解答例
第1 小問1[1]
1 原告の主張
(1) 国籍法12条は、出生地の内外によって国籍留保の有無について別異取扱いをしており、かかる別異取扱いは憲法14条1項に反するため違憲である、と主張する。
(2) まず、国籍法12条は、出生により外国の国籍を取得した日本国民で、かつ、国外で生まれた者に日本の国籍を留保する意思を表示しなければ日本国籍を喪失する旨定める。これは、出生地が日本国内かそうでないかによって複数国籍者の日本国籍の取扱いを異にしている。したがって、日本国内で出生した複数国籍者と国外で出生した複数国籍者との間で別異取扱いが認められる。
(3) かかる別異取扱いは正当化されない。
ア 国籍法違憲判決(最判平成20年6月4日。以下、「平成20年判決」という。)は、別異取扱いが①重要な法的地位に関わるものであること及び②自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄であることを理由に、立法目的の合理性及び具体的な区別と立法目的との間の合理的関連性について「慎重な検討」を要するとする[2]。
本件では、出生地が日本国内であるかそうでないかという問題は、本人自らの意思や努力では変えられない(②充足)。また、日本国籍は、日本において基本的人権の尊重、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位である(①充足)。そこで、平成20年判決の射程が及び、別異取扱いの合理性について慎重な検討を要する。
イ 国籍法12条の立法目的は、①実体を伴わない形骸化した日本国籍の発生をできる限り防止する②内国秩序等の観点からの弊害が指摘されている重国籍の発生をできる限り回避することにある。しかし、①については、なぜ形骸化した日本国籍の発生を防止しなければならないかの実質的根拠に欠け、目的の正当性に欠ける。また、②についても、国籍法14条が複数国籍の解消を本人の意思にゆだねていることからすれば、その立法目的の正当性が疑わしい。
また、仮に立法目的に正当性が認められるとしても、①との関係ではそもそも出生地が国外であることから、日本国籍が形骸化するとは直ちにいえず立法目的との間の合理的関連性が認められない。②との関係でも、重国籍の発生を回避するためであれば、日本国籍剥奪以外の方法で回避できるうえ、そもそも弊害が現実化した例も存在しないことからすれば、立法目的との間に合理的関連性は認められない。
ウ したがって、国籍法12条は憲法14条に反し違憲である。
2 被告の反論及び私見
(1) 第1に、被告としては、①平成20年判決は非嫡出子という「社会的身分」による別異取扱いであったのに対し、本件は出生地の内外にすぎない別異取扱いであること、②国籍法12条は、日本国籍の取得要件について区別しているにすぎず、日本国籍の取得が全く認められないものではないことから、平成20年判決の射程が及ばないと反論することが考えられる。
まず、原告主張のとおり両者とも本人の意思や努力によっては変えられない事柄である点で変わりはないので、①の反論は妥当でない。しかし、②の反論については、平成20年判決が、出生後に日本人父から認知された子は、準正されなければ帰化以外に日本国籍を取得する方法がなかったのに対し、本件では、留保の意思表示をすれば日本国籍を保持できるし、国籍の再取得も認められていることからすれば、本件区別は重要な法的地位に関わるものではなく、被告の反論は妥当である。そして、非嫡出子法定相続分違憲判決からすれば、重要な法的地位であるか否かが「慎重な検討」を要するかどうかにとって決定的であるといえるため[3]、平成20年判決の射程は及ばないと考える[4]。
(2) 第2に、被告としては、立法目的①について、国籍法2条1号、2号が血統主義を採用し、日本と密接な結びつきがあるものに日本国籍を付与していることからすれば、形骸化した日本国籍の発生を防止することには合理的な根拠があると反論することが考えられる。また、立法目的②についても、国籍法15条1項が法務大臣の国籍選択の催告を規定し、15条3項本文がそれに対して日本国籍の選択をしなければ日本国籍の喪失を規定していることからすれば、複数国籍の回避を必ずしも本人の意思に委ねられているわけではないと反論することが考えられる。
以上の点については、被告の反論が妥当であると考える。
(3) 第3に、被告としては、出生地が日本国外である場合には、そのまま日本国外で生活する可能性が高く、日本との密接な結びつきがないことが推認されるため、立法目的①との合理的関連性が認められると反論することが考えられる。また、重国籍を解消すれば、弊害のおそれが防止されることからすれば、立法目的②との合理的関連性自体は認められると反論することが考えられる。
まず、父母等の国籍留保の意思表示をもって当該子の日本との密接な結び付きが推認できる。また、その意思表示は原則として子の出生の日から3か月の期間内に出生の届出とともにするものとされるなど,父母等によるその意思表示の方法や期間にも配慮がされている。そして、上記の期間内にその意思表示がされなかった場合でも,国籍法17条1項及び3項において,日本に住所があれば20歳に達するまで法務大臣に対する届出により日本国籍を取得することができるものとされていることをも併せ考慮すれば,上記の区別の具体的内容は,前記の立法目的との関連において不合理なものとはいえない。したがって、被告の反論は妥当である。
(4) よって、国籍法12条は憲法14条1項に反せず合憲である。
第2 小問2
1 原告の主張
(1) 第1に、戸籍法104条1項は、「出生の日から3か月以内」に国籍留保の意思表示をしなければならない旨規定しているところ、3か月以内に国籍留保の意思表示をした者とそうでない者を合理的な理由なく別異取扱いをするものであり、かかる規定は上記立法目的との間に合理的関連性が認められないと主張する。
(2) 第2に、国籍法17条1項は、国籍の再取得を「日本に住所を有する者」に限定しているところ、日本居住者とそうでない者を合理的理由なく別異取扱いするものであり、かかる規定は上記立法目的との間に合理的関連性が認められないと主張する。
2 被告の反論及び私見
(1) 被告は、第1の主張に対しては、国籍法12条が合憲である以上、国籍留保の意思表示の猶予期間については、広範な立法裁量が認められると反論することが考えられる。
平等原則における問題の本質は区別することそれ自体であって、その程度ではない[5]。そこで、その程度が区別それ自体の合理性を欠くものと同視できるような規定でない限り、当該規定は憲法14条1項に反しないと考える。そして、戸籍法104条1項は、3か月という無理のない猶予期間を与えていることからすれば、その区別の程度は立法裁量の範囲内といえる。
したがって、被告の反論が妥当である。
(2) 被告は、第2の主張に対しては、国籍法12条が国籍取得について出生地の内外で区別することが合理的であるとされている以上、住居の内外によって国籍の再取得を区別することも合理性を有すると反論することが考えられる。
日本国籍の再取得についても、日本との結びつきの密接性の観点から、日本国内で居住していることを要件とすることは合理的関連性があるといえる。したがって、被告の反論が妥当である。
(3) よって、戸籍法104条1項及び国籍法17条1項も憲法14条1項に反せず合憲である。
以上
[1] 裁判例として、最判平成27年3月10日民集69巻2号265頁参照。参考文献として、射程・第5章(58頁以下)参照。
[2] 最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁参照。「日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。」。
[3] 小山作法[新版]・110頁参照。
[4] 平成27年判決が慎重な検討をしなかった実質的理由はこのあたりにあるのだと思われる。
[5] 宍戸・113頁参照。