法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成29年度(2017年度) 憲法 解答例

解答例

第1 小問1[1]

 1 Cとしては、本件入館拒否は、Xの情報摂取の自由を侵害し、21条1項に反して違法であると主張することが考えられる。

 (1) まず、情報摂取の自由は、表現の自由を保障した自己実現・自己統治の価値という趣旨・目的から、いわばその派生原理として21条1項により保障される(よど号新聞記事抹消事件判決参照)[2]。また、Xは外国人であるものの、情報摂取の自由はその権利の性質上外国人に認められないものではないため、Xにも憲法21条1項の保障が及ぶ。

 (2) そして、本件博物館は「公の施設」(地自法244条1項)であり、正当な理由がない限り住民の公の施設の利用を拒否してはならない以上(地自法244条2項)、本件入館拒否は情報摂取の自由の制約になる(泉佐野市民会館事件判決(以下「平成7年判決」という。)参照)。

 (3) そして、上記制約は正当化されない。

   ア Y町立くじらの博物館条例(以下「本件条例」という。)10条各号によれば、管理上支障があると認められるときには、入館を拒否することができる旨定められている。

上記自由は表現の自由という自己統治の価値が認められる重要な権利であり、かつ上記制約は、本件博物館への入館を拒否し、一切の情報の受領を認めないものであり、規制態様が強い。そこで、このような上記条文の解釈にあたっては、厳格に限定して解釈すべきであり、管理上の支障が現在かつ明白に生じている場合に限られると考える。

   イ 本件では、管理上の支障が現在かつ明白に生じているという事情は存在しない。

   ウ したがって、本件条例10条各号の要件充足性が認められない。

 2 Y町側の反論及び私見

(1) 第1に、Y町側としては、Xの上記自由は、積極的権利としての知る権利であり、本件入館拒否は、上記自由を制約していないと反論することが考えられる。しかし、本件博物館は、展示物等を教育的配慮のもとに一般公衆の利用に供することも目的としており、一般に開放されている(本件条例1条、3条)ため、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設たる「公の施設」にあたる。したがって、平成7年判決の射程が及び、Xの上記自由への制約が認められる。

 (2) 第2に、Y町側としては、Xは、将来訴訟を提起する可能性を考えて、証拠を保全する目的で本件博物館に再び訪れているのであり、本件博物館の本来の利用目的外の利用として、上記自由の制約が認められないと反論することが考えられる。しかし、客観的に入館申込みを行っていると認められる以上、展示物等から捕鯨について学ぼうとする動機をXが全く有していなかったとまでは認めることはできない。

 (3) 第3に、Y町側としては、制約認定においては平成7年判決の射程が及ぶとしても、①集会の自由と情報摂取の自由ではその重要性が異なること②本件条例10条各号は管理上の支障から入館拒否を認める規定であり、公共の秩序維持目的ではないこと③入館許否の判断には時間的猶予がないこと等において本件事例とへ伊勢7年判決では事案が異なる以上、同判決と同程度の厳格な限定解釈までは認められないと反論することが考えられ、この点については被告の反論が妥当であると考える。

    そこで、本件条例10条各号については、管理上の支障が生じる相当の蓋然性が認められる場合をいうと考える。

    もっとも、本件では本件入館拒否の段階では、大型の機材を用いたカメラ撮影や取材を行う予定はなかったはずであるし、かつそのような機材を持っていたという事情もないことからすれば、Xの入館が、本件博物館の管理上の支障が生じる相当の蓋然性があるとまではいえないといえる。

したがって、被告の反論のとおり解釈したとしても、Xに本件条例10条各号該当性は認められない。

 (4) 以上より、本件入館拒否は、憲法21条1項に反し、違法である。

第2 小問2

 1 第1に、Cとしては、本件入館拒否は、外国人たるXと日本国民である者とを不当に差別するものであり、憲法14条1項に反し、違法であると主張する。第2に、捕鯨反対という思想を有する者とそうでない者とを不当に差別するものであり、憲法14条1項に反し、違法であると主張する。

 (1) 本件プラカードは英語で大きく「捕鯨反対の方は博物館には入館できません」という旨の本件プラカードを作成していたのであり、外国人を狙い撃ちしたものである。そして、かかる別異取扱いに、捕鯨反対派による迷惑行為防止という目的との間に合理的関連性は認められない。

 (2) 本件プラカードには、上述の内容が記載されており、捕鯨反対派であることを理由に入館を一切拒否する内容である以上、捕鯨反対派とそうでない者との間に別異取扱いが認められる。そして、捕鯨反対派であることのみを理由に一律に入館を拒否することは、本件博物館内における迷惑行為防止という目的との関係で合理的関連性が認められない。

 2 Y町側の反論及び私見

(1) Y町側としては、Xの第1の主張に対し、本件プラカードの英語表記が大きいことだけを理由に、外国人とそうでない者との間の別異取扱いは認められないと反論することが考えられる。実際、館長Aは、X が前回本件博物館でカメラ撮影及び取材を行った本件団体の一員であると認識したために、入館チケットの販売を拒否したにすぎないことからすれば、本件入館拒否に上記別異取扱いは認められない。

(2)  Y町側としては、Xの第2の主張に対し、本件プラカードは過激な反捕鯨団体に提示する目的で上記内容を記載しているにすぎず、実際の運用上、捕鯨反対派を一律に入館拒否するものではなく、捕鯨反対派とそうでない者との間の別異取扱いは認められないと反論することが考えられる。前述のとおり、館長Aの本件入館拒否の理由は、Xが前回本件博物館内で迷惑行為をしたことにある上、本件プラカードはXが本件団体の一員であると認識した後に提示している。したがって、本件入館拒否に上記別異取扱いは認められない。

(3) 以上より、憲法14条1項違反は認められない。

以上

 

[1] 裁判例として、和歌山地判平成28年3月25日判例集未登載参照。また、参考文献として、井上武史「演習」法学教室438号・120頁(2017年)、射程・第11章(120頁以下)参照。

[2] 最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁参照。「およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法一九条の規定や、表現の自由を保障した憲法二一条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれる」。