法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成28年度(2016年度) 民法 解答例

解答例

第1 設問1小問1

 1 DはBCに対して所有権(206条)に基づいて甲建物明渡請求をすることが考えられる。

 2 本件BD売買は、AからBに代理権授与がないため、後述の日常家事にあたらない限り、無権代理(113条1項)となる。Aの追認(116条)もないため、本人に効果帰属しない。もっとも、承継人BCが追認することが考えられる。

(1) Cの追認がある場合

  かかる場合、追認権はその性質上共同相続人に不可分に帰属するため、Bの追認がない限り、無権代理行為はCの相続分においても有効にはならない[1]

  もっとも、無権代理人が本人を相続した場合に追認を拒絶するのは矛盾挙動であり、信義則(1条2項)に反する[2]。したがって、他の共同相続人Cが追認している以上、Bも追認をしなければならない。

  したがって、かかる場合には、BD売買は有効になる。

 (2) Cの追認がない場合

    かかる場合、Cの相続分については当然にCに帰属する。また、前述のとおり追認権は共同相続人に不可分に帰属するため、共同相続人全員の追認がない限り、Bの相続分においても無権代理が有効にはならない。

    したがって、Cの追認がない場合、Bの追認拒絶が信義則に反するとしても、Bの相続分においても無権代理は有効にならない。

 3 次に、Dは、本件BD売買が日常家事代理(761条)として、有権代理になると主張することが考えられる。

 (1)  同条は、連帯債務という効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと考える。そこで、「日常の家事」に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為をいう[3]

 (2) 本件では、ABCの3人が居住している甲建物をBがAの代理人として売却しているが、建物という高価な目的物である点、自らも居住している建物である点にかんがみれば、かかる売買がAB夫婦の共同生活に必要な法律行為とはいえない。

 (3) したがって、「日常の家事」に関する法律行為とはいえない。

 4 もっとも、本件売買が、日常家事代理を基本代理権とした表見代理(110条)として有効にならないか。

 (1) まず、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがある以上、110条の直接適用は認められない。しかし、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当のあるときにかぎり、110条の趣旨を類推適用し、有権代理になると考える[4]

 (2) 本件では、Dにとって、Bの甲建物の売却が日常家事にあたると信じたことについて正当な理由があるといえるだけの事情はない。

 (3) したがって、有権代理とはならない。

 5 以上より、CがBD売買を追認している場合に限り、Dの請求は認められる。

第2 設問1小問2

 1 Dは前述と同様にBCに対して甲建物明渡請求をする。

 (1) まず、BD売買は他人物売買であるため、Dに甲建物所有権が帰属しないのが原則である。

 (2) もっとも、DはB名義の所有権移転登記という虚偽の外観を信頼して取引関係に入っているところ、94条2項によって保護されないか。

   ア まず、AB間では虚偽表示(94条1項)について通謀していたわけではないため、94条2項を直接適用できない。

   イ しかし、それではDの取引の安全が害される。

   (ア) そもそも94条2項の趣旨は、虚偽の外観を作出した本人の犠牲のもとに、かかる外観を信頼した第三者を保護する権利外観法理にある。

     そこで、①虚偽の外観②外観作出につき本人の帰責性③第三者の信頼があれば、94条2項類推適用が認められると考える。そして、②帰責性について、本人に不実の登記の認識がなくとも、自ら外観作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど帰責性が重い場合には、94条2項、110条の類推適用により、第三者は保護されると考える[5]

   (イ) 本件では、虚偽の外観が存在することは前述のとおりである(①充足)。もっとも、本人Aは虚偽の外観について認識がない。また、自ら外観作出に積極的に関与した場合のような重い帰責性があるともいえない(②不充足)。

   (ウ) したがって、本件では94条2項、110条は類推適用されない。

(3) よって、Dのかかる請求は認められない。

第3 設問2小問1

 1 BはAに対して借地借家法32条1項に基づく賃料減額請求をすることが考えられる。これに対して、Aは、AB賃貸借契約に際して「Bは賃料の減額を求めない」旨の特約をしており、かかる請求は認められないと反論することが考えられる。

 (1) 借地借家法32条1項は、契約締結後における将来の事情が生じた場合に、賃料を相当価格なものに維持するために規定されたものである。また、同条但し書は賃料増額請求については特約を認めるが、賃料減額請求については同様の規定をしていない。これは賃借人保護の観点から、賃料減額請求は特約によって排除されない趣旨と考える。

   そこで、32条1項は強行法規であり、当事者は特約によって賃料減額請求を排除することができない。

(2) したがって、本件ではAのかかる反論は主張自体失当である。

(3) よって、Bのかかる請求は認められる。

2 もっとも、AB賃貸借は契約当初から転貸を予定して、不動産業者であるBにその運用を任せるといういわゆるサブリース契約であるところ、Aのみが転借人が見つからないことによる不測の損害を負うことになって妥当でない[6]とも思える。

  しかし、この点については賃料減額請求の当否および相当賃料額の判断において考慮することによって実質的公平を図りうるし、また、信義則や不法行為によっても対応可能であり、不都合はないと考える[7]

第4 設問2小問2

 1 AはCに対して所有権に基づく甲建物明渡請求をすることが考えられる。

 2 AはBと賃貸借契約を解除しているが、かかる効果を転借人Cに対しても対抗できるか。

  (1) 転貸借契約は賃貸借契約を前提にしてなされるものであるから、転借人は賃貸借契約の帰趨について甘受しなければならない。

そこで、賃貸借契約の債務不履行解除については、賃貸人は転借人に対抗することができると考える。

(2) 本件では、AB賃貸借解除はBの賃料不払いという債務不履行に基づくものである。したがって、債務不履行解除にあたる。

(3) よって、Aは、Cらに対して原則として賃貸借契約終了の効果を対抗できる。

 3 もっとも、AB賃貸借は前述のとおりサブリース契約であり、Aは、Bがアパートの運営をすることによって賃借人から安定的に収益を受ける地位にいる。また、賃貸借契約当初から転貸借を予定しており、AはBC転貸借について積極的に関与していたといえる。そうだとすれば、賃貸借契約の終了を転借人に対抗できるとするのは信義則に反する[8]

   したがって、本件では、例外的にAはCらに対して賃貸借契約終了の効果を対抗できないと考える。

 4 以上より、Aのかかる請求は認められない。

 

[1] 最判平5・1・21参照。

[2] 最判昭40・6・18参照。

[3] 最判昭44・12・18参照。「その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。」

[4] 最判昭44・12・18参照。

[5] 最判平18・2・23参照。94条2項、110条類推適用型。

[6] 出題趣旨の「Bのみがリスクを負うのが妥当かを検討」は、「Aのみがリスクを負うのが妥当かを検討」の誤植と思われる。

[7]最判平15・10・21藤田裁判官補足意見参照。サブリース契約における賃料減額請求否定説をとらなくとも実質的公平は維持できるとの指摘がある。

[8] 最判平14・3・28参照。「本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができる」。本判例はサブリース契約の更新拒絶の事案であるが、債務不履行解除にも判例の射程が及ぶと考える。