを想像した場合、かなりネックになるデメリットだと思う。
特に、僕が受験生の頃は、そもそも答案構成の時間を設けておらず、頭の中で整理しながら答案を書いていたので、結論から書くということができなかった。そのような自分自身の過去の経験も踏まえると、確かに結論から書く答案を作成するというのは、現時点ではあまり現実的ではないのだろうと思う。このようなデメリットが、結論から書く答案が流行らない現実的な理由であろう。
ただ、上記のデメリットについては、以下のとおり、今後風向きが変ってくるのではないかと思う。
まず、①②については、令和8年度司法試験及び予備試験の論文式試験よりCBT方式[1]が採用されることから、大幅にデメリットが解消されるのではないかと見込まれる。CBT方式による場合には、途中の文章の改変が容易になるからである。
次に、③についても、CBT方式の採用により、文章のコピー・貼付けが容易になることから、デメリットが減少するのではないかと見込まれる[2]。
最後に、④については、今後本ブログで結論から書く参考答案を投稿していくことで、どのように書くかが知られるようになると願っている。笑
ということで、今後導入されるCBT方式も踏まえ、司法試験答案を結論から書くという風潮が今後少しでも高まれば幸いである。
以上
[1] CBT方式については、法務省のHPを参照(https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00238.html)。
[2] ただし、CBT方式では、ショートカットキーによるコピー・貼付け機能等は制限されるとのことである。おそらくその背景には、①ショートカットキーを使いこなせる者とそうでない者との間において、不公正が生じうること②ショートカットキーの制限をしないことで悪用のリスクがあり得ること、といった懸念があったのだろうと推測する。このような懸念は、官僚の意思決定者が50~60歳以上の者であることから生じていると思うのであるが、はっきり言って、ITリテラシーの欠片もない短絡的な意思決定であるとしか言いようがない。ショートカットキーはPCに当然に組み込まれ、社会人であれば当然に使用するツールである。使いこなせない社会人がいるとすれば、むしろその社会人のスキルが疑われるレベルのものである。これを試験として制限するのは、ショートカットキーに対する認識のズレからきているとしか考えられないのである。おそらく意思決定者は、ショートカットキーが使えない。