法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成29年度(2017年度) 刑法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 Yの罪責

  Yが、Bに対しモデルガンを構えながら「金を出せ。」と申し向け、A店の現金五千円札20枚を差し出させた行為に、A店に対する強盗罪(236条1項)が成立する。

 (1) Yの上記一連の行為は、モデルガンを使用したにすぎず、かつXに命じられて行われたものであるが、なお「脅迫」にあたる。

   ア 「脅迫」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる[1]害悪の告知をいう。また、実行行為性が認められるためには、行為者に正犯性を障害する事情のないことが必要である。

   イ 本件では、当初Yは「金だ、金。」「テープを貼れ。」などと繰り返すにとどまり、心理的抑圧を与えるに足りる害悪の告知とはいいがたかった。しかし、その後、Yは事務室出入口のドアを閉めてロックし、Bに逃げられないという心理的抑圧を加えた。かかる行動と併せてかんがみれば、被害者がモデルガンを本物の拳銃と見間違うことが十分に考えられるところ、モデルガンをBに向けることによって相手方に極度の恐怖感を与えることができる。したがって、上記行為は相手方の反抗を抑圧するに足りる害悪の告知といえる。

     また、後述のとおり、Xは臨機応変に本件犯罪を達成しようと行動しており、自己の犯罪として行う意思及び、強盗罪の直接的行為という重要な役割を果たしていることにかんがみれば、正犯性を障害する事情があったとはいえない。

   ウ よって、Yの上記行為は「脅迫」にあたる。

 (2) Yは「他人の財物」であるA店の現金をA店の店長たるBの意思に反して占有移転し「強取」したといえる。

 (3) 上記「脅迫」とBの抑圧、及び「強取」のそれぞれの間には因果関係が認められる。

 (4) Yは、上記事実を認識・認容しており、故意(38条1項)が認められる。

 (5) もっとも、Yは12歳10か月という刑事未成年(41条)であるから、責任が阻却される。

 (6) よって、Yの上記行為に強盗罪は成立せず、Yは何らの罪責も負わない。

 2 Xの罪責

 (1) XがYをして、A店に対する強盗をさせた行為に、強盗罪の間接正犯(236条1項)は成立しない。

ア Xは、Yを利用して強盗罪に及んでいるにすぎないものの、Xの上記指示行為に実行行為性が認められる。

(ア) 実行行為とは、法益侵害惹起の現実的危険性を有する行為で、かつ、正犯性を障害する事情がないことをいう。そして、正犯性とは、結果発生の因果経過を目的的に支配した者をいう。

   そこで、間接正犯が認められるためには、①被利用者を道具として利用して因果経過を支配し②正犯意思が認められ③当該行為に法益侵害惹起の現実的危険性を有することが必要であると考える。

(イ) 本件では、確かにXは日ごろからYに対して自分の言動に逆らうそぶりをみせるたびに、顔を殴る、知りを蹴り上げるなどの暴力を振るって言うことを聞かせており、今回の強盗についても、YはXに暴力を振るわれることをおそれてしぶしぶ承諾している。以上にかんがみれば、XはYの意思を抑圧していたとも思える。

しかし、Yは金がなくては自分の生活が困るとも思って犯行に至っており、完全にXのためというではない。また、Yは犯行時、Xから指示はされていないものの、強盗を完遂するために、自らの判断で事務室の出入り口のドアを閉めてロックをしたり、逃げやすいようにBをトイレに入れたりするなど、自ら工夫をしている。かかる事実にかんがみれば、Yは本件当時Bには是非弁別の能力があり、被告人の指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく、Bは自らの意思により本件強盗の実行を決意した上、臨機応変に対処して本件強盗を完遂したことなどが明らかであるといえ、Xが因果経過を支配していたとはいえない(①不充足)[2]

(ウ) したがって、実行行為性が認められない。

   イ よって、Xの上記行為に強盗罪の単独正犯は成立しない。

(2) Xが、Yと共謀の上、YにA店に対する強盗を実行させた行為に強盗罪の共同正犯(60条、236条1項)が成立する。

  ア Xに共同正犯の客観的構成要件充足性が認められる。

  (ア) 共犯の処罰根拠は、正犯者を介して法益侵害を惹起した点にあり、一部実行全部責任の根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて、犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

     そこで、①共犯者間の共謀及び②共謀に基づく実行行為が認められれば共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

