法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 令和元年度(2019年度) 刑事訴訟法 解答例

解答例

第1 小問1

 1 「事案の軽重、立証の難易等諸般の事情を考慮」して、検察官が公訴を提起することができるのは、刑訴法上、起訴便宜主義(248条)が採られているからである。

 2 起訴便宜主義とは、犯罪の嫌疑があり、かつ訴訟条件が具備していても、犯罪や犯人の個別的事情により控訴提起を差し控えることができる、という主義[1]をいう。

  その趣旨は、①重要事件にその力を集中するという訴訟不経済の防止及び②早期の刑事手続から解放(ダイヴァージョン)して前科者の刻印を押さずに社会復帰させることを認めるという刑事政策上の考慮、という2つがある[2]

第2 小問2

 1 当事者主義を採用する刑事訴訟法においては、審判対象は、検察官が明示する「訴因」であり(256条3項前段)、裁判所は、その訴因についてのみ審理判決する権限と責務を負う(378条3号前段)。そこで、訴因制度の機能は、第1次的には審判対象の画定にあり、その反射的機能として被告人の防御の利益があると考える。

 2 以上より、「訴因制度を採る訴訟手続の本旨」とは、検察官の設定した審判対象のみで裁判所に審判される以上、当事者においてもかかる審判対象についての訴訟活動に集中すればよい、ということを意味するものであると考える。

第3 小問3

 1 親告罪の一部である未成年者略取の事件において、告訴権者の告訴を得ないまま、略取の手段として用いられた暴行の事実のみを取り出して、検察官が公訴を提起した場合、検察官の公訴提起は訴追権濫用であるとして、公訴棄却判決(338条4号)をすべきではないか。

 (1) 親告罪の趣旨は、告訴権者の名誉を保護する点にあるところ、告訴権者の告訴がないにもかかわらず、その一部のみを取り出して起訴するとすれば、その主張立証の過程で告訴権者の名誉を害する事実が明らかになるおそれがあるし、量刑事情としても無視できない。

    そこで、告訴権者の告訴がない場合に、その一部のみを起訴することは、親告罪の趣旨に反するため、検察官の訴追権の濫用にあたると考える。

 (2) 本件でも、告訴権者の告訴がない。

 (3) したがって、このような公訴提起は許されない。

 2 もっとも、このような公訴がなされた場合に、公訴棄却判決を導くためには、訴因外の事実である未成年略取の事実についての主張立証を要することとなり、本判決が「訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきものではない」としていることとの整合性が問題となる。

 (1) 本判決は、共罰的事後行為である後行行為の所有権移転行為が起訴された事案についての判示である。この場合、先行行為の抵当権設定行為は、犯罪の成立を妨げる事情ではないため、当然に訴因外の事情を考慮するべきではない。

 (2) これに対して、親告罪の事案では、訴因外の事情が、検察官の訴追権濫用を基礎づける事実になる以上、裁判所は公訴棄却判決をするためには、訴因外の事情を考慮する必要がある点で、本判決と事案が異なる。

 (3) したがって、本判決の射程は親告罪には及ばず、訴因外の事情を考慮することができると考える[3]

以上

 

[1] 条解刑訴・494頁。

[2] 条解刑訴・494頁、中川・104頁。酒巻・221頁は訴訟経済という趣旨を述べておらず、専ら刑事政策的考慮のみをその趣旨としているように読める。

[3] もっとも、この点については、告訴権者の名誉を害する事実が明らかになるにもかかわらず、公訴棄却判決をすることが果たして妥当か、という疑問が呈されており、行為規範としては一部起訴を認めないものの、一部起訴がなされた以上は親告罪の趣旨から訴因外の主張立証はすべきでない、との見解が有力である。古江本・183頁参照。