  (イ) 本件では、XはYとA店において強盗する旨を通謀し、Yはこれを承諾しているところ、犯罪の中核部分についての連絡はあったといえ、意思の連絡が認められる。また、Xは犯罪の首謀者であり、Yに犯罪を持ちかけている点で心理的因果性が強い。また、Xは自らガムテープ、モデルガン、覆面を用意しており、物理的因果性もあるところ、重要な役割が認められる。そして、かかる事実及び強盗によって得た利益をXがすべて享受していることにかんがみれば、Xに正犯意思が認められる。以上にかんがみれば、XとYとの間には、A店に対する強盗罪についての共同遂行合意が認められる。

     Yは上記意思連絡に基づいて本件犯行を行った(②充足)。

  (ウ) したがって、Xに共同正犯の客観的構成要件充足性が認められる。 

イ Xに上記事実の認識認容があり、故意(38条1項)が認められる。

ウ よって、Xの上記行為に強盗罪の共同正犯が成立し、Xはかかる罪責を負う。

第2 設問2

1 乙川がインターネット上で「甲山一郎は従業員HMと不倫関係にある」等掲載した行為に、甲山に対する名誉毀損罪(230条1項)は成立しない。

(1) 乙川は上記事実をインターネット上に掲載し、不特定多数者が閲覧できる状態にしているため「公然」にあたる。

(2) かかる事実は既にインターネット上でなされているものの、「事実」の摘示にあたる。

  ア 「事実」とは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的事実[3]をいう。そして、名誉棄損罪の保護法益は人の外部的名誉であるところ、公知の事実であってもよいと考える[4]

  イ 本件では、乙川は、「甲山一郎は従業員HMと不倫関係にある」旨の事実を摘示している。不倫関係にあるという事実は、倫理上容認しがたいものであって不倫をしている者の社会的評価を低下させるに足りる。

  ウ したがって、かかる事実は「事実」にあたる。

(3) 乙川は、インターネット上への掲載という方法によってかかる事実を「摘示」している。

(4) かかる事実の摘示は公共の利害に関する特例(230条の2)によって違法性が阻却されるかが問題となるが、少なくとも真実性の証明がない以上、違法性は阻却されない。

(5) もっとも、乙川は、かかる事実を真実であると誤信しており、責任故意が阻却される。

  ア 公共の利害に関する特例によって行為者が罰せられないのは、言論の自由から社会的に相当な行為であり、違法性が阻却されるからである。

    そこで、行為者がその事実を真実であると誤信した場合には、違法性阻却事由を基礎づける事実について錯誤があったといえ、責任故意が阻却されると考える。もっとも、適示した事実が真実でないことについて過失がある場合にまで保護すべき理由はないから、230条の2を38条1項但し書の特別規定と捉えて、名誉毀損罪が成立すると考える[5]

  イ 本件では、乙川はインターネット上の掲示板で、甲山と丙野が不倫関係にあることを知った。その後、乙川は甲山のことをよく知るであろう秘書の丁田から不倫についての事実を確認し、甲山と丙野は確かに不倫関係にある旨を聞いた。また、それと同時に甲山ファーマの下請け会社とのトラブルについての裏付け資料も得ていることから、一連の情報が真実であることの誤信について、確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるといえる。

     したがって、乙川に過失があったとはいえず、真実性の誤信が認められる。

   ウ よって、責任故意が阻却される。

 (6) 以上より、乙川の上記行為に名誉毀損罪は成立しない。

 2 乙川がインターネット上で「甲山ファーマもゲス山ファーマだ!」等掲載した行為について、甲山ファーマに対する侮辱罪(231条)が成立しないか。

 (1) まず、甲山ファーマは法人であるが、法人であっても社会的評価を有するものであるため、「人」にあたる。

(2) 次に、甲山ファーマもゲス山ファーマだ、という言論には甲山ファーマの社会的価値を低下させる具体的事実はどこにもなく、単なる人に対する侮辱的価値判断の表示[6]であり「侮辱」にあたる。

 (3) よって、侮辱罪が成立し、乙川はその罪責を負う。

以上

 

[1] 山口青本・298頁。

[2] 最判平成13年10月25日参照。

[3] 山口青本・260頁。

[4] 大判大正5年12月13日、大判昭和9年55月11日参照。

[5] 過失論アプローチ(出題趣旨にいう過失不存在説)。判例とは異なる立場(過失論アプローチを採用する論者は、実質的には判例はかかる立場を採用していると主張する)であるが、違法性阻却事由の錯誤論との整合性から考えた場合に、一番無理がないと思われるため、答案で採用した。

[6] 山口青本・266頁。